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January 19, 2006
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カテゴリ: 教授の読書日記



既に絶版になっていたこの本、インターネット上の古書検索サイト「日本の古本屋」を通じて買い求めたんです。オリジナルが780円のところ、送料込み1210円。ほとんど新本と言ってよいような美本でしたので、まあ我慢どころですな。

で、読んでみた感想ですけど、うーん、そうですね。もう抜群に面白くて、会う人ごとにお薦めしたい! というほどではなかったかな・・・。じゃ面白くないのかというと、そんなことはなく、陶器とか、骨董とか、そういうことに興味がある人にとっては、それなりに面白いことは面白いと思います。

たとえば、冒頭に「かけら」、なんていうエッセイがある。これ、青柳さんが子供の時、土瓶の蓋に紐をかけて独楽として遊んだというエピソードから始まって、様々な方向に話が変奏していくエッセイなんですが、昼間のうちは独楽として散々遊んだ土瓶の蓋を、夜、今度はコレクションとしてずらりと並べ、これらを愛玩し弄んだ、というようなことが書いてある。夜、陶器の断片をうっとりと眺め、撫でさする子供! なんて言うとちょっとシュールな感じもしますが、よく考えてみると私も、いや、誰にせよ子供の時にそれに近いことをしていたような気もしてきます。ま、とにかく青柳さんの陶器との関わりの原点がここにあるわけですね。そしてそういう陶器の一部分を愛玩する趣味が嵩じたのか、長じてからの青柳さんは「かけら」の美に気づいていく。以下、そのあたりの一節:

「それが完備した形体を具えていると、私たちはともすれば形体の美しさに幻惑されて、その『質』に心をひそめる余裕をかく恨みがある。その意味では、破片の方がかえって周囲にわずらわされることなしに、質そのものを見究めやすい場合が多い。すぐれた質を持っている破片なら、かならず美しい形体を具えていたにちがいない。既得した知識によって、私たちは小さな破片から全体を復原して考えることも可能である。そして、これは一種の知的快楽でさえあるのだ。」(11頁)

そして、ここからさらに話は展開し、文学の話題に飛躍します。たとえば(『悪の華』のような)一冊の優れた詩集の中の一つの詩、あるいはその詩の中の一節、そういう詩の「かけら」も、時に「私たちのかつて予期しなかったほどの美感を起こせることがある」、というわけ。「それらは石ころの間でチカチカ光っているガラスのかけらのように遠くからでもよく見ることが出来るのだ。」(12頁)

本書冒頭に掲げられたこの「かけら」というエッセイは、まさにこの本全体の見取り図のようになっています。京都や奈良の寺院や博物館に収蔵された立派な芸術作品の群の中にではなく、文化から遠く離れた片田舎の家の土蔵や、朽ち果てた神社仏閣、あるいはどこかの遺跡から出土したがらくたの間に、ときとしてチカチカと見るものの目を射る「かけら」のような骨董が出ることがある。そういうものこそ青柳さんの好みであり、それを彼は長い年月をかけて発掘し、また発掘したものを愛玩してきた。この本は、そういう等身大の骨董との出会いを綴ったものなんです。特に最後を飾る「ささやかな日本発掘」というエッセイは圧巻です。

もちろん、本書は骨董を扱ったエッセイばかりが載っているのではありません。父からの遺品の万年筆の話とか、フクロウを飼った話とか、そういう身辺雑記のようなエッセイもあります。しかし、そういうものも含め、すべての文章が、身近なところに打ち捨てられた美のかけらを拾い出し、慈しむような感性で綴られていると言っていいのではないかと思います。またその文章がとてもいいんです。親しみやすく滑らかな、それこそ土瓶の蓋のような文章だと言ったら、青柳さんも喜んで下さるかも知れません。

それから本書のおしまいのところに、高山鉄男さんが書かれた解説がついているのですが、この解説もなかなか良くて、これを読むと青柳さんがどういう生涯を送った人か大体分かるようになっている。で、これで知ったのですが、青柳さんというのは慶應義塾の仏文で教えていたんですね。前に「たしか早稲田の先生で・・・」なんて書きましたけど、訂正します。それから青柳さんは相当な愛妻家だったようで、「火宅の人だ」なんてご紹介したことも現段階では一応、訂正しておきます。青柳さんのお顔を映した写真も一葉載っていましたが、これがまた穏やかないいお顔で、「火宅の人」のイメージと相容れないこと甚だしい。一体私はどこでそんな情報を小耳に挟んだものやら・・・。



ところで、この本を読んでますます骨董に興味が出てきた私が次に狙っている本は、コピーライターの仲畑貴志さんの書いた『この骨董があなたです』(講談社文庫)です。ま、あんまり深入りしない程度に、しばらくこの方面の本を楽しむことにするつもりです。





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Last updated  January 19, 2006 05:32:54 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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