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June 28, 2006
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カテゴリ: 教授の読書日記



 ま、この種のハードボイルド小説の常というのか、この小説においては主人公自身が語り手でもあるので、詳しい状況説明もないまま、小説の冒頭からいきなり読者は主人公のアクションに付き合わされることになります。小説の出だしのところで探偵マーロウは、派手な服を着た大男マロイがとある酒場を襲い、経営者の首を軽くねじって殺してしまう場面にたまたま遭遇してしまうんですな。どうもこの大男は、かつて自分が愛した女に警察にたれ込まれ、8年ほど刑務所暮らしを強いられていたらしい。で、ようやく出所したマロイは、自分を警察に売った女を捜し出すべく、かつて彼女が歌姫だったこの酒場を訪れた、というわけ。しかし手がかりを掴めなかった彼は、呆然とするマーロウをその場に残したまま、どこかへ消えてしまいます。

 で、この直後、マーロウは「マリオット」と名乗る男から妙な依頼を受けるんですね。この男、金満家を夫に持つ「グレイル夫人」という女性のヒモの一人のようなんですが、この夫人の依頼で、ある強盗団に盗まれた高価な宝石を、内々に買い戻す役目を果たすことになっていたのですが、その強盗との駆け引きに際してのボディガードとして、マーロウは雇われた、というわけ。かくしてマリオットとマーロウは、強盗団に指定された取引場所に向かうのですが、その場で何者かの手によりマーロウはぶちのめされ、肝心のマリオットは惨殺されてしまう・・・。

 とまあこんな感じで、偶然・必然の両面からマーロウが遭遇した二つの事件が、この後の成りゆきの中で、実は互いに密接に関連していた、ということが明らかになっていくわけですよ。そして、その中で、自分を警察に売った女を、それでもまだ愛している純真・無骨な男と、自己の出世のためには手段を選ばぬ、そんな冷酷かつ小心な女の物語が、マーロウの冷めた、しかし熱い視点から描かれていくわけです。ハードボイルドですなあ・・・。

 ま、イギリス流の推理小説とは違って、アメリカ流の探偵小説ってのは、推理がどうの、謎解きがどうのということは、あまり問題にはならないんでしょうな。ただ主人公の探偵が次々と不可思議な情況に放り込まれ、そこを切り抜けていく、そのスピード感を楽しめばいい。そしてその中に、「哀れな男」と「愚かな女」の組み合わせが醸し出す、切なくも快いクリシェを見てとればいいのでしょう。あとはチャンドラーの文体、というか、文彩ですね。そいつを楽しめばいい。ま、『さらば愛しき女よ』って小説も、大体そんな感じです。それなりに面白かったですよ。

 さて、そんなこんなで、とりあえずハードボイルド小説を堪能した私が次に選んだアメリカ大衆小説は何かと言いますと、『ケイン号の叛乱』でお馴染み、ハーマン・ウォークという作家が書いた『Marjorie Morningstar』でございます。

 これ、1955年の作品で、私の持っている版で560ページもある分厚い小説ですけど、当時数百万部を売り尽くしたミリオンセラーです。表題の『マージョリー・モーニングスター』というのは、主人公の女の子の名前(元々はマージョリー・モルゲンスターンというユダヤ系の名前なんですが、その名前があまりパッとしないということで、ドイツ語風の名前を英語に直訳し、モーニングスターに変えたわけ)で、この女の子が思春期を迎えた頃から、その成長をたどっていくビルドゥングスロマンなんです。

 で、数日前からこいつを読み始めたんですけど、かなり面白いです。

 ニューヨークはブロンクスの下層中流階級であるモルゲンスターン家が、小金を貯めてマンハッタンのウェストサイドに居を構え、上層中流階級の仲間入りを果たしたところから物語は始まるんです。で、マージョリーにはブロンクス時代から付き合っている恋人がいるんですが、一家の社会的階層の上昇に伴い、これが段々うとましくなってくるわけ。今やコロンビア大学辺りの大学生とつきあえる身分になってみると、先行き出世の怪しいブロンクス時代の恋人にいつまでもかかわっていても・・・という気になってきたんですな。といって、マージョリーは決して性根の悪い女ではなく、ただ、自分の前に開けてきた新しい世界を見てしまった今、過去に引きずられて自分の可能性をつぶすのはもったいないのではないか、という思いがし始めただけなんですけど、さてさて、この先、マージョリーはいかなる人生を選択していくのか。まだ読み始めたばかりなので、先のことは全然分からないんですが、とにかく、なかなか面白そうな小説です。



 渡部さんは、日本でも有数の英語の使い手ですが、この本によりますと、その彼が若い時、英語の小説をいくら読んでもその面白みが分からなかった、というんですな。いや、もちろん面白いことは面白いのですが、かつて子供の頃に日本の講談本を読んで血湧き肉踊る興奮を覚えた、そういう真の面白さを感じたことがなかった。で、そんなふうに心の底から面白いと思えないのは、きっと英語の小説だからというので気合いが入り過ぎ、いわゆる「歴史的名作」ばかりを読んでいるからではないか、と渡部さんは思うんですね。で、その時から、彼は大衆的なベストセラーを読み始めるのですが、その何冊目かの時にこの『マージョリー・モーニングスター』にぶつかり、これを読んで初めて、渡部さんは心の底から英語の小説が面白いと思えるようになった、というんです。

 で、これ以降、英語の小説なんか恐くない、という自信を渡部さんは得た、と。

 とまあ、そんなエピソードを覚えていたので、ひょっとして同じ事が私にも起こるかなと思って、私もこの電話帳みたいな分厚い本に手を伸ばしてみたわけですよ。

 ま、もちろんまだ読み始めたばかりですから何とも言えませんが、とにかく面白いことは面白いので、今は閑さえあればこいつのページをめくっています。ひょっとしたら、この小説を通じて、私も英文小説を読みふける楽しさの神髄に、遅蒔きながら触れてしまうかも・・・。いずれまた読了したら、内容をご紹介しますね。

 ところで、今、渡部昇一さんの『知的生活の方法』について言及しましたが、もうこの本が出版されたのも随分昔(1976年)のことになりましたから、今では読んだことのない人が多いのだろうと思います。でも、先日久しぶりに読み直したところ、改めて面白い本だと思いましたよ。もちろん、書かれた時代がちょうど30年前ですから、内容的に古い箇所も多いのですが、それでも渡部昇一さんが苦学して英語の達人となり、また様々な分野で業績を出すようになるまでの軌跡が、ある意味「赤裸々」に書かれていますからね。

 ま、いかに自分が頑張って勉強し、偉くなったか、なんてことを書かれると、当然、それ相応に「嫌味」な部分も出てきますし、またそういうことを得々として語ってしまう渡部さんの無邪気さに呆れたりもするわけですが、しかし、「知的生活の方法」なるものを伝授しようというのに、そういう実際の(嫌味な)体験談抜きで、純粋に技術論として語った本なんて、つまらないと思いますよ、逆に。ある程度「臭い」ところがあっても、そういう人間としての渡部昇一の素が出ているという点で、私は類書の中で、依然としてこの本はいい線を行っていると思います。

 というわけで、「知的生活」なーんてこっ恥ずかしいモノがしたい方、あるいはコワイモノ見たさで渡部昇一さんの若かりし日々に興味のある方、チャンドラーの翻訳とあわせ、『知的生活の方法』もおすすめしちゃいます。


これこれ!
 ↓
知的生活の方法
知的生活の方法

さらば愛しき女よ
さらば愛しき女よ





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Last updated  June 28, 2006 03:29:43 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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