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July 29, 2006
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カテゴリ: 教授の読書日記



で、そんな中、今日読み終わったのは松尾理也(まつお・みちや)著『ルート66をゆく アメリカの「保守」を訪ねて』(新潮新書)という本。軽い新書版の本だし、気楽に読める本なんですが、案外その内容が面白くて、感心しながら一気に読み切ってしまいました。うちのゼミの学生にはぜひ薦めたい本ですし、一般の方が読んでも面白くてタメになる本じゃないかと思います。

表題が『ルート66をゆく』ですから、かのルート66、つまりアメリカ中西部の町シカゴから太平洋岸のサンタモニカまで続く大陸横断道、テレビドラマにもなって日本でもお馴染みの、あの街道についての本かと思いきや、必ずしもそうでもないんですな。それより、ルート66が通っているアメリカ内陸部、つまりアメリカの「ハートランド」にあたる諸州の町々を筆者の松尾さんが訪ねながら、そこに住む人々の本音、すなわち「アメリカ保守派」と呼ばれる人々の考え方を捉えてみよう、という試みなんです。

で、これを読むと、私を含め、大概の日本人が、アメリカの「保守」の人々の考え方を誤解していることがよく分かりますよ。

普通、日本人がアメリカ人の政治的心情について多少とも知識を得られるのは、大統領戦の時ですよね。で、なーんとなく「民主党=リベラル=都会人が支持者=理性的」、「共和党=保守=ハートランドの住人が支持者=無知蒙昧」という単純な図式で捉えてしまいがちです。ま、正直、私もそんな感じに思っていたことを白状しなくてはなりますまい。つまりブッシュ大統領は、アメリカの田舎に住んでいて、世界情勢の何たるかもまるで分かってない、無知な、そしてガチガチの国粋主義者である人々に支持されているんだろう、と思っていたわけ。

しかし、それはぜーんぜん違うみたいですな。

理由は簡単で、保守派の人々に言わせれば、ブッシュはぜんぜん保守派じゃない、ということになるからです。保守と共和党というのは、まったく別なカテゴリーに属する考え方なんですね。

例えば保守というのは、「小さな政府」を理想とします。それに対して共和党ブッシュの政策は典型的な「大きな政府」主義だ、というわけ。進化論を教えるかどうか、といった問題に対する連邦政府の介入の支持、外交においてやたらに他国政府に介入するグローバリズムなど、ブッシュの政策は、保守派の考え方とは真っ向から対立するのだそうです。唯一、保守派がブッシュを支持するのは、社会保障政策において、自助努力を促す方向に変えようとしていることだけ、なんだとか。

もう少し具体的な例を挙げましょう。たとえば教育問題。登校拒否児童のために家庭で教育を受ける「ホームスクール」を制度化しよう、なんていう場合、日本ではこれは「リベラル」な考え方だと思われますよね。ところがアメリカでは、ホームスクール容認は保守派の考え方です。教育のような個人的な問題に(連邦)政府が口を挟むのはよろしくない、ということですから。ね、「あ、そうか!」と思うでしょ? 保守派の理想とする「小さな政府」というのは、そういうことなわけですよ。



それから、不法移民の問題について。今、アメリカではメキシコから不法に入国してくるスパニッシュ系移民への対応が社会問題となっていて、彼らを追い返す「自警団」みたいなのまで組織されるようになり、その是非が問われているみたいなのですが、「不法移民を追い返せ!」というのが保守派の考え方なんです。と、言いますと、「ほら、やっぱり、保守派は血も涙もない石頭じゃ!」と思うでしょ?

でも、そうじゃないんです。保守派に言わせると、「かつてアメリカは黒人奴隷という過ちを犯し、彼らの労働力を不当に搾取してきた。アメリカは今また、不法移民をその弱みにつけこんで不当に搾取しようとしている。それは良くない」という言い分なんですな。もちろん、それは単なる「言い分」で、本音は別なところにあるんだろ、という指摘もできるでしょうが、しかし、保守派=人種差別主義者、というような認識では、保守派の考え方は理解できない、ということは言えるでしょう。彼らには彼らの理論武装があるんです。

また、アメリカが抱えている状況を日本に置き換えてみて、もしお隣の国々から言葉も文化も違う人々が何万人という規模で日本に不法に上陸してきて勝手に住み始めたら、やっぱり困りますよね。だから、アメリカ保守派の人々の言うことは、実際問題として妥当だ、という見方だってできなくもない。

ちなみに、ブッシュ大統領は、意外なことにスパニッシュ系移民に寛容で、その点でも保守派はブッシュに我慢がならない、というところがあるようです。ブッシュ大統領って、スペイン語が話せるって、ご存じでした? (「英語もまともに話せない」とよく言われるブッシュさんにしては)ちょっと意外・・・。

じゃ、保守派の人々にとって誰が理想の大統領かというと、やっぱりレーガン大統領なんですって。彼は徹頭徹尾、「小さな政府」を実現しようとし、その信念が揺らがなかったから。また、かつてのアラバマ州知事、故ジョージ・ウォレスなんてのも、保守派のアイドルの一人らしい。ジョージ・ウォレスというと、60年代の公民権運動の中で、黒人の公立白人大学進学を阻止しようとした人種差別主義者というイメージが強いですが、連邦政府に楯突いて州の権利を守ろうとした、というところに、保守派の心を捉える部分があるらしい。

ま、上に述べてきたようなことも含め、一番間違えてはいけないのは、アメリカにおいて「保守派」というのは、「反体制」だ、ということですね。「保守」という名前なんだから体制側だろうと考えるのは大間違い。保守派は、あくまで反体制の改革派なんです。だからこそ、政治に参画して社会を変えよう、アメリカの国是の建て直しを図ろう、なんて考える論客たちが、保守派の理論武装をしているわけですよ。保守派=田舎者のお馬鹿さん、というのは、まったくの誤解なんですな。

とにかく、この『ルート66をゆく』という本を読むと、アメリカ保守派というのが何を意味するのか、アメリカが今、どういう状態なのか、ということが非常によく分かるし、日本人がアメリカに対して抱いている各種の誤解を解くような話がぼろぼろ出てくる。それでいて、ぜんぜん難しい本ではなく、とても気楽な、楽しい読み物にもなっているんです。これは大したもんだと思います。

ということで、松尾理也著『ルート66をゆく』という本、教授のおすすめ!です。アメリカという国について、目からウロコを落したい方は是非!


これこれ!

ルート66をゆく
ルート66をゆく







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Last updated  July 29, 2006 06:18:05 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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