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August 10, 2006
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「サンキューらーめん」という名のその屋台のラーメンは、鶏と魚でとったと思しき透明・白色のスープに細目のストレート麺、それにトロトロに煮込んだチャーシューにシナチクが乗り、あとは刻んだネギに海苔が一枚というシンプルなもの。味はさっぱり系で、なかなかおいしかったですよ。15席ほどの屋台ですが、お客さんが途絶えないのも頷けます。基本となるラーメンがおいしかったので、次は上級者編で「台湾ラーメン」をいただいて見ようかな。

ただ本当のことを言いますと、私としてはもっとシンプルな「醤油ラーメン」を期待していたので、その点では期待外れではありました。しかし、今日、シンプルな醤油ラーメンほど得難いものはなく、近所に新しいラーメン店が出来たとしても、たいていは「豚骨系」白濁ラーメンの店なんですよね。子供の頃、町の小さな中華料理店で出していたような、ごく普通の醤油ラーメンが食べたいという私の願いは、なかなか叶う日が来ません。

ちなみに名古屋の北西、一宮にある「一喜」という小さな中華料理店では、私が恋い焦がれる類の、昔ながらの醤油ラーメンを食わせてくれるのですが、そこまで行くのが大変なので、もう10年くらい行ってない・・・。かつてその店に家内と共に訪れ、醤油ラーメンに味噌チャーハン、焼き餃子に瓶入りのコカコーラを注文して、それら全部合わせて1000円でお釣りがきたのに驚いたことを覚えていますが、出てきた料理のどれもがまた絶品でね。まさしく、こういう店こそ理想の中華料理屋なんですけどねぇ・・・。


さて、帰宅してから食休みに本を読み、読みかけだった島崎藤村の『千曲川のスケッチ』を読み切ってしまいました。高校生の課題図書じゃあるまいし、なんでそんなものを読んでいるのかと言いますと、私としてはこれ、「山のエッセイ」を読んでいるつもりだったんです。数年前から私は、夏休み中に少なくとも一冊、山や登山にまつわるエッセイを読むことにしているのですが、今年は何を読もうかと思い惑い、たまたま目についたこの本をパラパラとめくって、藤村が小諸に籠もっていた時期のエッセイなんだから、山のエッセイに違いはあるまい、と思ってしまったんですな。それでこの歳になって未読だったこの藤村の本を読む気になったわけ。

ま、有名な本ですから既に読まれている方も多いと思いますが、『若菜集』を皮切りに次々と優れた詩集を出し、新進の詩人として売り出し中だった藤村が、一旦詩を諦め、そこから散文小説に手を染めようとしていた、その移行期に書いた散文エッセイです。ま、今読むとまったく何のこともない散文ですが、まだ言文一致の大革命の途上にあった当時の日本の言語状況の中で、ここまで完成された口語による散文作品というのはこれが初めてであるとも言われ、その意味で時代を画する散文文学の傑作、ということができるのだとか。

エッセイとしては、要するに信州・小諸というところにある学校(小諸義塾)に国語の教師として赴任した島崎藤村が、同僚やら地元の人との付き合いの中で次第に北信州の土地柄・風俗に親しんでいく様子を描いたもので、梅と桜と桃が一斉に咲き出す信州の遅い春のことから書き始め、季節の進行に従って夏・秋・冬のことに話がおよび、最後に次の春が来たところで締めくくられます。「小諸の四季」ってところですね。

で、読んでいて感銘を受けるのは、やはり小諸やその周辺の人々の厳しい暮らしぶりと、素朴な人柄です。このエッセイが書かれたのは1899年と言いますから、今からわずか100年程しか違わないわけですけど、100年前の日本ってのは、今とはまったく別世界ですな。

まず100年前の日本っちゅーのは、基本的に地方と地方の間に流動性がない。人がもし北信州に生まれたのだとしたら、その人はそこで生き、そこで死ぬしかないわけですよ。ですから、いかにその土地が痩せていて、また寒さの厳しい土地であったとしても、そこに齧りついて暮らしていかなければならない。事実、藤村が描く小諸の人々の激しい労働のさまは、すごいもんです。上州なんかと比べると格段に地味の薄い北信州では、それだけ必死に家族総出で田畑を耕さないと、とても食べていけないんですな。大人も子供も必死で働いている。



で、そんなものの集合体として、その土地固有の風俗が生まれ、またそこに生きる人々特有の人柄が生まれていくんですな。だからこそ、他所から来た藤村のような観察者からすれば、小諸の風俗やそこに住む人々の人柄が新奇なものとして目に映り、面白くて仕方がないし、また逆に小諸の素朴な人々も、他所から来た珍しい客人として藤村を厚くもてなしてくれる。そういう地元の人と他所者との間の「つかず離れず」といった付き合いの中から、この名エッセイが生まれたということなんですな。

それにしても、私にとって特に印象深かったのは、小諸の人々の言葉遣いですね。朴訥ではあるんですが、穏やかで、丁寧で、礼にかなっている。そしてそれはもちろん、彼らの人との接し方にも当てはまることなんですな。それは読んでいて、非常に気持ちがいい。

はあ~。昔の日本人は、こういう言葉で話し、こういうふうに人に対していたんですなあ。小林秀雄じゃないけれど、本当に昔の日本人は、「人間の形」をしていましたよ。今の日本人は、本当に人間なのか、疑わしいのが多いですからね。親は子を殺すは、子は親を殺すは・・・。

ま、それはともかく、藤村の、というか、日本人の口語散文に対する初挑戦、私はそれなりに楽しんで読みましたけれど、私の望んでいた「山のエッセイ」としてどうかと言うと、ちょっと物足りないところがありましたかね。これはあくまで「人についてのエッセイ」でしたな。

でもねー。山や登山についてのエッセイって、あることは沢山あるんですが、私の心にぴったり来るようなものとなると、案外少ないんですよね。たとえば深田久彌のエッセイなんて、有名だしいいのかと思ったら、そうでもなかった。串田孫一、尾崎喜八クラスのエッセイが書ける人って、そうはいないんですよね。

ということで、もしどなたか、「この人の山のエッセイはいいよ!」っていうのをご存じでしたら、ご教示下さーい。





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Last updated  August 10, 2006 10:04:55 AM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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