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September 3, 2011
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カテゴリ: 教授の読書日記



 この本の中には1957年から1998年まで、40年以上の間に行われた28本のマイルスへのインタビューが収録されています。で、それぞれの記事に継続性というか、関連性があるわけではないので、内容面から言うと、重複する部分が結構ある。それぞれのインタビュアーがマイルスに同じようなことを尋ね、同じような回答を得る、というような部分があるわけですな。

 それに一本一本のインタビューは、短時間になされ、短時間でまとめられたものですから、一冊の本として見た場合、すごく深いことが書いてあるわけではありません。そういうことを期待してこの本を読んではいけない。

 ただ、そこはそれ、稀代のジャズマン、ジャズの歴史を何度も塗り替えてきた伝説のトランぺッターですから、マイルスの発する一言一言には、味わうべき滋味がある。それをつまみ食いのように拾いあげながら読む、というのが、この本の正しい読み方なのではないかと。

 で、そういう風に読めば、面白いことが一杯ある。

 例えば、気難しい人のように思われがちなマイルスですが、実はすごく優しい人で、特に自分のバンドのメンバーをものすごくリスペクトしている。もちろん、自分のバンドに入れる以上、慎重に吟味しているのでしょうけれども、かつて自分のバンドに在籍したビル・エヴァンスや、ハービー・ハンコック、チック・コリア、レッド・ガーランド、ジョン・コルトレーン、ソニー・ロリンズなどについて、彼らをものすごく高く評価するコメントをあちこちで出している。

 アレンジャーとして何度も一緒に仕事をしたギル・エヴァンスへの高い評価と、彼のことについて語る時のマイルスの優しい言葉遣いとか、痺れます。

 それから、彼の「常に前進しよう」という強い意志。これが素晴らしい。いくらインタビュアーたちがマイルスの過去の作品、たとえば『カインド・オブ・ブルー』などの傑作に水を向けようとしても、「あんなのは昔の作品だ」と一喝、常にこれから作ろうとしている音楽のことだけ話そうとする。こういうことも、凡人にはなかなかできることではないでしょう。



 またマイルスの意外な側面としては、彼が料理をする人で、その腕前もものすごく高かったということ。バンドのメンバーにもステーキとか自分で焼いて飯を食わせちゃうというのですから、堅苦しく、厳しいボス、という感じでもなかったのかなと。

 またジェイムズ・ブラウンなどは当然として、スティングやプリンスなど、自分よりはるかに若い、そしてジャンルの異なるアーティストのことにもよく目配りしているな、という点も、素晴らしいと思います。

 とまあ、「全貌」とまでは行かないまでも、マイルスという人に対する理解が少しは深まるし、また彼のことがますます好きになる、という点で、読んで損はなかったかなと。少なくとも、マイルス・ファンには一読をおすすめしておきます。


 ただね、2点ほど難癖をつけるとすると、翻訳がイマイチ。本書の訳者は、マイルスの口ぶりを表現するのに「○○だよな」という訳し方を頻繁に、本当に頻繁に使うのですけど、これが気になって仕方がない。例えば、


インタビュアー: 君は母親とかなり仲がよかったんだよね?
マイルス: いや、家族の誰とも仲がよくはなかった。俺は十三歳のときにオフクロと仲たがいした。それまでは仲がよかったんだ。俺たちは話し合えた。だがオフクロはだからといって、嫌なことは我慢しようと思わなかったんだよな。


 とか、

インタビュアー: あなたはウイリー・ネルソンを聴くためにラスヴェガスまで行ったとマークから聞きました。
マイルス: そうだ。なかなかのもんだった。俺はウイリーの歌い方に惚れこんでいるんだ。彼のフレージングは最高だ。時どき俺みたいなフレージングを使うんだよな。

 とか、こんな感じ。この「○○だよな」があまり頻繁に繰り返されるので、いささか食傷してきます。編集者の人とか、監修の人とか、訳者にアドバイスとかしなかったのかしら?


 あと、もっと根源的な問題として、アメリカのライター(=インタビュアー)の能無しぶりね。これがひどい。例えば、こういう書き方をするわけよ:



 すべてというのは、あくまでもマイルス・デイヴィスの治しようのないしわがれた悪声以外のことである。云々・・・


 こういう書き方。これ、本人はしゃれた書き方だと思っているの? それともライター養成講座か何かの教科書にでも「こういう風に書け」とか、書いてあるのかな? とにかく、こういう鼻につく書き方の連続ですから、それを気にしだすと読めない本ではありますな。

 逆に、こういうくだらないインタビュアーのまとめ方やら、翻訳上の難点があっても、マイルスが何をどう語ったか、という点だけ見て行くと、それなりに面白く読めるというのですから、いかにマイルスが傑出して興味深い人物か、ということだよね! 

 というわけで、マイルス・デイヴィス、私にとってはますます興味津々な人物ということができそうです。



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Last updated  September 3, 2011 11:46:40 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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