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January 12, 2014
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カテゴリ: 教授の読書日記
 昨日書いたように、ある本の書評を頼まれたので、今日はその本を最後まで読んだのですが、読んだからと言ってすぐに書評が書けるわけでもなし。今日のところはおおよそ本の内容を頭に叩き込み、この本について何を書こうか、ぼんやりと考えるだけに留め、後はしばらく置いておいて、もう少ししてある程度考えが固まってから書き出すことにしようかと。なに、2000字のもの位、書き出せばあっという間に書けるでしょう。


 というわけで、今日は他にすることもなし、随分前に読み始めたまま、途中で放り出していた三遊亭金馬さんの『江戸前の釣り』という本を最後まで読んでしまうことに。

 しかし、読んでいた本を途中で投げ出して、何ヶ月も後に読み終わるなんてことは、若い頃には無かったことで、それだけ本を読む力が落ちてきたのかなと。少し寂しい気もしますね。


 で、この本ですが、魚釣りの話自体も面白いのですが、金馬さんの書き方がうまいもので、ちょっとした文学作品になっているところがあります。例えば金馬さんが子供の頃、やはり釣り好きだったお父さんが釣りを終えて帰ってくるところの描写なんぞ、これはもう小説ですよ。ちょっと書き抜いてみましょうか。


 首尾の松あたりで「千かきに一本」の鰻かきで捕った魚を江戸前鰻といった時代、本所石原の大川端に行田屋という舟宿があって、僕の親父はよくここの家から釣りに出ていた。機械のなかった手漕ぎ時代の舟は、朝は今より早く出て帰りが遅くなる。夕方父親を舟宿まで迎えに行くのも子供心に楽しみの一つであった。舟宿の内儀さんに連れられて河岸の桟橋へ出て待っていると、薄暗くなった大川を上手の舟が何艘も掛け声高く競走のように帰ってくる。「坊やあの後から来たのが家の舟だよ」といわれて伸び上って見ると、駒止石の椎の木屋敷の方から二丁櫓で漕いでくる。見ると脇櫓につかまっているのは僕の親父だ。その頃の客は船頭の手代わり位は誰でもしたものらしい。舟が着くと寒いのに汗を拭きながら舟宿に上がってくる。舟宿の土間で、自分の釣った魚を釣れなかった人にも平均に分けてやっていた。その頃は乗合舟の客でも自分が釣れなかった時は他の人の魚を分けて貰っていたものらしい。残った魚をビクに入れると、僕は自分が釣ったような気になって、そのビクを持って親父の先へ立って威張って家へ帰ってくる。帰って一杯呑みながらの噺も船頭の悪口が多かったように覚えている。母親が、
「そんなに悪くいうなら、舟宿を替えて他の船頭から出れば良いのに」とよくいっていたが、親父は「そういうもんじゃねえ、一度行ったらどんなに叱言があっても、他の舟宿からは出られないもんだ」といって手舟の時の外はこの舟宿ときめていた。
 そんなことを聞き覚えている僕は、今でも神田川から出る時は何処、品川は何屋、洲崎は誰と舟宿を決めてあまり浮気をしない。たまたま釣り会に誘われて他の舟宿から出ても、沖で行きつけの船頭に逢っても悪いようで面目ないような気持になる。神田川の船頭で「師匠たまには私の家からも出てくださいよ」といわれたが、「僕は長年何屋から出ているので、あいつが生きているうちは、他の舟宿から出られねえんだよ」というと、「有難てえ、そうしてやっておくんなさい。この頃そんな客が少なくなりましたよ」といって自分の家に来ない客に礼をいった昔気質の生き残り船頭もいる。(240-241頁)


 うーん、いいねえ。親父さんが、釣り客なのに船頭を手伝って威勢よく舟を漕いで戻ってくる、その颯爽とした姿を見ている金馬少年の誇らしい気持ち。父親の釣った魚を、さも自分が釣ったかのように捧げ持って家に入る可愛さ。そして、いかに不満があっても一度縁が出来たからには他の舟宿は使えないという親父さんの気風。そういう親父さんのことを覚えていて、後年、自分でも馴染みの舟宿から浮気をしない金馬さん。そしてその金馬の思いを褒め、礼を言った昔気質の船頭。これだけの行数で、一気にこれだけの内容を語り下ろしたのは、まさに名人芸と言っていいのではないでしょうかね。

 まあ、私は最近の日本の小説を読まないからわかりませんけれども、芥川賞だ直木賞だって言っている最近の小説に、果たしてこんな一節がありますかね。あるんだったら、私も宗旨替えして、新しい日本の小説を読んでもいいですけどね。あるとは思えないな。




 ということで、この本、とてもいいです。教授のおすすめ、です。


これこれ!
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Last updated  January 12, 2014 11:54:13 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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