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January 10, 2015
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カテゴリ: 教授の読書日記
 『エリック・ホッファー自伝 構想された真実』という本を読み終わりましたので、ちょいと心覚えを付けておきましょう。

 エリック・ホッファーというのはアメリカの・・・何でしょう? 社会学者というのか、哲学者というのか、とにかくそっち系の人なのですが、この人の経歴には一つ、際立った特徴がありまして、まずなによりも学歴らしいものがほとんどない。若い時から秀才で知られ、有名大学を出て、大学院を出て、留学の一つもして、ストレートで有名大学の教授張ってました、というのではないんですな。

 むしろその種のよくあるパターンの正反対。季節労働者としてカリフォルニアあたりでオレンジ摘みをしたり、プルーン摘みをしたり、あるいは道端のレストランのウェイターをしたり、金鉱を掘りに行ったり、とにかく若い時からずっと放浪を続け、その後サンフランシスコの港で沖仲仕(おきなかし:要するに貨物船の積み下ろし作業をする港湾労働者ですな)を四十歳くらいの時から二十五年間にわたって務めるという、ばりばりの放浪者&肉体労働者だったんですな。

 で、そんな放浪&労働生活をしながら、そうした生活の中から掴んだ経験と、公共図書館を駆使した自学により深く思索を練り上げ、学会や内外の一流の学者から絶賛されるような本を出版する、ということをやってのけた。まさに絵に描いたような在野の学者さんなんです。

 しかも幼少期、7歳の時に一度失明し、十五歳くらいの時にふたたび視力を取り戻すという数奇な経験もあったりして。まあ、ドラマチックといえばやたらにドラマチックな生涯と言えましょう。

 で、この本はホッファーが晩年になって自分の生涯の来し方を振り返った、自伝的エッセイということになります。といっても、活字ぎっしりの大部な本ではなく、一つ一つのエッセイはごく短く、全体としても高々二百頁足らずというところ。あっさりしたものですな。何しろこの人には「箴言集」的な著作もあるようですから、淡々とした短い散文というのが、この人の真価なのかも知れません。

 実際、読んでみますと、上に述べたような数奇な人生の軌跡が淡々と綴られておりまして、書かれていることはすごくダイナミックなんですけど、書き方があんまり淡々としているので、あまりダイナミックに感じられないというね。あー、そうなってそうなって、そうなったわけね、と軽く読んでしまえます。むしろ、味わいが足りないくらい。

 でもまあ、そんな淡々とした中で、一箇所、特に面白かったのは、ホッファーがその後の彼の学問的業績の核となるようなある発見に至る瞬間を記したところ。

 それによると、ホッファーが季節労働者として、他の労働者たちと共同生活をしながら暮らしていた時のこと、ある老人と懇意になった彼は、その老人に誘われてチェッカーをすることになるのですが、その時になって初めて、ホッファーは相手の老人の一方の手が、多分、電ノコにでも巻き込まれたのか、縦にざっくり切断されていて、その部分が義手になっていることに気づいた、というのですな。



 だけど、とにかく、ありゃりゃ、と気付いてさらに見渡してみると、自分の同僚である季節労働者たちの大半が大なり小なり障害を抱えていて、五体満足なのはあまりいない、ということに気づくわけ。

 で、その時、ホッファーは「ひゃー、ここに居るのは、ほとんど皆、社会的落伍者、社会的弱者じゃん!」と思い至ると。

 しかし、ここで重要なのは、ホッファーの驚きが、否定的なものではない、ということ。彼はむしろ、そのことを肯定的に驚いたんですな。

 つまり、アメリカを開拓し、アメリカという国を作り上げてきたのは、まさにこういう弱者だったんだ、と気づくわけ。そのあたり、原文を引用しましょう。


 人間という種においては、他の生物とは対照的に、弱者が生き残るだけでなく、時として強者に勝利する。「神は、力あるものを辱めるために、この世の弱きものを選ばれたり」という聖パウロの尊大な言葉には、さめたリアリズムが存在する。弱者に固有の自己嫌悪は、通常の生存競争よりもはるかに強いエネルギーを放出する。明らかに、弱者の中に生じる激しさは、彼らに、いわば特別の適応を見出させる。弱者の影響力に腐敗や退廃をもたらす害悪しか見ないニーチェやD・H・ロレンスのような人たちは、重要な点を見過ごしている。 (『エリック・ホッファー自伝』66‐67頁)


 この認識が、後のホッファーの社会学というのか哲学というのか、とにかく彼の学問体系の基礎となる(らしい)んですな。だから、ホッファーの場合、みずから労働者として働いていた実体験が、彼の学問の根っこになった、というわけ。

 ま、私にとってこの本で一番面白かったのは、ここかなあ。

 だけど、逆に言うと、面白かったのはここだけ。この本、割と評判が高くて、ホッファー人気に火を点けたようなところがあるのですけれども、私に言わせれば、そこまでのもんかぁ?って感じもしなくもない。

 結局、この本がどうの、というより、バリバリの労働者が、実はすごい学者さんだった、というところに、ホッファー人気の根源があるんじゃないのかしら? 特にアメリカの場合、「反知性主義」というか、「エリート嫌い」の伝統がありまして、イリノイで樵やってた奴が大統領になった(リンカーン)とか、カリフォルニアで俳優やってた奴が大統領になった(レーガン)とか、そういうのが好きなんですよね。

 日本人だって、ある程度、そういうところがありますもんね。俺たちと同じ遊び人だと思っていた人が、裁判官(遠山の金さん)だったり、将軍(吉宗)だったりすると、盛り上がるわけですから。

 実際、ワタクシだって、ちょっと憧れるもんなあ! 学歴もコネもなく、肉体労働の合間をぬってひたすら公共図書館だけを使って独学で勉強して、何かアカデミックな業績を出すっていう、その潔くも高潔なライフスタイルにはね。





 ちなみに、本書の副題である「構想された真実」というのは、「Truth Imagined」の訳ですが、どうなんですかねえ。そもそも「Truth Imagined」というのはどういう意味なのだろう。「自伝というのは、表向きノンフィクションのようでいて、実は自分の頭が創り出した作り事に過ぎない」という覚めた認識が俺にはあるよ、というホッファーのメッセージなんじゃないの? だったら「創り出された真実」とか、「頭の中の真実」とか、そんな感じに訳すべきで、少なくとも「構想された」というのでは意味が解らないよね。



これこれ!
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Last updated  January 10, 2015 05:38:43 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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