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November 14, 2016
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カテゴリ: 教授の読書日記
 「矢沢永吉激論集」なる副題を持つ1978年のベストセラー、『成りあがり』を読みましたので、心覚えをつけておきましょう。

 永ちゃんについては、もちろんリスペクトしておりますが、矢沢タオルを首に巻くほどのファンではない私。その私がなぜにこの本を、しかも、今になって読んだかと申しますと、やっぱり自己啓発本研究の一端でありまして。

 というのも、永ちゃんがかの有名な自己啓発本、デール・カーネギーの『人を動かす』に大きな影響を受けたって話をどこかで聞いて、話のタネになるかなと思ったから。実際、『成りあがり』(角川文庫版)を読むと、64ページにそのくだりが出てきます。

 だ・け・ど・・・。

 そんなこたぁ、どうでもいい! っていう位、驚いた。

 この本は・・・すごいわ。もう、すごいの一言。日本人の自伝(聞き書きだけど)として、超一流のものと言っていいんじゃない? そう思うほど、ガツンと感銘を受けましたねえ。ほとんど、巻置く能わざる、っていう感じで、一気に読み切っちゃった。

 後妻の子として生まれ、しかしその母親も3歳の時に永ちゃんを置いて出奔、父親も病気で亡くなり、小さい時から親戚をたらいまわしにされて過ごした幼少期。それでも、おばあちゃんという人とは気が合って、貧しいながらこのおばあちゃんの下で育ったという。あんまり素敵だから、そのくだりを引用しちゃうけどさ:


 朝起きると、おばあちゃんが釜のとこで木くべて、ごはん炊いている音が、コトコトコトコト聞こえるわけよ。お母さんという感じじゃないけどさ。
 「永吉、起きよ」

 「ほーれ、ごはん食え」と、ごはん、パッとくれる。
 おかずは、必ず、一品料理というか。ごはんと何かひとつ。その何かというのは味噌汁かもわかんない。コロッケかもわかんない。ひと品。
 オレが好きだったのは、卵料理。
 卵、ポンと割って、醤油を混ぜて、水混ぜて、味の素混ぜてこねるわけ。それをふかすわけよ。
 ふかすとポッコリ。茶碗蒸しのようなもんよ。それを、もっとオカズにしたい場合は、醤油をちょっと足すとかね。
 それ、オレ大好きだった。おいしいおいしいと食べるから、おばあちゃんはそれをメインにするわけ。
 いまでも思い出してよく作るんだ。最近、電子レンジをガチャンとやってね。
 それがない時は、味噌汁かな。大根とか、いろいろ切って入れて・・・これでオレ十分なわけ。
 オレ、いまでも食欲のない時なんか、お茶とか、ぶっかけてメシ食う。あれ、ちっちゃい時の癖なんだ。味噌汁の中身混ぜて、べちゃべちゃにして食う。うわあっと流し込むのが好きなの。
 こうなると、ちょっと楽しい話になっちゃうけどさ、誕生日の時・・・。
 「おばあちゃん、オレ誕生日なんだ」

 わかるだろ、関係ないわけよ。そんな誕生日なんて。
 でも、さすがよ。おばあちゃんがオレにしてくれたことは。卵をふたつにしてくれた、その日だけ。
 卵の買い方。オレよく憶えてる。「おまえ、永吉、好きな卵買ってこい」と言われることがある。十三円とか、十二円とか、一円違うだけでちょっと大きいのよ。それ一個選ぶの。
 で、誕生日は、ふたつ。
 「あ、おばあちゃん、今日は卵がふたつ入ってる」

 永吉、よく聞け。卵と思って食うな。ニワトリ二羽殺してくれたと思え」と言うんだよ。
 そう思って食えって。
 とてもうれしかったよ。
 ニワトリの元って、卵だもんね。
 そういう朝メシだったな、オレたち。 (20-22頁)


 あーー。もうダメだ。涙なしに読めない。これは何? 文学だよ、文学。トルーマン・カポーティの「クリスマスの思い出」じゃないか!

 で、中学校、高校までは広島で、それなりに不良として過ごすのだけど、永ちゃんには野心があった。いや、野心というよりヴィジョンかな。オレは音楽でスーパースターになる、というね。だから、そのスーパースターにふさわしい門出として、高校卒業と同時に上京する。自分が故郷を捨てる時はこうやるんだという、その思い描いた通りの形で、深夜発の最終電車に乗って。

 そして横浜に降り立った矢沢青年は、とりあえず生活をするために飲食店などで働き、その一方でバンド活動を始める。バンドのメンバーを集め、実力なんて全然ないのに、はったりかまして地元のキャバレーやディスコに出演させてもらい、そうこうしているうちにさらに優秀なメンバーを集め・・・ってな感じで、無一文からわらしべ長者的に少しずつグレードアップしていく。

 と言っても、永ちゃんの目標はスーパースターだから。ちょっと稼げるようになった、とか、そういう素人の小遣い稼ぎでは満足できない。そこで、そのレベルで満足してしまうメンバーたちとは、どこかで衝突してしまう。で、そういう衝突や別れを繰り返しながら、「ヤマト」の結成にたどり着き、さらにはあの伝説のバンド「キャロル」の結成に至ると。

 そういう一連の出来事は、しかし、その辺の通り一遍のサクセス・ストーリーとはわけが違って、苦闘に満ちていると同時に、喜びと感動にも満ち溢れているのよ。なにせ永ちゃんは広島から出てきた田舎者。首都・東京で目にするあらゆるものが驚異であり、光輝いているわけ。そういうものに、素直に感動する田舎者の自分を、永ちゃんは全然隠さないんですな。そこがまた実に爽快。

 と、同時に成功へ向かう一歩一歩の中には、思い返すのも腹立たしいこともある。例えば、ミッキー・カーチスに騙されて、不当な契約をレコード会社と結ばされたりね。そういう、汚い大人社会のやり方にもさんざん翻弄されるわけ。

 だけど、やっぱりそこが永ちゃんなんだなあ。騙された自分の非を認めて我慢するところは我慢し、だけれど、自分がさらにビッグになることで自分を利用した連中を見返し、それできっちりオトシマエをつける。騙した相手を黙らせちゃうわけよ。そこんとこヨロシク!ってな感じで。

 だからこの本は、一言で言えば、人生で出くわした色々な出来事に対して永ちゃんがどんなオトシマエをつけてきたか、そいつを語った本なんです。

 例えばキャロル解散の件とかね。

 人気絶頂のころでさえ、永ちゃんと他のメンバーの間には溝があった。理想を追い求めさらに上を目指す永ちゃんと、人気に溺れ、享楽的に過ごすメンバーたちと。で、解散やむなし、となった時点でも、永ちゃんはキャロルを支えてくれたファンのために、既に決まっていた十数回の全国コンサートをやりきることを主張するのだけれど、メンバーは即刻解散を主張してゆずらない。

 結局、そこは永ちゃんがメンバーの前に頭を下げる形で(本当に頭を下げたらしい)、なんとかコンサート実施を果たすのだけれど、頭を下げながら永ちゃんが思ったことは、「こいつら、決して許さない」ということだったと。

 つまり、ファンに対してオトシマエをつけるために永ちゃんは下げたくもない頭を下げたわけだけれども、同時に、キャロルのメンバーに対しては、「許さない」という決意をすることで、オトシマエをつけたわけね。

 先ごろ、ジョニー大倉が亡くなった時、永ちゃんがほとんどコメントらしいコメントを出さなかったのは、そういうことだったんですな。喧嘩別れしたにしても、ずいぶん時が経ったのだし、お愛想にしても「残念だ」的なコメントでも出せばいいのに、と思った私は浅はかでした。そういう周囲のプレッシャーがあっても、永ちゃんはあの時の決意を揺るがさなかったんですな。男だねえ。

 だけど、許さなかった話ばかりじゃないよ、この本。むしろ、永ちゃんは、自分に対してひどいことをした人たちに対して、ものすごく寛容に許していると思う。

 でまた、その許し方がかっこいいんだ!

 例えば小さい時に、永ちゃんのことをたらしまわしにした親戚に対する永ちゃんの態度なんて、ほんと、ほれぼれします。あんたら、オレにひどいことをした。でも、時間が経てば、そういうことも別に気にならなくなるかもしれない。だから、もっと後になって、40歳、50歳になったら、ふらっと遊びに行くかも知れない。だけど、そういう気持ちになるかどうかは、オレの心一つに任せてくれ。・・・ちゃんと面と向かって、そういうことを言ったというんですからね。

 あと、3歳の時に自分を捨てた母親、いつか会うことがあったら殺してやろうと思っていた母親に再会したときなんて、一瞬で許して、一緒に泣いたっていうんですから。

 そのほか、奥さんとなるすみ子さんとの出会いなんて、すごくいいよ。大体、私は愛妻家が好きなので、永ちゃんが奥さんを大事にする感じ、いいと思うなあ。

 で、この本の最後は、「元キャロルの矢沢永吉」ではなく、「矢沢永吉」としてさらにスーパーな存在になるため、彼が今どういう戦いをしているか、というところで終わるんですけど、この終わり方もとてもいい。


 ま、とにかく、そんな感じで、私はものすごい感動と共にこの本を読み終えたのですけれども、この本ができた時、永ちゃんが28歳だった、というところに、私はさらに驚きます。

 28歳で、これほどのものを・・・。

 私が28歳の時なんて、まだ大学院を出たばかりで、単なる親のスネカジリ、自分がこの先どうなるか、どうしたいのかなんてヴィジョンもろくにないような、マシュマロみたいなもんでしたよ。それが、永ちゃんは、この時点でもうこれだけの老成ぶり・・・。老成という言葉が適当かどうか分かりませんが、とにかく、苦労に苦労を重ね、苦闘に苦闘を重ねて、押しも押されぬ地位に駆け上り、さらに上を目指して更なる苦闘をしていた、というのですからね。

 いやはや。もう何をかいわんや。永ちゃんは、すごい。


 私、読もうと思えば、この本が出た当時に読めたのですけど、その当時は『成りあがり』というタイトルに反発して、敢えて読まなかったんです。もっとガツガツした本かと思い、また、有名人に対する反発もあったのかな。

 思えば、それはそれで、私の側の、永ちゃんに対する挑戦状のつもりだったのかも知れません。敢えて読まないことを選ぶっていうね。私も若かったわけだ。愚かだけど、やっぱ若さってのはいいもので。

 その私が、当時の永ちゃんの倍ほどの年齢になってから、この本を読んだと。それはね、遅きに失したとも言えるし、ひょっとしたら、ちょうどいい時に読んだ、ということなのかも知れません。今だから、この本に書いてあることが分かる、というところもあるからね。

 ま、とにかく、色々なことを考えながら、私はこの本を堪能したのでございます。今年一番の収穫。教授の熱烈、熱烈、熱烈、おすすめでございます。


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Last updated  November 14, 2016 12:40:58 PM
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Comments

釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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