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January 8, 2022
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カテゴリ: 教授の読書日記
『書物の達人 丸谷才一』という本を読了しましたので、心覚えをつけておきましょう。

 ・・・っていうか、何でこの本を読んだのか、自分でもよく覚えてないっていう。どこかで面白い本だという噂を聞いて、それを鵜呑みにして注文掛けたんだったっけなあ? とにかく、手元に届いたのでつい読んじゃった、という感じなんですけれども。

これこれ!
 ↓

書物の達人丸谷才一 (集英社新書) [ 菅野昭正 ]


 で、この本、タイトルからして分かるように、丸谷才一を讃えるための本でありまして、彼が亡くなった時に、そういうテーマの連続講演会が開かれたらしく、それをまとめたものなんですな。だから、講演録みたいなものなのよ。で、本書の中で丸谷さんを讃えているのは、川本三郎さん、湯川豊さん、岡野弘彦さん、鹿島茂さん、関容子さんの5名、それに編者の菅野昭正さんが加わるという感じ。

 多分、この中の岡野弘彦さん、鹿島茂さん、関容子さんの3人は私もそのご著書を読んでファンであるものだから、多分、それでこの本を買う気になったんだろうな。そうじゃなくちゃ、理屈に合わないもん。だって・・・

 ワタクシ、丸谷才一、興味ないし。



 となると、あまりよく知らないし、興味もない人について語っている人達の話を読んで面白いのか?っていうね。

 で、結果から言うと、面白かったとも言えるし、面白くなかったとも言える。

 とりあえず面白かったのは岡野弘彦さんの話で、これは岡野さんと、大岡信さんと、丸谷才一の三人で連歌を巻いたっていう話。これは、丸谷才一がどうのこうのというより、連歌というもののルールが書いてあって、それが面白かった。なるほど、連歌ってのは適当にやっているのではなくて、基本的なルールがあるんですな。そのことを初めて知って、それが面白かったんですわ。だけど、まあ、それだけと言えば、それだけね。

 で、もう一つ面白かったのは、鹿島茂さんの話。これは、鹿島さんから見た丸谷才一氏の人物分析で、本書の中ではピカ一に面白かった。

 でね、鹿島さんによると、丸谷才一は、結局、モダニストだった、ということになるんですな。

 じゃあ、その前提としてモダニズムってのは何かという説明になるんですけど、モダニズム以前のロマン主義は、「この世には新しいものがある。だからその新しいものを見つけた人間が勝ちである」という考え方だと。換言すれば、「新しいものは、いいものだ」というわけ。だからロマンチストは、新しいものを探す。自分の国に新しいものがなければ、外国まで足を延ばす。イギリスになければ、南欧へ、そこにもなければトルコやオリエントへ。あるいは空間ではなく時間を遡って、「中世」を新しいものとして再発見した!とか。

 一方、自然主義ってのはロマン主義とは方向性が逆で、遠い国・遠い昔に行くのではなく、自分たちの卑近なところに新しいものを求める。例えば娼婦の世界とかヤクザの世界など。だから外向きか内向きかの違いはあるんだけど、「世の中に新しいものはある」という考え方である点では、ロマン主義も自然主義もおんなじだと。

 ところがモダニズムは違うんですねえ。モダニズムは「天の下に新しいものなし」という考え方がベースだというのですな。もう描くべきものは既に描かれてしまっているし、語るべきものは語られてしまっている。となると、モダニストにとっての創造とは、古い物の並べ替え、アレンジだと。古い陳腐な材料を、斬新に並べ替えることで、新味を出す。これがモダニストの行き方だと。

 で、丸谷才一は、そういう意味のモダニストなのであって、彼がジョイスの文学に魅せられたのも、ジョイスが古い言葉を新しい並べ方で提示して見せたからだと。それから、丸谷が新古今和歌集を最も高く評価したのも、同じ理由だと。

 で、もうひとつ、鹿島さんが丸谷才一を見る時の視点は、官能性への志向なんですな。



 だから、彼は寛容じゃない人が嫌いだった。丸谷さんが小林秀雄のことが嫌いだった理由も、その辺りにあったのではないかと鹿島さんは見ております。

 小林秀雄という人は、論理の飛躍をしてまでも、何でもズバッと切り捨てる。そういう一足飛びで切り捨てていく姿勢ってのは、若く血気の盛んな連中には受ける。だから小林秀雄も若い人たちの間で受けたわけだけれども、そういう非寛容な論理というのは、丸谷才一のよしとするところではない。彼はむしろ、寛容を旨とする人生態度の方を取った。丸谷才一の訳したアラン・シリトーの『長距離走者の孤独』の中に、主人公の若者が「奴ら(体制側の連中)もずるいが、俺もずるい」というセリフがあるのですが、相手を非難すると同時に、その非難のネタが自分の中にもあることを認めるような強靭さ、それこそが丸谷才一の評価するものであろうと。鹿島さんご自身はフランスのモラリスト文学を読んで寛容の精神を身に着けたけれども、丸谷さんは、おそらくイギリス文学の中からそういう寛容の精神を学んだのではないかと、鹿島さんは推測しております。

 とまあ、そんな感じで、鹿島さんはズバズバと丸谷才一を腑分けしていくんですけど、ワタクシが思うに、鹿島さんの分析は全部当たっているんじゃないかと。もう、鹿島さんの分析を読んだら、丸谷才一が全部分かった、っていう気になれます。

 だから、この本を読んでワタクシ、鹿島さんって頭いい! って、改めて思いました。

 それにつけて言いますと、本書の冒頭で菅野昭正さんも丸谷さんの何たるかを分析しているんですけど、こちらはね、読んでも全然丸谷像が明確になりません。丸谷才一はモダニストだった、という趣旨は鹿島さんと同じなのですが、その説明が全然なっていない。菅野昭正さんってのは、世評の高い人だというのは存じあげておりますが、ワタクシにはイマイチ、ピンとこない人でありまして、同じフランス文学系でも、弟子筋の鹿島さんの方が遥かに頭いい!って感じを、今回、余計強くした次第。



 だって、わずか30頁弱の分析で過不足なく腑分けされちゃうんだもん。そんな人に興味ないよ~。

 たとえば・・・誰でもいいんだけど、たとえば田中角栄にしましょうか。田中角栄についてのエピソードとか読むと、ああ、きっとこの人は人間的に魅力のある人だったんだろうな、というのは良く分かるし、実際に会ってみたかったなと思う。同じことは、三島由紀夫にも当てはまるし、折口信夫にも当てはまる。山之口貘さんだって、やっぱり会ってみたいなと思う。

 だけど、丸谷才一に会いたいなあ、と思わないんだよね。そう思わせてくれるようなエピソードが一つもない。だから、いかに本書の論者たちが「丸谷才一は書物の達人です!」って口をそろえて言っても、ふ~ん、だから?って感じ。

 ま、ひょっとしたら丸谷さんだって魅力的な人だったのかもしれないけれど、少なくとも本書を読んだ限りでは、そういうエピソードは書いてない。その意味で本書は、丸谷さんの何たるかを紹介する本として、さほど面白くなかったとも言えるわけですよ。

 っつーわけで、ある程度、面白かったし、ある程度、面白く無かった。ワタクシにとって本書はそんな感じでしたね。


 ああ! だけど、一つだけ、丸谷才一に関して感心した・・・というか勉強させられたことがありました。

 丸谷才一という人は、書評を重視した人だったそうですが、彼には書評というものに一家言があった。それは「書評三原則」というもので、その三つの原則とは ①「書き出しの三行で読者を惹きつけること」 ②「書評対象の本の内容要約をちゃんとしろ」 ③「けなし書評はやめよ」というものだったと。

 なるほど! 確かにね。それは納得だわ。今年、文芸時評をするに当たって、この三原則のことはちょっと頭の片隅に置いておこうかな。





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Last updated  January 8, 2022 02:20:04 PM
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釈迦楽@ Re[3]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  ああ、やっぱり。同世代…
丘の子@ Re[2]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 釈迦楽さんへ そのはしくれです。きれいな…
釈迦楽@ Re[1]:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 丘の子さんへ  その見栄を張るところが…
丘の子@ Re:『2001年宇宙の旅』を知らない世代(09/13) 知らなくても、わからなくても、無理して…
釈迦楽 @ Re[1]:京都を満喫! でも京都は終わっていた・・・(09/07) ゆりんいたりあさんへ  え、白内障手術…

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