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2010.04.01
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辻村深月の7冊目で初の短編集を読んだ。

○ストーリー
運動も勉強もできて人気者だったトシは,ふとしたことで友人になったいじめられっこのワタルの交友がきっかけで,自分自身もいじめの対象となってしまう。たった2人で築いてきた世界が,ワタルの親の事業の関係で壊れそうになってしまう。トシとワタルは旅に出るのだが,その行き先で・・・

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3つの短編(長さとしては中編か?)が収録されている。辻村深月のこれまでの作品はすべて長編だったので,あの細やかな心理描写を積み上げる手法がどのように使われているかが楽しみだった。

表題作の「ロードムービー」では,主人公トシの気持ちがひしひしと伝わってくる。父も母もしっかりとした人物で理解があり,自分も勉強が出来るのに,いじめや友人の家のことなどには無力だ,という小学生のつらい気持ちが,丁寧に描かれている。この作品は期待通りだった。

だが残りの2作はいただけない。小悪魔的な中学生や,病弱で友人に尽くす小学生の物語は,マンガ以下ケータイ小説レベルでリアリティが感じらない。「ほらほらアンタたちこーゆー展開に共感するんでしょ」という作為が感じられて,反感ばかり覚えてしまった。まあ,たぶんに主観的だけど。

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読む前から,辻村深月のデビュー作「冷たい校舎の時は止まる」とリンクがある,という話は知っていた。この作者は積極的にそうした作品間のリンクを行うのだが,村上春樹や伊坂幸太郎のさりげないリンクと異なり,別の作品の主人公をゲスト出演させたり,ある作品の謎が別の作品を読まないと分からなかったり,と多分にそれが過剰になっている。(ハイパーリンクか?)



「ロードムービー」と「冷たい校舎」のリンクで,読んでいる時に気がついたのは,3つ目の短編「雪の降る道」だ。何しろ「冷たい校舎」で語られた,ヒロ,みーちゃん,菅原の兄ちゃんの3人が再登場するので,リンクというより完全なスピンオフとなっている。

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「ロードムービー」のエピローグは,「冷たい校舎」の第1章のあるシーンと全く同じ文章となっていて,それで終わる,ということに驚いて,ネットで調べてみたら,なんと3つの短編がそれぞれ「冷たい校舎」とリンクしていることを知った。

ネタバレになるので,あまりにも明々白々な「雪の降る道」について以外は述べないこととするが,それにしても短編集を丸ごと使って「冷たい校舎」のスピンオフを作り上げてしまっていることに驚いた。人気作家ならではの荒業だ。

これが3つの短編とエピローグの4つを合わせると,順番にリンクが濃厚になっていく。しかしながら残念なことに,順番に作品としての完成度も下がっていく。

それぞれの作品で幼さゆえのつらさ,無力感を味わうのが,小学生のトシ,中学生の千晶,小学生のヒロとみーちゃんなのだが,最初の短編に登場するトシだけがきちんと悩んでそれを自分で乗り越えようとしている。

千晶とヒロはその不安感を他人を支配することで紛らわし,みーちゃんは「友人のために尽くすワタシ」という不気味な自己愛が全開だ。

他の作品とのリンクが存在しないことで,「冷たい校舎の時は止まる」が辻村深月の中でも忘れたい作品なのかと思っていたが,これは大きなカンチガイだったらしい。やはりみーちゃんは自己愛が全開なのだ。

せめての救いは,残りの作品世界とのリンクが無かったことだ。「冷たい校舎」ワールドは,これで2作品となったものの,他の辻村作品ワールドにまでは,あのキャラたちは侵食して来ないんだよな。もっとも,僕がリンクに気付いていないだけかも知れないけど。

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各編について簡単に述べる。


「道の先」:僕がアルバイトをしている塾には,講師を辞めさせるというウワサのある大人びた中学3年の少女・千晶がいた。なぜか千晶は僕に近付き・・・優しいゆえの残酷さを持つ「僕」は千晶にも批判をされているが,当たり前だと思う。そもそも千晶はどうして「僕」を気に入ったのだろう・・・まさかMの血を敏感に嗅ぎ取ったとか???

「雪の降る道」:学校を休むことの多い僕は,プリントを届けてくれるクラスメートのみーちゃんにイジワルな言葉を言ってしまう。ムリなお願いをした雪の日にみーちゃんは消えてしまった。・・・「砂糖菓子のような」「育ちのいい」「やさしい」みーちゃんの物語だ。こんな物語を読むと,小学校に忍び込んで,ふみちゃんの飼育しているウサギをいじめたくなってしまう・・・誰か僕を条件ゲームで止めてくれ!!!・・・やれやれ。












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Last updated  2010.04.04 17:35:04
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