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2010.08.06
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カテゴリ: びしびし本格推理
ラストシーンが論議を呼んでいるらしい米澤穂信の小説を読んだ。

○ストーリー
恋人が事故死をした崖・東尋坊(とうじんぼう)で,〈僕〉は足を踏み外してしまう。なんとか自宅に戻った僕は,見知らぬ若い女性に出迎えられ,不審がられる。なんと〈僕〉は,以前とは少し異なる世界に来てしまったらしい。ここでは流産したはずの姉が育っており,代わりに〈僕〉は存在しないことになっているらしい。そして死んだはずの恋人は・・・

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オリジナルの〈僕〉の世界では,両親は不和で,兄は受験に失敗し,恋人は死んでしまっている。それに対して〈姉〉の世界では,両親は和解し,兄は大学生となっており,恋人は元気にくらしている。

世界と世界の差は,小さい事柄の積み重ねで語られており,その差の原因を探る過程は,米澤穂信がいつも展開する日常ミステリーのオンパレードだ。

だが謎解きは徐々に1つの傾向を示し始め,〈僕〉そして読者は愕然とする。どこを取っても〈姉〉の世界は,〈僕〉の世界より優れている。そして2つの世界の唯一の差は,〈姉〉と〈僕〉なのだ。

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ここに来て,この作品のタイトルの意味と,テーマが判ってくる。



ありがちなライト・ファンタジーの体裁を用いて,米澤穂信はとてつもなくヘビーな命題をぶつけてくる。

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ライトノベルのよくある設定で,個人の事情と世界の命運をつなげてしまう『セカイ系』というものがある。どこにでもいる少年少女がいつの間にか世界の命運を握ってしまう,という夢を具現化したものだ。

それに対してこの作品は,より良いパラレル世界を見せられることで,自分の存在が否定されてしまう,という『ネガティブ・セカイ系』とでも言う構成になっている。

この作品の場合は,生まれること自体の否定だが,例えば自分が参加しなかった飲み会が盛り上がったとか,自分が休んでいたのに仕事がはかどっていたとか,自分が遅れて会合に参加したらなんかヘンな空気になったとか,小さなネガティブ体験は誰でも経験していると思う。(してるよね???汗・・)

だからこの『ネガティブ・セカイ系』は,強いリアリティを持って迫ってくる。(少なくとも僕にはそうだった。)

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〈僕〉は〈姉〉と数日を過ごすうちに,〈姉〉に惹かれ,また自分に欠けていたものに気付く。それでも米澤穂信は安易な展開はゆるさず,〈僕〉は〈姉〉をうらやみ,そうはなれない自分を自覚する。

さらに2人は〈僕〉の恋人の事故死の真相に気付くのだが,それによりその過去が書き換えられることにはならないようだ。だからどうしても謎解きによる達成感は味わえない。

〈僕〉は自分の世界に帰り着くが,そこは相変わらず冷たい世界だった。

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それでも僕自身は,このラストからかすかな希望を読み取りたいと思う。作品が始まった時の〈僕〉は,無気力とまでは言わないものの,かなり物事を達観して見ている様子がうかがえた。

ラストでの〈僕〉は,少なくとも自分がニヒリスト的な性格であり,またそうした態度が周りの人々にどのような悪影響を与えたかを知っている。自分が見えるようになり,異なる選択肢も知ったからには,〈僕〉はかつてよりはるかに多くの行動を採ることができるのではないだろうか?

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主人公の〈僕〉にとっても,読者にとってもなかなかツライ状況が続き,ツライ状況のままでラストを迎えるが,僕自身はこの後に〈姉〉の影響を受けた〈僕〉が歩み始めるものだと信じたい。

これだけ読者である自分にとってもグサグサ来る読書体験だったのだから,せめて主人公には夢を託したいと思う。












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Last updated  2010.08.07 00:00:31
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