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2011.05.16

初めて読んだ逢坂剛の作品を20年ぶりに読んだ。

○ストーリー
”カディスの赤い星”を取り戻すためにスペインへ渡った漆田は，ラモス老人から教えられたツテを探り，徐々に標的へと近付く。だが同時にそれはスペインの治安警察の捜査対象へと身をさらすことでもあった。打倒フランコのテロが頻発するスペインを，漆田は旅する。そして・・・

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あれ？・・・あれほど小説としてワクワク感に満ちていた上巻に比べ，下巻はなんだかノレない気がした。理由は，主人公の行動だろう。

上巻では，主人公の漆田は，スペイン人の依頼で日本で人捜しをした。ビジネスでの理由もあったし，異国で頼る人がいない人への親切という意味もあった。

漆田とそのチームは，少しの失敗はしつつも，優秀にその責務を果たした。ラブロマンスの部分が濃すぎるように感じたが，おおむねバランスよく仕上がっていると思う。

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さて下巻では，主人公の立場は逆転して，スペインで人捜しをする異邦人だ。スペイン語は堪能という設定はいいが，やはり日本ではないのだから，それほど上手くいかなくても不思議ではない。

それだけでも不自然なのに，漆田は，治安警察に追われ，右翼テロリストに命を狙われ，ヒターノの恨みを買い，左翼テロリストに爆破されかかり，それでも果敢に”カディスの赤い星”へと肉迫する。

もちろん”赤い星”だけでなく，それに関わる人々を救おうとするから，懸命に追うのだが，いくらなんでも頑張りすぎだろう。モーレツサラリーマンか？

主人公が，外国で命を危険にさらし過ぎて，また毎回うまく助かるので（それほど不自然な展開ではないとは言え），リアリティのバランスがどうしても崩れていると思う。

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下巻の醍醐味は，主人公と治安警察の人々との心の交流だろう。当初は主人公たちを襲う体制側の代理人として登場した治安警察の面々だが，徐々に一人一人のキャラクターが明確になり，主人公の仲間に近い存在になってくる。

とくに終盤にサンチェス少佐が言う「スペインへの忠誠だ」というセリフは，じんと心を震わす。

逢坂剛のスペイン作品にあっても，警察は主人公に脅威を与える存在として書かれていることが多いので，この作品での関係はひじょうに珍しい。また，それが成り立つのもスペインという不思議な国ゆえだろう。

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さて帰国してから，全ての謎解きが始まるが，さながら歌舞伎のような，濃厚な人間関係にも，やや辟易してしまった。それなりに説明がつく部分もあるが，偶然が過ぎるのが大半で，現代の小説としてはキビシイと思う。

ひょっとしたら，その後にくる展開も含めて，歌舞伎あるいはギリシア悲劇的な世界を狙ったのだろうか？・・・やっぱりそれは無いか。

10年後のエピローグになり，主人公が自分で言うよりは，はるかに明るく暮らしているエピソードがあり，なんだかうれしいような，裏切られたような，不思議な気持ちになって，それで終わってしまった。

後半は，冒険小説としてはドライブ感があるのだけど，全体的なバランスを考えると，残念ながら失速していると感じた。20年以上前の作品としては，十分質が高いとは思うけど。

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