全183件 (183件中 1-50件目)
特に通行証を持ち合わせていた訳でもなく、適当な物を捧げて入ったラビダンジョン。今までと変わる事無く、出てくるスケルトンや骸骨オオカミを退けていく。エルマが異変を感じたのは、2階のとある部屋でラグナスがネズミに刃を向けた時だった。『待ってラグナス、あのネズミ様子が変よ!』「変だって?どういう事だ?」『あいつの周りに何か変なのがある・・・遠隔操作かな?』「遠隔操作、ね・・・霊媒能力でも持っている奴なら出来るだろうけど、それがどうし・・・」そこまで言いかけ、ラグナスはハッとなった。「・・・待てよ、霊媒能力はあいつも持っているな。」『確証は無いけど、多分・・・』そこまでエルマが口にした次の瞬間、耳障りな音と共にラグナスの頭に痛みが走った。思わず頭を抱えるラグナス。「―――っ!?」『ラグナス!?』強烈な痛みが少し引いてきたところで、聞き覚えのある声が聞こえて来た。―――聞こえますか?私は今ダンジョンの中にいます・・・多分、まだあの世界の中だと思います。少し間をおいて、少女―――悠楽の声は続いた。―――確証は無いのですが、このネズミに2枚の通行証を持たせました。一方をあのダンジョンで捧げれば、多分・・・お願いです、誰か・・・っ!声はそこで途切れ、頭痛も治まった。『ラグナス、大丈夫?』「ああ、なんとかな・・・それより・・・」ラグナスは未だ目の前にいるネズミを調べると、黒い紙切れを2枚見つけた。この前の依頼で使ったあの通行証と結構似ている。「やっぱりあったか。」『ちょっと、これって・・・』「悠楽の言っていた通りだ・・・こいつであのダンジョンに入るのか・・・」『・・・良く分からないけど、ビンゴみたいね。』「ああ、そうだな・・・そうと決まれば、早速殴り込ませて貰うとするか。」通行証を仕舞い込むと、ラグナスは再び歩き出した。
2009/03/17
コメント(0)
「さてと・・・そろそろ始めるかな。」ダンバートンの一角にある「ダイアモンドチェイン」のギルド本部。そこには再びビィ達主要メンバーが集い、集会を開いていた。ティルコネイルから戻って来たラグナスの姿もある。「分かっているとは思うが、今回話すのは悠楽の救出についてだ。」「救出ったってなあ、何も情報が無いんじゃ場所の特定も出来ないぞ?」シノンが反論する。「まあ確かに場所が場所だから情報なんて無に等しいけどな・・・それでも出来る限りの事はやらないと。」「で、具体的にどうするんだ?」「一番いいのはまた現地に行って調べる事なんだけど、あの通行証の出所が分からないしな・・・ダンジョンを探索するくらいの事はするか。」「となると、一番手っ取り早いのはバリ辺りかもな。何せあの世界と繋がっていたわけだし。」「だろうな・・・けど一応他のダンジョンも調べておきたいんだ、バリだけとは限らないしな。」「いくらかの班に分けるんだな?」「ああ、まずシノンとじゅうべいでフィアードに行ってくれ。俺とポチはバリに向かう。ラグナス、お前はラビに行ってくれ。」「分かった。」「結局うちらはセットなのな・・・」「当たり前だろ、息合ってるんだし・・・よし、そうと決まれば早速行くぞ!」ポチを引き連れて建物を後にするビィ。「ふぅ・・・さて、うちらも行きますかね。」「だね・・・ラグ、ラビは頼んだよ!」「ああ。」シノンとじゅうべいも本部を出る。『んじゃ、あたし達も行こうか?』「だな、他にやる事も無いわけだし。」そしてラグナスも本部を後にし、ラビダンジョンへと向かった。
2009/02/28
コメント(0)
『・・・ここまでね。』ここまでされては敵わないと判断したのか、エルマは両手を上げて言った。ラグナスも突きつけていた2本の剣を鞘に収める。『これであたしの負けね・・・あーあ、最後に真剣勝負で負けたのっていつだったかしら・・・』「剣術だけで勝ったわけじゃないんだ、自惚れる訳にはいかんだろう。」『・・・確かにそうだけど、あんたって奴はどこまで・・・』エルマは肩を落とすと、再びラグナスに向き直った。『あたしに勝ったのよ?剣の精霊たるあたしに!もうちょっと自身持ちなさいよ!』「・・・精霊に、か・・・考えてみればそうだな。どうも実感が湧かないが。」『湧こうが湧くまいがこれは事実よ・・・ま、これでホントにマスターとして相応しくなったのが分かった事だし、これであたしも気軽に暴れられるわね。』「暴れる・・・どういう事だ?」『要するに、これからは必要になった時に呼んでくれれば今みたいに出て来て戦ってやってもいいって事・・・ただし、マナはそっち持ちだからね。』「そういう事か・・・分かった。随分長い付き合いになりそうだが、改めてよろしく頼む。」『こちらこそね、相棒。』軽くハイタッチを交わす二人。エルマは元の状態に戻ると、尋ねて来た。『で、これからどうするの?』「無論、悠楽を助けに行くさ。あのまま放って置けば何が起こるか分からないし・・・」『それを抜きにしてもこのまま見過ごすわけには行かない、でしょ?』「・・・どういう意味かは知らんがそんな所だな。」『んじゃ決まりね、とっとと行かなくちゃ・・・』「おいおい、今何時だと思ってる?少し寝させてくれよ。」早まるエルマを遮り、ラグナスは鞄からキャンプファイアキットを取り出した。ラグナスが野営している頃、あるダンジョンの最深部では一人の少女が捕らえられていた。周りの風景はバリダンジョンのそれと酷似していながらも、全く異質な雰囲気を醸し出している。少女―――悠楽の周りには黒い霧のような結界が張り巡らされ、楽に脱出できないようになっていた。彼女の能力で結界を破ろうとした事もあったが、力が強すぎて歯が立たない。つまり、時が来るまで彼女はただひたすら待つしかないのだ。絶望に打ちひしがれ座り込む悠楽の耳に、何かの物音が入ってきた。とっさにその方向を向いた彼女の目に入ってきたのは、何の事は無い、ただのネズミだった。(なんだ、ネズミか・・・)少し安堵して顔を背けた次の瞬間、ある考えが脳裏をよぎった。再びネズミの方を向いた悠楽は、その手をそっとネズミの方に翳した。
2009/02/11
コメント(0)
宙を舞うエルマは、だが元から宙に浮いていた為に空中で体勢を立て直すのにも時間は要さなかった。だがラグナスも元からダウンを奪うつもりは無い。少し距離を取りさえすれば・・・「―――っ!?」ラグナスから放たれた火球はエルマを直撃し、少し詰まった間合いを再び押し広げた。だが、次の瞬間エルマの姿が掻き消えた。『こっちよ!』その声にとっさに反応して剣を叩き付けた先には、エルマの剣。すかさず短剣を繰り出すラグナスだが、再び消えるエルマ。今度は左脇に現れ、その剣を振り下ろした。短剣で受け流し、すかさず反撃。反撃しては消え、現れて斬りかかっては防がれる。お互いの精神力の勝負。そんな状態が幾ら続いただろうか。幾度目かのそれを乗り切った時、転機は訪れた。『くっ・・・!』マナが尽きたのか、消えずに鍔迫り合いに持ち込むエルマ。ラグナスは再び左手の短剣を繰り出した。それがきっかけとなって膠着していた状況は動き出し、再び神速の剣戟。ここに来て、両者の剣技の違いが出始めていた。右手に刀、左手に短剣という独自の二刀流を駆使するラグナスは、その各々を攻防自在に操り、死角が存在しないと言える。更に彼は体術や魔法、そしてかつての友であったエニの技をも駆使するため、実に臨機応変な戦法を編み出せる。対するエルマの武器は光の剣1本。実体を持たない武器であるため、かなりの速さで振り回す事が可能である。事実そのおかげで2つの剣から繰り出される攻撃を受け流せるのだが、エルマ自身は魔法や体術といった技術を持ち合わせてはいない。そしてマナが切れた今、彼女が持ち合わせていた能力も使えない。いつの間にかラグナスが押しているという状況に、焦りを感じ始めるエルマ。それが隙を生んだと気付くのには、少々時間を要した。『しまっ―――』大振りの攻撃をかわされ、そう言いかけた時には、ラグナスの蹴りがエルマの胴体にクリーンヒットしていた。水平方向に吹き飛ばされ、体制を立て直した次の瞬間だった。ラグナスの小さな刃が、エルマ目掛けて繰り出された。立てた剣で防ぐが、それを見越していたかのようにラグナスは身体を捻ると、左回りに回転して渾身の一撃を叩き付けた。『あっ・・・』エルマの手から剣が弾け飛び、光の粒子となって消え去る。そのままエルマに剣を突きつけ、ラグナスは呟いた。「・・・チェックメイトだ。」
2008/11/24
コメント(0)
叩き付けた刃は同じように繰り出されたエルマの剣に弾かれ、その後幾らかの剣戟が続く。剣の精霊というだけあり、今までに戦って来たどの相手よりも速かった。正確に捉え切れない部分が必然的に生じ、防戦一方になる。『遅い!本気のあんたはこんなもんじゃなかったはずよ!』「くっ・・・!」隙を突き、エルマが強烈な一撃を繰り出して来る。横にした刀で受けようとしたラグナスは、だがその力を相殺できずに斜め上に吹き飛ばされる。当然それをエルマが黙って見ている筈も無く、次の瞬間にはエルマが光の剣を大上段から振り下ろしているわけで。『・・・チェック!』何とか空中で体勢を立て直してこれも防ぐラグナスだったが、今度は真下に吹っ飛ばされて思い切り地面に叩きつけられる。「ぐはっ・・・」間髪入れずに上から猛スピードで突っ込んでくるエルマ。その刃が振り下ろされ、ラグナスの身体を捉え・・・ることは無かった。『・・・っ!?』何が起こったのか理解できず、混乱するエルマ。よく見ると、体のそこかしこで電光がスパークしていた。次の瞬間、鋭い刃がエルマに襲い掛かる。辛くもこれを防いで距離をとった時、エルマは何が起こったのかをようやく理解した。『そうだ、こいつ・・・!』「・・・これで仕切り直しだ。」目の前に立つラグナスの目は、先程と全く違うものへと変わっていた。ラグナスが再び印を結び、詠唱を始める。一瞬でその距離をゼロにし、ラグナスに斬りかかるエルマ。だがその刃がラグナスを捉えたと思った次の瞬間、ラグナスは自ら詠唱を中断して横に跳躍した。ハメられた・・・そう思った次の瞬間には、ラグナスは居合い斬りを放っていた。ギリギリでこれを叩き落し、そのままの勢いで光の刃を真横に薙ぎ払う。ラグナスは腰を落としてこれも回避すると地面を蹴り上げ、地面についた左腕を支えにして下半身を持ち上げた。その足の繰り出される先には、エルマの腰。剣では考えられない角度からの攻撃を防ぐ事も出来ず、ラグナスの蹴りはエルマの華奢な身体に命中し、その身体を吹き飛ばした。
2008/10/27
コメント(0)
その後ティルコネイルで必要な物を少し買い足したラグナスは、トゥガルドアイルで一夜を過ごす事にした。既に日は沈み、闇が辺りを支配しているが、幸いモンスターの気配は無い。もっとも、トゥガルドアイルに生息するモンスター程度なら楽に勝てるのだが。『そっか・・・結局悠楽は攫われたままなんだ・・・』目覚めるまでの経過を聞いたエルマは、ゆっくりと呟いた。「ああ・・・また何も出来なかった・・・」『またってあんた、まだ助ける事は出来るかもしれないんでしょ?』「そういう意味じゃない、ただ・・・結局俺は何も守ることが出来ないのかって、な・・・」『あんたねぇ・・・』エルマは呆れたような仕草を見せると、真顔になってラグナスに言った。『あんなの使われたら誰だって落ち着いて対処できないわよ、とにかく今は悠楽を助ける!で、ついでにあいつも吹っ飛ばすってことで良いじゃない。』「けど俺は・・・」『ああもう!いつからあんたはそんなに悲観的になったのよ!』ラグナスを遮り、エルマは怒鳴った。『あのシノンって奴に競り勝ったんでしょ?もう少し自信持ちなさいよ!あたしはそんな臆病者と契約した覚えなんて無いわよ!』「・・・・・・」返す言葉が見つからず、顔を伏せて黙り込んでしまうラグナス。『・・・分かったわ、それなら仕方ない。』エルマはラグナスから少し離れた位置に移動すると、両手を横に突き出して何やら詠唱を始めた。刀の周りのそれと同色の光がエルマを包み込み、やがて弾ける。その様子をただ見守っていたラグナスの目の前に現れたのは、先程と殆ど変わらない様子のエルマだった。唯一違う点があるとすれば、その体が透けていない事。そしてエルマは、静かに告げた。『・・・あたしと戦いなさい、ラグナス。』「エルマ、何言って・・・」『あたしは本気よ!拒否なんてしてみなさい・・・それでもあたしはあんたを攻撃するわよ。』次の瞬間、エルマは翳した右手に光の剣を出現させ、それをこちらに向けてきた。「・・・どうしても戦うって言うのか、お前と?」『火付き悪いわね、戦うって言ったら戦うのよ。』腕を動かさずに答えるエルマ。やがてラグナスは観念したように溜息をつくと、腰の刀の柄に手をかけ、一気に抜き放った。「・・・分かった・・・本気で行くぞ。」『当然よ、手抜いたりなんかしたらボコボコにするわよ。』互いに剣を構え、対峙する。『・・・来なさい!』その言葉を合図にラグナスは走り出し、同時に走り出した(宙に浮いているので正確には「移動し始めた」)エルマにその刃を叩き付けた。
2008/10/18
コメント(0)
「剣の精よ、我が名の下に命ず・・・この刃を糧とし、再びここに舞い降りよ!」右手に刀を握り、タルラークは印を切った。徐々に刀の周りに黄色い光が現れ、刀の刃に収束して行く。やがてそれが刀全体を包み込むほどの大きさにまで膨張した時、一際強い光を放った。一瞬逸らした目をまた元の方に戻すと、刀の向こう側に彼女はいた。閉じていた目を開けた精霊の視界に最初に飛び込んだのは、自分との契約者の姿。『・・・ここ・・・』「・・・エルマ・・・」完全に契約者―――ラグナスの姿を捉え、エルマは少し目を見開いた。『・・・あれ、あたし・・・折られて・・・』「・・・どうやら成功みたいですね。」後ろで呟いたタルラークの言葉を聞いてエルマが辺りを見渡すと、タルラークの右手には黄色い光を放つ刀があった。『これって・・・ラグナス、あんた・・・』「リスクは承知の上だったさ、けどこうでもしないとお前を助けられないしな。」『・・・まさかあんたに借り作るなんて・・・』エルマはしばらく頭を抱えていたが、やがて顔を上げるとラグナスに微笑んだ。『とにかく、ありがとね。本当に消えちゃう所だった。』「いいさ、別に・・・ありがとうございました、タルラークさん。」ラグナスはタルラークに向き直ると、丁寧にお辞儀した。「いえ、こんな私で良ければ・・・っと、そろそろ時間ですね。」タルラークが空を見上げて呟く。いつの間にか東の空が明るくなっており、夜明けが近付いていた。魔術で熊に変身したタルラークに別れを告げると、ラグナスは元来た道を戻って行った。
2008/08/04
コメント(0)
「ん、ラグナスじゃないか。」ダンバートンの広場にいたリダイアは、同じく広場を歩いていたラグナスを見つけて声をかけた。探し物を見つけたような顔でラグナスが近付いて来る。「リダイア、丁度良かった。」「どうした、何か必要な物でもあるか?」「ああ、エレメンタルリムーバーを30個。」「30・・・また随分大口だな。」「ああ、ちょっとな・・・とりあえずこいつでいいか?」そう言うと、ラグナスは小切手を差し出した。「確かに・・・はいよ。」リダイアが品物を渡すと、ラグナスはそれを鞄に詰め込んだ。「すまないな・・・じゃあまた。」それだけ言うと、ラグナスは足早に立ち去った。それから一夜が明けた翌日未明、ティルコネイルの北、極寒の地シドスネッターに彼はいた。その隣に、エルマの姿は無い。まだ日が昇ってない雪原は寒く、何か特別な目的でもない限りは入ることなどまず無かっただろう。まだパララが昇らない暗い中、白い一本道をひたすら北に歩き続ける事一時間。ラグナスは何かの祭壇のような物の前にたどり着いていた。その上には、オレンジのローブに身を包んだドルイドがいる。ドルイドはラグナスに気付くと、咳をしながら彼に声をかけて来た。「ゴホッ、ゴホッ・・・あなたは確か・・・」「ええ、以前お世話になった者です。また精霊の事で相談が。」「契約の破棄、ですか?」「まさか・・・とにかく、これを見て頂きたい。」ラグナスはそう言うと、真っ二つに折られた漆黒の剣を差し出した。かなり弱々しくはなったが、まだ微妙に光を放っている。それを見たドルイドの目つきが変化する。「これは・・・そういう事ですか。」「俺はこの事に関しては殆ど何も知りません。あなただけが頼りなんです、タルラークさん。」タルラークと呼ばれたドルイドはしばらく考え込んだ後、ラグナスに告げた。「・・・分かりました、ではまず必要な道具の調達ですね。」タルラークは数回咳をすると続けた。「といっても基本的には契約した時と殆ど何も変わりはありません。必要なのはエレメンタルリムーバー30個と蘇生薬、後は・・・新しく精霊を宿す武器、これだけです。」「それなら既に揃ってます。」ラグナスはそう言うと、タルラークに必要な道具を渡し、腰の刀を静かに抜き放った。「ああ、言い忘れてましたが・・・」タルラークが思い出したように言う。「これは必ず成功するとは限りません、もし失敗すれば・・・恐らく武器も精霊も失われてしまうでしょう。」「それでもこうする他に無いというのならやるしかないです・・・お願いします。」ラグナスはそう返事すると、刀に向かって呟いた。「・・・悪いなエニ、使わせてもらうぞ・・・」そしてラグナスは刀をタルラークに渡すと、一歩下がってタルラークが詠唱を始めるのを見守り始めた。
2008/07/19
コメント(0)
「ううっ・・・」あれからどれくらいの時間が経ったのか。目を覚ますと、辺りの景色は一変していた。ダンジョンの部屋だという事に変わりはないのだが・・・「ここ・・・ラビか?」辺りを見回すと、ラビダンジョンの少し緑がかった灰色の壁が目に入った。「・・・そうだ、エルマ!」慌てて駆け寄り、近くに転がっていた剣を手に取る。案の定、剣はあの時のまま、刃の中ほどで真っ二つになっていた。その周囲に、エルマの姿は無い。「・・・っ!」絶望に俯くラグナス。その時、後ろから声が聞こえて来た。「ぅんっ・・・ここは・・・?」振り返ると、後ろで倒れていたビィ達が次々と立ち上がって来ていた。「どうやらラビに飛ばされたらしいな・・・悠楽以外は。」再び顔を伏せるラグナス。「守るって言ったのに、結果がこの様か・・・くそっ!」衝動的に壁を殴りつけるが、無論何も起こらなかった。「よせラグナス、お前のせいじゃないだろ。」「けど俺は・・・」「今ここで感傷に浸っても何にもならないだろ・・・今は冷静に対処するしかない。」シノンに制され、ラグナスはようやく落ち着きを取り戻した。「・・・分かった、すまない・・・」「で、これからどうするんだ、ビィ?」「まずは報告、かな・・・悠楽についてはその後になるかもしれない。落ち着いたらまた本部に集まる事にして、今は休息ってことにしよう。」「休息、ね・・・本当は悠楽を助けるのが先決なんだろうがな・・・」「今は下手に動けないしな・・・仕方が無い、とりあえずここを出るぞ。」そしてラグナス達はラビダンジョンを後にした。今は早くエルマを元に戻す必要がある。必要な物を揃えに、ラグナスは一度ダンバートンへと戻る事にした。
2008/07/09
コメント(0)
「嘘だろ、シノンがやられたなんて・・・」その光景を見ていたビィの動きが一瞬鈍る。彼もまた、グロールの脇にいたもう1人の男と刃を交えていた。「兄さん、危ない!」ヒィのその言葉で前方に視線を戻したビィは、繰り出された刃を受けて剣戟を始めた。だがシノンが吹き飛ばされる光景が恐れを生み、隙を作り出す。「しまっ―――」そこにつけ込んで繰り出された男の刃は、だがヒィが割り込んだ事によって辛くも防がれた。「邪魔だ!」後退した男はそう言うと2人に向けて氷の刃を繰り出して来た。途中までは何とかかわせたものの、素早く繰り出される刃に対応できず一撃を喰らってしまう。「ぐっ・・・」体を襲う感覚に、動きが止まったように感じられる。次の瞬間、剣を構えた男が高速で突っ込んで来た。斬撃を両手剣で防いだビィだったが、男の狙いは負傷ではなかった。強烈な衝撃で吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられるビィ。「ぐはっ・・・」「兄さんっ!!」叫んだヒィは、だが次に男が連射した氷球で吹き飛ばされ倒れた。次々と仲間が倒れていく中、ラグナスだけは未だグロールと刃を交えていた。「相変わらず得体の知れん力だ・・・お前が何を持っていると言うんだ?」「聞かれて答えるとでも思ったか!」「フン、勢いだけは褒めてやる。だが・・・」グロールは言葉を切ると、炎を纏った剣でラグナスに斬りかかった。応戦するラグナスだったがグロールの剣捌きはシノンのそれをも凌駕し、ついに剣を握る右腕に攻撃を喰らった。その後蹴り飛ばされ、衝撃と痛みでで漆黒の剣を取り落とす。「くっ・・・」何とか剣を取り戻そうとしたラグナスだったが、思うように体が動かない。先にグロールに剣を拾い上げられてしまう。「しかしこの剣、妙な力を感じる・・・」『えっ、ちょっと・・・』「エルマ・・・」思わず口にしてしまった後でしまったと思ったが、時既に遅し。グロールの顔に凄惨な笑みが浮かぶ。「そういうことか・・・」そしてグロールはその剣を宙に放り上げ、自分の剣をその漆黒の刃に叩き付けた。甲高い音と共に漆黒の刃がへし折れ、地面に落ちる。『あっ・・・』「エルマっ!」エルマの姿が、徐々に霞み始める。「今回も命拾いしたな、ラグナス・・・戻るぞ。」その言葉が聞こえた後、グロールと脇の2人の姿が消え去る光景が、薄れ行く意識の中でラグナスが最後に見たものだった。「ちく・・・しょ・・・」
2008/07/05
コメント(0)
弾かれたラグナスはそのまま後退し、仲間の元へと戻った。「エルマ、あいつらがどこに行ったか分かるか?」『ダンジョンなんてほとんど別空間でしょ?分かる訳無いわよ。』「くそっ・・・」吐き捨てて目の前にいる男を睨み付けるラグナス。その両脇にはもう2人、同じような格好の男達が立っていた。ラグナスの両脇にもビィ達が集まり、それぞれの得物を構える。「残念だったなラグナス・・・だが安心しろ、すぐに楽にしてやる。」「ふざけるな!悠楽を返せ!」何時に無い剣幕でグロールに怒鳴るラグナス。「ならば俺達を倒すんだな・・・行くぞ!」3人が一斉に突っ込んでくる。「気をつけろ、あいつらかなり強いぞ!」ラグナスはビィ達に注意すると、自身も走り出した。「こいつら一体何者なんだ本当に!?」「何だか知らないがやるしかなさそうだな!」「どうやらまずい事になったみたいだね。」「やってやろうじゃないのっ!!」「そう簡単には負けないわよ!」「最近は相手に困らないねえ・・・うちとしては暇じゃないからいいんだけど、さ。」口々に吐き捨ててラグナスに続く6人。だが次の瞬間、氷球と雷撃がシンフレアに襲い掛かり、その華奢な身体を吹き飛ばした。「きゃあっ!」「くそっ、何て力だっ・・・とにかく詠唱を妨害しろ!接近戦に持ち込めれば勝機は・・・ぐあっ!」指示を出していたビィが雷球を受けて倒れる。「こんな状況で指示なんか出してる場合かってのっ!」「突っ込んでる余裕も無いぞ、こいつら本気で強い。」シノンとじゅうべいのタッグが雷撃を操る男に斬りかかる。だが男は抜き放った剣でその全てを防ぎ、間髪いれずに斬り返す。「ちぃっ」バックステップで避けたシノンは舌打ちして再び突っ込もうとするが、次の瞬間に男が放った雷球でじゅうべいもろとも吹き飛ばされた。
2008/06/30
コメント(0)
「こ、これって・・・」絶句して見上げるビィ達の視線の先には、かなり大きい鎖で鉄骨に縛り付けられている奇怪な巨人。「こいつは・・・グラスギブネン・・・?」シノンが呟いた直後、どこからともなく声が聞こえて来た。「その通りだ、女。」その声にハッとして戻した視線の先には、白ローブの男3人と、その男達に囲まれて立っている何かの紋様の入ったローブを来た男がいた。そして白ローブの男のうち一人は、ラグナスの知る男だった。「グロール・・・やはりお前達だったか。」「当然だろう、我々以外にこのような物を召喚し得るような勢力はいるまい?」「我々以外に、だって?自惚れも程々にして貰いたいもんだね。」シノンが割り込むように言い放つ。「そいつ・・・グラスギブネンだろ?モイトゥラだかどっかの戦争で魔族が召喚して、家々を焼き払ったとか言う・・・実物を見るのは初めてだけどね。」「ふん、鋭いな・・・確かにこれはグラスギブネンだ、昔魔族に召喚されたのと同じ、な・・・だが我々には魔族どもには無い物がある・・・」「グロール、わざわざ話す必要もあるまい。」中央にいた男が制すると、グロールは言葉を切って下がった。ラグナスは単刀直入にその男に問うた。「この世界の浄化なんて馬鹿な事を考えているのはお前か?」「馬鹿な事、とは言ってくれるな・・・いかにも。我々はこの汚れ切った世界をもう一度造り直す為にここにいる。そしてそれには・・・」男は悠楽を指差し、静かに告げた。「その娘の力が必要なのだよ。」当の悠楽はしばらく呆然とその光景を見ていたが、自分に白羽の矢が立った事に気付くと強く言い放った。「・・・あなたがどなたかは知りませんが、私はそんな物に手を貸すつもりなど毛頭ありません!」「お前に拒否権など存在しない・・・来るがいい!」叫び、男は左腕を前に突き出した。悠楽の周囲に黒い霧のような物が現れ、悠楽を拘束する。「―――っ!!」「悠楽っ!!」ラグナスが駆け寄るが、男が右腕を振った次の瞬間、拘束されたまま悠楽は男達の方へと連れ去られた。「嫌っ、放してっ!!」「我と共に来い、そしてこの憎悪に満ちた世界に光を与えるんだ!」「そんな事・・・ラグナスさん、ラグナスさぁんっ!!」「貴様っ―――」悠楽の叫びを聞く前に走り出したラグナスだったが、グロールの刃によって阻まれた。「メトロン様には指一本触れさせん。」刃の向こうで、何度もラグナスの名を叫んでいる悠楽と勝ち誇った笑みを浮かべた男―――メトロンと呼ばれた―――の姿が掻き消える。
2008/06/28
コメント(0)
「もう大丈夫か?」「ああ、何とかな。」そう言ってラグナスはビィから離れ、再び剣を抜いた。とりあえずあの後全員でダンジョンに入り、今は2部屋くらい通った後の通路にいる。「あんま無理するなよ、姫君が大層心配されていたぞ。」「び、ビィさん・・・」顔を赤くして否定する悠楽だったが、すぐにまたラグナスの方に心配そうな視線を向けた。「で、でも本当に大丈夫ですか・・・?」「心配無いと言ってるだろ・・・それにああ言っちまったしな、今更後にも退けんだろうが。」「もう泣かせるなよ、あの時の悠楽マジで半泣きだったし・・・」「っ!!」ビィの言葉に悠楽が俯き、シノンが溜息を吐く。何となく気まずい雰囲気になり、次の部屋が来た事もあってそこで会話は途切れた。ダンジョンの中にいたのは、コウモリやネズミといった雑魚からゴブリン・ヘビ・ラゴテッサがほとんどだった。特に苦もなく撃退し、8人は進んで行く。最後の敵―――フライングソード5体を撃退して次の部屋に行くと、そこには最後の部屋への入り口を示す扉。「ここで最後か・・・何かいるかもしれない、気を引き締めるぞ。」鍵を持ったビィが皆を振り返る。全員ビィの方に注目し、無言で頷く。「・・・行くぞ。」ビィが鍵を開け、最後の部屋に踏み込む。部屋に入った彼らを待っていたのは、異様な光景だった。
2008/06/23
コメント(0)
それから20分くらいが経った頃。『ったく、とんでもない無茶するわね、あんたは。』「このくらいなんて事無いさ、それより急いで合流しないとな。」どうにかあの場を切り抜けたらしいラグナスは、だが少し息が上がっているようにも見えた。『・・・少しは自分のマナの事も考えなさいよね・・・』「何、たまにはこんな無理も必要だろ・・・っ!」突然ラグナスがバランスを崩す。『あっ、ちょっとラグナス・・・』とっさに傍にあった木に手をついて身体を支え、また走り出す。とにかく悠楽の所に行かなければ・・・ラグナスの頭はその思考でいっぱいだった。「・・・そろそろだな。」シノンは呟くと立ち上がり、未だ立ち尽くしていた悠楽に向かって言った。「悠楽、行くぞ。」「で、でも・・・」不安そうな顔で悠楽が振り向く。「あいつなら大丈夫だろ・・・今はそう信じるしかない。」叱られた時のように、悠楽は顔を俯けた。しばらくして、悠楽はもう一度入り口を見、顔を上げた。「分かりました・・・」入り口から微かな足音が聞こえたのは、その言葉が終わるか終わらないか位の時だった。その音に気付いた他の面々も、入り口に視線を向けた。足音が徐々に大きくなり、少し洗い息遣いも聞こえて来る。数秒後、悠楽達の前に漆黒の剣を手にした剣士が現れていた。「ラグナスさんっ!」悠楽が叫ぶと、剣士―――ラグナスはゆっくりと顔を上げて呟いた。「悠楽、か・・・やっと着いた・・・」歩き出そうとしたラグナスは、だが足が縺れてその場で倒れこんだ。「・・・っ!!」思わず駆け寄り、その名前を叫びながら身体を揺さぶる悠楽。後からやってきたビィは彼の脈を取ったり眼球運動を確認したりした後、悠楽に言った。「大丈夫、マナが空っぽになってるだけだ。無茶しやがるな、こいつも・・・」そのままラグナスの肩を支え、取り出したマナポーションを口に流し込んだ。
2008/06/18
コメント(0)
「アルビとは似ても似つかないな、ここは。」穴の中で、ラスクートが呟く。ビィ達が逃げ込んだ穴の中は、やはりダンジョンだった。岩の一本道と底知れない暗闇の谷が全ての、アルビダンジョンとは全く異質な雰囲気の部屋だったが。「で、これからどうするんだ?外があんな状況じゃあ・・・」「とりあえずここがどういう世界かを確かめる必要があるな。」シノンはビィに答えると、更に続けた。「現状で分かっているのは、この地がティルコネイルに酷似しているという事・・・中の様子以外はな。恐らくうちらの世界のパラレルワールドか何かだと考えればいいだろう。」「パラレルワールド、か・・・ティルナノイの話が載った本もあったけど、ここはそうじゃないんだろうな。」「分からないぞ、伝説や神話なんてのは時に都合の良いように歪曲されるもんだ・・・とにかくほとんど何も分からない以上、慎重に調べる必要がありそうだな。」「調べるって、ここをか!?」「元々そういう依頼だったはずだがな・・・まあとりあえずこのダンジョンを調べるのが先決だろうな。」「そういう事になるな・・・。」「ただ、問題は・・・」そこまで言って、シノンは入り口のほうに視線を移した。そこには座り込んだまま入り口を心配そうに見つめている悠楽の姿があった。「あいつ一体何やってるんだ?」「ラグナスを待ってるんだろ・・・事実ここんとこ一番付き合いが長いのはあいつだしな。」「でもああして見てると、なんか・・・」「ん?」「いや、何でもない・・・で、どうするんだ、あいつは?」ビィが尋ねると、シノンは言った。「とりあえず30分待つ・・・それが過ぎても来なければ、あいつはやられたと判断せざるを得ないな。」「そんな・・・」「うちだって認めたくは無いさ、あいつほどの奴がやられるなんてな・・・けれどあの数を一人で、だ。イメンマハの時は大丈夫でも、今回も同じとは限らない。」「確かに・・・」それきり会話は途絶え、ビィも入り口に視線を向けた。まだ、彼は来ない。
2008/06/11
コメント(0)
ラグナス達がたどり着いたのは、ティルコネイルに酷似した風景の村だった。「ここは・・・」「ティルコネイル・・・なわけないな。」「とにかく、人がいないか・・・」じゅうべいが言いかけた時、後ろから何かの呻き声が聞こえた。「何だこいつ・・・」振り向いたじゅうべいの視線の先にいた呻き声の主は、いきなりじゅうべいに襲い掛かった。「うわっ、何よこの変態っ!?」とっさに放ったじゅうべいの蹴りは見事に鳩尾にヒットし、男(?)は1メートルほど吹っ飛んで倒れると二度と動かなくなった。「何なのよこいつは・・・」呟くじゅうべいの脇をビィが通り、死体を調べる。よく見るとその肌は腐敗しており、ほとんど骨と皮だけになっている。「人間・・・じゃないな、これは。」「いわゆるゾンビって奴か・・・ん?」傍に来たラスクートが殺気に気付き辺りを見渡すと、彼らの周りを取り囲むようにしてゾンビがやってくるのが見えた。「どうやら歓迎パーティーでも開いてくれるらしいな。」「おいおい、冗談だろ・・・こんなのどうやって突破しろってんだ?」周りにいる者達も剣を抜き、或いは矢を番え、戦闘態勢に入った。ラグナスは小声で呟いた。「エルマ、この辺りに安全な場所はあるか?」『んなこと聞かれてもあたしだって知らないわよ・・・でもここティルコネイルに似てるんだし、もしかしたらアルビダンジョンみたいな所があるんじゃない?』「確証は無いか・・・とにかく行くしかないな。」『ちょっと、この数を相手にする気!?』「戦うとは言ってないだろ・・・少し道を開けてもらうだけだ。」そう言うとラグナスは漆黒の剣を抜き放ち、目の前にいるゾンビ達に向けて振った。間合いの外からの攻撃でゾンビが次々と倒され、血路が開かれる。すかさず剣を掲げてゾンビ達の自由を奪うと、ラグナスはビィ達の方を向いて言った。「今の内に走れ!そう長くは持たないぞ。」「でもラグナスさんは・・・」「後から追いつくさ、心配するな・・・早く行け!」「ほら行くぞ、悠楽。」ビィに半ば強制的に連れられ、悠楽は走り出した。他の仲間達も走り出し、ゾンビの輪の中にはラグナス一人が残された。いくらかのゾンビはビィ達を追ったが、鈍重すぎて追いかけっこにもなっていない。『カッコつけ過ぎなんじゃないの?』エルマが話しかけて来る。「ほっとけ、それより俺達もさっさと向かうぞ。」『分かってるわよ。』歪曲した空間が元に戻り、ゾンビ達が一斉にラグナスに迫って来る。ビィ達がダンジョンと思われる穴の中に逃げ込んだのは、ラグナスがゾンビ達相手に死闘を繰り広げている間だった。
2008/05/03
コメント(0)
暗闇の中を進んだ先には、異様な空間が待ち構えていた。そしてそこには、すでに先客がいた。「あ、来た来た。」既に到着していたビィがラグナス達に気付き、近付いてくる。「ここは?」「よく分からんが・・・俺達の世界と別の世界を結ぶ通路みたいな物なんだろうな。」奥にいたラスクートが答える。「俺達はそっちの青い方から入って来た・・・そしてこっちの赤い方にはまだ入っていない。」ラスクートが指差した先には、ラグナス達が立っている場所と場所瓜二つの空間。だがその床(?)の色は不気味とも取れる赤色をしていた。「この先は異世界、か・・・」「多分、戻れる保証は無いだろう・・・先に進むか?」ラグナスはしばらく考え込み、悠楽の方を向いた。「だそうだ・・・もしかしたら向こうに戻れるかどうかも分からない。」「・・・それでも、私はこの奥に何があるかを見たいんです・・・お願いします。」「分かった・・・行こう。」ラスクートは仲間に指示を出すと、真っ先に赤い空間に足を踏み入れた。「どうか元の世界に戻れますように・・・」「さて、何がいるやら・・・」呟きながら、ビィとシノンも続く。ラグナス達も足を進め、ゆっくりとその領域に踏み込んだ。途端に目の前が白く塗りつぶされる。その光景が元に戻った時、ラグナス達はどこかの村の広場らしき所にいた。
2008/04/23
コメント(0)
その後もしばらくゴブリン達のいる部屋は続き、幾つ目かの部屋を突破し、通路の先にある次の部屋にラグナス達は突入した。そこにいたのは先程までのゴブリンとは全く違ってかなり小柄な魔族。「インプか・・・これといって普通のバリと変わったようにも見えないな。」「そうだよねぇ、ちょっと拍子抜けだよ・・・ってラグナス、バリに来た事あるの?」じゅうべいが尋ねる。「騎士団にいた時、訓練でよく、な・・・話は後だ。」ラグナスはそう返すと、インプに斬りかかって行った。じゅうべいがそれに続き、悠楽は後方で何かの詠唱を始める。ここでも隙を突いたインプが悠楽に向けてライトニングボルトを放ったのだが、悠楽が出現させた青い結界に阻まれる結果となった。唖然とするインプを一刀両断し、先へと進む。そんな調子で攻略は続いて、気が付けば最後の部屋へと到達していた。「ここで最後だな。」「結局そこらのやつと何ら変わらなかったな・・・」「やっぱり、違ったんでしょうか・・・?」「いや、まだこの部屋とその奥がある。油断は出来ない・・・行くぞ。」ラグナスを先頭に、3人は少し広くなった最後の部屋に突入した。待ち構えていたのは、複数の光球と独りでに宙に浮いている剣。「ウィスプとフライングソードか・・・ちょっと違ったな。」「オーガよりは数段楽だ、さっさと片付けるぞ・・・悠楽、こいつらもライトニングボルトを使って来るからさっきのやつを頼む。」「はい。」指示を受けた悠楽が詠唱を始める。こちらに気付いたウィスプが先制攻撃とばかりに雷球を放って来たが、一瞬早く展開した結界に弾かれる。すぐにウィスプに斬りかかろうとしたじゅうべいだったが、横からフライングソードに割り込まれた。「うわっと・・・危ないなこんちくしょう!」お返しとばかりに斬りつけ、その勢いでウィスプも斬り捨てる。ラグナスはもう一方のフライングソードを斬り、残りのウィスプを始末する。すぐに大部屋の中はラグナスとじゅうべい、そして悠楽だけになった。何も言わずにその更に奥へと足を進める。最後の部屋、女神像の後ろに待っていたのは、見た事も無い大扉だった。「これって・・・」「ああ、今までは無かった筈だ・・・ビンゴかな?」「らしいね・・・開けられる?」「何も仕掛けが無ければだが・・・」近付いたラグナスが押すと、扉はあっさりと開いた。「注意して行くぞ。」「もちろん。」そして3人は、大扉の奥へと足を踏み入れた。
2008/04/21
コメント(0)
3人は即席のフォーメーションを組み、調査を開始した。最初の部屋には、簡単な鈍器や弓矢を装備したゴブリン達がいた。「なんだゴブリンか、楽勝だな。」「油断するな、数が多い。弓使いを優先的に潰すぞ。悠楽は下がっていろ。」ラグナスは指示を飛ばすと、刀と短剣を抜き放ち、一番近かったゴブリンに踊りかかる。防御を試みるゴブリンだったが、刀の刃は鈍器を真っ二つに切り裂き、そのままゴブリンの身体に食い込んだ。反対側では、じゅうべいが急所に一撃をお見舞いしてゴブリンを倒し、素早く間合いの外に飛び退く。2倍以上あった数の差が、数十秒で逆転していた。だがゴブリン達もやられっ放しではなかった。ラグナスの攻撃で傷を負いつつも何とか立ち上がったゴブリンが、悠楽に狙いを定める。別のゴブリンを倒していたラグナスがそれに気付くのは、少し遅かった。「まずい・・・」ラグナスがゴブリンに駆け寄ろうとしたが間に合わず、狙いを定めた矢は弓から放たれた。その寸前に気付いた悠楽は、だが避けるには短すぎる距離にいた。「―――っ!」とっさに悠楽が印を切り、腕を突き出す。次の瞬間、悠楽の周りに緑色をした半球状の結界が出現し、ゴブリンが放った弓はそれに弾かれて地面に落ちた。信じられないという表情で悠楽を呆然と見るゴブリンの脇腹に、ラグナスが一撃を見舞う。ゴブリンが倒れるのを確認すると、ラグナスは悠楽の方を向いて尋ねた。「悠楽、今のは?」「えっと、簡単な護身術です。昔習ったもので・・・」「このギルドはいつからトンデモ能力集団になったんだよ・・・」「今までだってそんなもんじゃなかったか?まあいい、行くぞ。」その後も何やらブツブツ呟くじゅうべいと共に、ラグナス達は先へと進んだ。
2008/04/19
コメント(0)
本当はこないだ書くべきだったんだが・・・orz先週の公開分でChapter 2が完結したBoP。これのChapter 3 18th operation以降の公開を停止する事にした。主な理由は色々あるが、大きいのはリアルでの状況。大学受験の無い学校だが、3年生になって多くの専門科目が入って来た。それに加えて基礎となる数学の内容も段々と難しい物になっているのが現状で、とてもBoPを書く時間を作れそうには無い。もう一つ大きいのは現在執筆中の小説。今現在BoPの他にここで公開しているマビ小説、あとmixiやってなかった人には何の前触れも無かったかもだが武装神姫の方でも小説を書いている。流石に上の状況でこの3つを同時進行というのは無理があるので止むを得ずちょっと書き辛くなっていたBoPを削る事にした。再開予定は未定。Chapter 3を楽しみにしていた方(多分いないと思うが)には残念だが、落ち着いてきたらまた執筆を再開する予定なので気長に待っていて欲しい。以上。
2008/04/16
コメント(1)
ダンバートンの南に広がるガイレフの丘を超え、ドラゴン遺跡を通った先にある鍛冶の村バンホール。イメンマハやダンバートンは勿論の事、ティルコネイルと比べても規模は小さいが、鍛冶屋からは金鎚が鉄を打つ音が途切れる事無く聞こえて来る。ラグナスもパラディン騎士団の訓練の過程で幾度かここに足を運んだ事はあった。辺りを見回すと、建物には所々傷や破損した部分があるのが分かる。先日あったと言う襲撃の時のものだろう。そして一応広場のような場所になっている所に、先客はいた。「あ、兄さん。」金髪の少女がビィ目掛けて走って来る。「よう、ヒィ。相変わらず元気そうだな。」「それはお互い様でしょ、兄さんだってあの戦いには参加したんだろうし。」「まあそうだな・・・」「とりあえずこっちのマスターは向こうにいるから、早速合流しようよ。」ヒィと呼ばれた少女の案内で着いた先には、既に二人の戦士がいた。一人は鎧を身に着けた黒髪の男性剣士、もう一人はラグナスと似たような服装の弓使いの女性だ。「お、来たな。」「今回はよろしく、ラスクート。」「こちらこそ・・・ん、一人多い気がするが?」ラスクートと呼ばれた剣士が尋ねて来る。「ああ、どうしても行きたいって言うからな・・・足手纏いにはならんだろうが、いいか?」「別に構わないさ、いいだろ、シン?」ラスクートが女性―――シンフレアに確認する。「問題ないわ、よろしくね。」とりあえずは問題無いらしい。ビィがホッと胸を撫で下ろしていると、ラスクートが懐から黒い紙切れを何枚か取り出して言った。「なら今からバリダンジョンに入るが、祭壇にはこれを捧げる。」「それは?」「襲撃してきたゴブリンが落とした物らしい。ダンジョンでたまに出て来る通行証にそっくりだし、何かあるかもしれん。」「なるほどな・・・」「ちなみに同時には3人までしか入れんようだ・・・まあこんな所だ、他に何も無ければ行くぞ。」「こっちは準備OKだ。」「よし、行こう。」そしてヒィ達を加えた8人は班を分ける事になった。1つ目の班は、イーストブレイズのメンバー3人。2つ目はビィ、シノンの2人。そして3つ目はラグナスと悠楽とじゅうべいの3人となった。そしてそれぞれ紙切れを受け取った3班はバリダンジョンの祭壇に移動した。「行った事があるとはいえ、これが本当に通行証だったら何があるか分からない、慎重にな。」ラスクートは皆に告げると、シンフレアとヒィと共に祭壇の前に立った。「また後でね、兄さん。」「ああ。」ラスクートが紙切れを掲げると、3人の姿は一瞬で消え去った。次にビィとシノンが祭壇に立ち、同様にダンジョンに入る。最後はラグナス達の番だった。「さて・・・俺達も行くか。」「はい。」「ああ、バリなんて何でも無い筈なのに緊張するなあ・・・」3人が祭壇の前に立ち、ラグナスが紙切れを掲げると、辺りの景色は一変し、部屋の中は血塗られたように赤く染まった。
2008/04/16
コメント(0)
「連れて行ってって・・・悪いけど君は・・・」「お願いです!あの人達の目論見が分かるかも知れないんです!」「でも悠楽はあいつらに狙われてるんだろう?危険すぎるぞ。」「虎穴に入らずんば虎子を得ず、です!お願いです、行かせてください!」「大体バリダンジョンってのは結構強い奴も出てきてだな・・・」「剣は扱えなくても治癒術は使えますし、足手まといにはなりません!」全く引こうとしない悠楽。その気迫に押されたビィは視線を泳がせ始めた。「参ったな・・・なあ、ラグナスからも何か言ってやってくれよ。」悠楽の方を見るラグナスに頼むビィ。「・・・仕方が無い、か・・・」溜息の後に呟いたラグナスは、だがビィの方に視線を向けた。「俺からも頼む、行かせてやってくれ・・・多分止められて引くような姫君でもないだろう。」「ラグナスまで・・・あいつらに捕まったらどうする気だ?」「俺が責任を持つさ・・・それでいいだろ?」「ハァ・・・弱ったな・・・」ひどく悩んだ様子のビィだったが、暫くして真剣な表情に戻ると悠楽に向き直った。「そんなに言うなら分かったよ、向こうには俺から話をつけておく。」「ありがとうございます!」「だが1つ条件があるぞ。」ビィに頭を下げる悠楽にラグナスは言った。「な、何ですか・・・?」「まあ簡単な事だ、常に俺とペアを組み、単独行動はするな・・・それだけだ。」「分かりました。」意気込む悠楽の横でシノンが言った。「話がまとまったんならぼちぼち行くか?退屈でしょうがない。」「また鬼の血が騒ぎ出したか?」「・・・ビィで肩慣らしでもしようかねぇ・・・」「!?」そして悠楽を含めた5人は馬でダンバートンの南にあるバンホールへと向かった。
2008/04/12
コメント(0)
会議室には、既に大半のメンバーが集まって来ていた。皆が適当な席に着くと、ビィは口を開いた。「よし、大体揃ったから始めるか・・・さっきも言ったけど、バンホールから緊急で依頼が入って来た。」「バンホール?」「どうもゴブリンが村を襲撃してきたらしい。幸い被害は無に等しかったが・・・バリダンジョンを調査してくれとの事だ。」「1匹で襲撃してきたのか?」ラグナスが尋ねる。「2,3匹だと聞いたが・・・どうもうわごとを呟いたり単純すぎたりで、様子がおかしかったらしい。」「あいつらが絡んでいるかも知れないわけか。」「そういう事だ。そしてこの依頼は『イーストブレイズ』と合同で行う事になった。」「だがそんなに大人数で行うのか?」「いや、幾らなんでも人数制限ってのがあるさ。そこで今から言う奴だけ調査に向かう事にする。」その時悠楽の顔が微妙に強張ったのに気付く者はいなかった。ビィは名前を挙げ始めた。「まず俺とシノン、じゅうべい、ポチ、それから・・・」ビィは視線だけ移動させて最後の一人の名を言った。「・・・ラグナス、以上だ。」「えっ・・・俺がか?」突然の指名に驚きを隠せないラグナス。だが横からシノンが話して来た。「こういったのは、近接戦で対抗しにくい弓使いより臨機応変に対応できる奴の方がいいんだ。それに実際、お前は強い・・・それが理由だな。」「そういう事・・・出来る限り早く決行する手筈になっているから今すぐに向かう・・・」ビィが言いかけた時、悠楽が遮って来た。「待って下さい!」「ん?どうした、悠楽?」少し躊躇うような仕草の後、悠楽は彼女を見ているビィに言った。「私も・・・連れて行ってもらえませんか?」
2008/04/05
コメント(0)
ラグナスとシノンは、互いに剣を突き出し合ったまま銅像のように固まっていた。先程とは打って変わった静寂の中、互いを凝視し合う2人。ラグナスの突き出した刀の刃先には、血が少し付着している。シノンの頬が浅く切れており、そこから出血したものだろう。ラグナスの顔のすぐ横にもシノンの長剣が突き出されていたが、ラグナス自身は傷一つ付いていない。静寂を破り、シノンが口を開いた。「・・・ここまでだな。」その言葉が合図になり、互いに剣を引き、ラグナスは血を払った刀を鞘に収めた。「うちが競り負けるのなんて何年ぶりだろうな・・・本当に恐ろしい奴だ。」「その割には妙に嬉しそうじゃないか。」ラグナスが突っ込むと、シノンはふっと笑って言った。「普段は剣魔だの鬼神だのと呼ばれるのを好としていないけど、強い敵に巡り会うと自然とね・・・戦士の性、ってやつか。」「買い被り過ぎだろ、別に俺は勝ったなんて思っちゃいない。」「まあ確かにこんなの傷の内に入らんが、うちが競り負けたのは事実なんだ。自身を持て。」シノンが言った少し後に、訓練場の扉が開いた。「やれやれ、やっと終わったか・・・」入って来たビィは真剣な表情に戻ると、剣を収めた2人に告げた。「でかい依頼が入って来た。今度は別のギルドと合同だ。」「別ギルド?どこだ?」ラグナスが尋ねる。「ヒィんとこ・・・で分かるか?」「イーストブレイズか・・・確かお前の妹さんがいたギルドだよな?」「それだ。」「なら話が早い、早速依頼について説明してくれ。」「おいおいここでか?せめていつもの所で話そうぜ。」そして3人は訓練場を後にし、会議室へと向かった。
2008/03/29
コメント(0)
どちらからとも無く2人は走り出し、それまで保たれていた距離はは一瞬で縮まった。互いの間合いに入り、剣を振るう。刃と刃がぶつかり合う甲高い音と共に互いの剣は弾かれ、ラグナスは素早く左手に握った短剣を繰り出した。焦る事無くこれを防ぎ、反撃へと移るシノン。だがこれもラグナスに防がれ、その後暫くは激しい剣戟が続いた。互いに間合いを取り、一旦体制を立て直す。言葉も小細工も一切無い、真剣勝負。頭の中でスイッチを切り替え、ラグナスはシノンに斬りかかって行った―――。それから数日間というもの、ラグナスは1日に1回はシノンと訓練場で切り結ぶようになっていた。依頼が入って来る事は無く、それは最早習慣化されているといっても過言ではなかった。そして久々にギルドに大きな依頼が入ったこの日も、ラグナスとシノンは訓練場で舞っていた。2人の様子を見に来る者は誰もいない。一度様子を見ようとした悠楽が「シノンが本気出したら間違いなく巻き添え喰らう」とビィに止められた事からもその理由は容易に想像できる。実際2人はとんでもなく激しい剣戟を繰り広げており、室内に入ろうものなら巻き添えを喰らわなくともあの甲高い音が響いて耳が変になりそうだった。斬りつけては防がれ、突いては弾かれ、ほとんど互角の勝負を演じる2人。こいつがこんなに強いなんてな・・・と、シノンは今更ながらに感じていた。それぞれの手で全く異なるタイプの剣を同時に操る技術もさることながら、ラグナスの臨機応変な戦術にシノンは若干押され始めていた。繰り出される刀の一撃を防いで素早く反撃に転じるも、もう一方の手に握られた短剣に阻まれ、そこに再び刀の一撃が襲い掛かる。これを何とか押し返したシノンは、その反動で後退し、距離をとった。同様に後退したラグナスは短剣を鞘に収め、刀1本を構える。そしてそれを腰溜めにすると、右腕に全神経を集中させ始めた。それはかつて、今は亡きエニが最も得意としていた技。来ないと判断したシノンが、逆にこちらに突っ込んで来る。間合いに入った瞬間、ラグナスは1歩踏み出すと同時に神速で刀をその剣に叩き付けた。先程までよりも更に甲高い音が3回、訓練場に響いた。
2008/03/26
コメント(1)
「どうして、か・・・力に頼ってばかりでは、剣の腕など伸びない・・・そのくらいかな。」「能力なんてのは所詮、一流を超一流にする事は出来ても、三流を二流にする事は出来ない・・・空間歪曲ともなれば尚更の事だ、お前は明らかに前者の筈だがな。」「俺は・・・まだまだだ・・・」これまでに見て来た幾つもの光景が脳裏をよぎる。村を失った時、仲間を失った時、そしてつい先日、最大の友人だったエニを失った時・・・いつも自分はその場にいながら何もする事が出来ず、ただその光景を黙って見ているしかなかった。「単に自信が無いだけか、それともよほどの向上心があるのか・・・どちらにせよ、もっと自分の能力に自信を持った方がいいんじゃないの?」「あいつらの能力は未知数なんだ、自惚れるわけには行かないさ。」「確かにそうだが・・・まぁいい、この話はここで終わりにしよう。」何となく気まずくなって来たシノンが話を打ち切り、ビィに尋ねた。「ところで、あいつらに関する依頼は何か来ているのか?」「来ていたら今頃どっか行ってるっつの・・・今は無いけど、そのうち来るかもしれないからそれまでに編成を考えないとな。」「だろうな・・・とりあえずこの辺で戻るか?」「そうしよう。」「ああ・・・なんかとんでもないもん見たわ・・・」そして4人はギルド本部へと戻って行った。本部へ戻って暫くすると、ラグナスはシノンから呼び出しを受けた。何かと思いつつ訓練場へと足を運ぶと、先程と全く変わらない服装のシノンが1人で立っていた。「来たか・・・」シノンは呟くと、いきなり剣を抜いてラグナスの方に向き直った。「さっきの話の続きだけど・・・うちと真剣勝負しないか?」「っ!?」唐突な提案に驚きを隠せないラグナス。それはそうだ、いきなりギルドのエースと戦えなどと言われて動揺しない者などそうはいない。シノンは表情一つ変えずに続けた。「別に負けたからといって止めを刺すつもりはさらさら無いから安心しろ。」「いや、だが・・・」「エニっつったっけ?あの時死んだパラディン・・・」ラグナスの言葉をシノンが遮る。「・・・何なら、うちをそいつを殺した奴だと思ってもいい・・・本気で殺されちゃ困るがな。」瞬間、ラグナスの目つきが微妙に変わった事をシノンは感じた。「・・・分かった。」ラグナスは静かに答え、双剣を引き抜いた。
2008/03/22
コメント(0)
「それについて触れる前に、まずはこの剣について話さなきゃならないな。」「一体何なんだ、その剣は?」シノンが尋ねる。「見れば分かるとも思うが、この剣はただの剣じゃない・・・この剣には精霊が宿っている。」「精霊だって!?」ビィが驚いたような声を上げる。元々精霊などまず見れるものでもないから無理も無いのだろうが。腕を組みながら、今度はシノンが尋ねて来た。「確かその剣はギルドに来た時から持ってたよな・・・それ以前に精霊と契約していたのか?」「ああ・・・確か騎士団に入るより前には契約を交わしていた気がするな。」「まあそれはどうでもいいんだが・・・要するに、先日のお前の能力は全て精霊の力を借りたものだったと?」「結論から言ってしまえばそうなるな・・・例えばこのような物とか。」そう言った直後、ラグナスの姿は一瞬でシノンの目の前に移動した。「―――っ!!」鋭い反応でラグナスの一撃を防ぐシノン。ラグナスは追撃する事無く剣を引きながら言った。「俺はさっきからここにいた・・・あそこにいたように見えたのは、ビィ達の錯覚だ。」「それが1つ目か?」シノンが尋ねる。「ああ、物理法則を無視してあらゆる物を強引に捻じ曲げる・・・その結果が先程のあれだ。」「そして、2つ目があの遠隔攻撃・・・か?」「ああ・・・ビィ、少し剣を構えててくれ。」「えっ、こうか・・・」ビィが剣を構えるのを確認すると、ラグナスは離れた位置から漆黒の刃を振った。互いの間合いからは遥か遠いはずの刃がぶつかり合う音が2回すると同時に、ビィの手にも手応えが来る。「!?」「これは1つ目の応用みたいなもので、自分と相手を結ぶ亜空間を生み出し、そこに刃を通す。そうすれば・・・」ラグナスが刃をもう1回振り、再び接触音。「・・・相対距離がゼロになり、遠距離から相手を攻撃出来る。」「なるほどなぁ・・・」感心した様子のビィが呟く。「後は状況に応じた属性付加も出来る・・・とりあえずはこのくらいか。」「なるほどな、大体は分かった、だが・・・」シノンはラグナスを真っ直ぐに見据え、再び尋ねた。「どうして今までそれを使わなかった?」
2008/03/17
コメント(0)
ダンバートンに戻った2人は、そのままギルドの本部へと直行した。「おっ、ラグナス。」真っ先に反応したのはビィだった。「遅れてすまなかった・・・何か変わった事はあったか?」「いや、特に何も・・・それより、ちょっと付いて来てくれないか?」「付いて行く?何処にだ?」「なぁに、畑の傍さ・・・シノン達も来るか?」ビィが呼んだ結果、シノンとじゅうべいも同行する事になった。そしてダンバートン南の農耕地。畑の傍で、4人は止まった。「さて・・・誰も見てないよな?」辺りを確認すると、ビィは単刀直入にラグナスに尋ねて来た。「ラグナス、1つ聞くけど、お前はいつの間に超能力を扱えるようになった?」「超能力だって?」唐突な質問に動揺するラグナス。「一体何の根拠があって・・・」「イメンマハ防衛戦の時さ。」ズバリ言われる。「あの時お前は間合いの遥か外から攻撃していたり、遠くから一瞬で俺達の目の前に移動して来たりした・・・今までのお前はそんな能力なんて無かった筈だがな。」返答に迷い、目線を逸らすラグナス。『どうするのよラグナス、言っちゃうの?』(言うも何も、そうしなきゃ何されるか分かったもんじゃないからな。)『ま、それしかないか・・・』「ラグナス?」ビィの声に顔を上げると、そこにはいつになく真剣なビィの表情。「・・・話すしかないみたいだな・・・分かった。」そう言うと、ラグナスは静かに漆黒の剣を抜き放った。
2008/03/10
コメント(0)
墓地の一角にあるエニの墓には、既に先客がいた。軽装甲を身に纏った女性・・・エルナだった。エルナもこちらに気付いたようだ。「ラグナスさん・・・」「墓参りか?」「はい・・・」「お前はこれからどうするんだ?」ラグナスはエルナに尋ねた。最愛の恋人を亡くしてしまった今、騎士団の中にエルナの居場所は無くなったのかも知れない。そして、エルナの答えは予想通りのものだった。「騎士団を離れる事にしました・・・今の私に何が出来るか、探そうと思います。」「そうか・・・。」「暫くは、会うことも無いでしょうね・・・」「ああ・・・」何か声をかけてやれないかという焦りと、会話が続かないもどかしさがラグナスの心に巣食う。「ラグナスさんは、これからどうするんですか?」エルナの問いかけに、ラグナスはリダイアに行ったのと同じ事を言った。「そうですか・・・ダンバートンに・・・」「あそこなら結構多くの情報が集まっているかもしれない。その中に『鍵』があると俺は見ているんだ。」「『鍵』ですか・・・分かりました。では、また・・・」エルナはそれだけ言うと、何も言わずに墓地を後にした。「皆、それぞれの道を歩き始めたみたいですね・・・」「そうだな・・・とりあえず、俺達も歩き始めるか。」「はい。」そして二人は墓地を後にし、ビィ達の待つダンバートンへと向かった。これがほんの序章に過ぎないと言う事は、この時点では誰も知る由も無い事だった。
2008/03/08
コメント(0)
期末試験だったわけだ、うん。水曜日くらいから春休み入ってたんだけどBoPとかの執筆に追われてなかなかこっちを更新する機会が無くて・・・うん、言い訳乙だね自分orzというわけでとりあえずこっちの更新を(一応)再開という事で。余談なんだが来年から3年生という事で制服じゃなくて私服登校が出来るようになると言う事になってるんだが来年からは制服自体が無くなるようだ。正確には来年は移行期間でその次の年からなのだがどっちにせよ今年までギリギリ制服だった自分涙目。そんだけ。
2008/03/08
コメント(0)
「そうか・・・死者が出てしまったか・・・」報告が終わり、報告を聞いていたリアンがそう呟いた。「既に葬儀は終えました。慣例にしたがってあの墓地に埋葬されています。」「エニ、か・・・確か以前、君と組んでいた騎士だったな?」「はい・・・あいつには恋人がいました・・・」「世の中というのは、時に残酷に動くものなんだな・・・彼の冥福を祈る事しか、今の僕には出来ない。」しばしの沈黙。再びリアンが口を開いた。「それで、ラグナス達はこれからどうするつもりなんだ?」「一度、ダンバートンに戻ろうと思います。そこで、出来る事から始めたいと思います。」「騎士団には戻らないのかい?」「同じ事をクレイグ教官にも言われましたが・・・俺もリダイアも戻るつもりはありません。」「そうか・・・分かったよ。それならばこちらも無理に戻す気は無い・・・君達の幸運を祈る。」「はい・・・では。」そして3人は謁見の間を後にした。「リダイアはこれからどうするんだ?」イメンマハの広場で、ラグナスは尋ねた。「そうだな・・・まあ、遮二無二暴れてもどうにもならないから、今までのように商売やりながらあちこちで情報を集めるつもりだ。」「そうか・・・じゃあ、お互い無事でな。」「ラグナスもな。」そう言ってリダイアは東の方へと向かって旅立った。「さて・・・俺達も戻るか。」「はい。」そして歩き出した2人は、出発の前に墓地に向かう事にした。
2008/01/26
コメント(0)
ここ数日で幾度と無く訪れて来た謁見の間。だが、今までとは全く違っていた。何故なら、その玉座に座っているリアンは完全に、と言う訳ではないが、食事や会話くらいなら支障は無い程度に回復していたからだ。3人が謁見の間に姿を現すと、リアンは微笑みと共に出迎えてくれた。「ラグナス・・・久しぶりだね。」「お元気そうで何よりです、リアン様。」「まあ、まだ足の感覚がちょっとね・・・でももう大丈夫だよ。」「リアン様、お許しを・・・私が不甲斐無いばかりに・・・」跪いたまま、リダイアが呟く。「もういいんだよ、リダイア。僕はこうしてまた戻って来たじゃないか。それに後悔したって何も変わらないよ。」リダイアはそのまま黙したままだ。リアンは次に悠楽に目を向けて驚愕した。「あれ・・・君は確か・・・」「はい、悠楽です・・・ご無沙汰しております、リアンさん。」「何だ悠楽、会ったことがあるのか?」「はい・・・昔、お父さんの視察に付いて来た時に。」そういえば悠楽の父親は国王だったんだよな、とラグナスは思い出した。リアンが悠楽に尋ねる。「首都は跡形も無くなったと聞いていたけど・・・」「私は何とか逃げる事が出来ました。けれど、お父さん達は皆・・・」「そうか・・・それで、今はどこに?」「今はラグナスさん達のギルドに匿ってもらってます。」「ギルド・・・ラグナスは騎士団を離れたのかい?」リアンがラグナスに尋ねる。「俺だけではありません、あの後リダイア隊長を含めて数名の騎士が騎士団を追われ、残った騎士達の中にも自ら離れる者がいました。」「ふむ・・・エスラスの政治に変な感じはしていたけれど、まさかこんな事になるなんて・・・」「それよりも、まずは先日起こった事について報告しておかないと・・・」そしてラグナス達3人は、白ローブの男達によるイメンマハの襲撃についての報告を始めた。
2008/01/26
コメント(0)
それから数日が経ち、ビィ達ダイアモンドチェインのメンバーはラグナスと悠楽を残して全員ダンバートンへと帰る事となった。「じゃあ、先に帰ってるよ・・・ラグナス、くれぐれも粗相の無い様にな。」「さっきから何度目だよ、その台詞・・・」昨日の件から1日。ダイアモンドチェインのメンバーの殆どが、悠楽に対する態度を改めるようになっていた。もっとも、当の悠楽本人は「別に今まで通りでいいのに・・・」と言っていたのだが。「よし、行くぞ、皆!」ビィの掛け声で、彼らを乗せた馬達が一斉に走り出し、瞬く間にその姿は密林の中へと消えた。その後、二人は広場に向かって海を見ていた。「こうしてゆっくりと海を見る事なんて、今までには無かったな・・・」「本当ですね・・・何だか、今私達の周りで起こっている事を忘れてしまいそうです。」「まぁ思い出したくも無い事ばかりなんだけどな。」思えば、悠楽と出会ってからもう1週間近くが経つ。白ローブの男達の襲撃、その中でも特に強力な存在であるグロールという男の出現、そして最大の親友、エニの死・・・その他いろいろな事が一度に降りかかって来ていたためか、久々にこうしてリラックスする時間が出来たと言うのは喜ぶべき事だった。もっとも、完全にリラックス出来る訳でもないのだが。「この先、俺達はどうすればいいんだろうな・・・」「よく分からないです、でも・・・それでも、私達にはまだやれる事が残っている筈です。」「まだやれる事、か・・・こればっかりはいくら考えても仕方ないんだろうな。」ラグナスの言葉を聞いていた悠楽が、ふと思いついたように話し始めた。「そういえば、昔私が考え事をしていた時には、お父さんがよく言ってました・・・『問題を解決する鍵は、案外近い所にある物なんだ。』って・・・」「鍵・・・」「多分、今回の事も案外身近な所できっかけが作れたりするかもしれませんね。」「そうかもな・・・いい父親を持ったんだな、お前は。」「はい・・・ラグナスさんのご両親は?」悠楽が聞くと、ラグナスは少し顔を曇らせて答えた。「俺は・・・正直言ってあんまり覚えちゃいないんだ。物心ついた時には母さんが死んでいて、それから3年は男手一つで育てられて来たけど・・・」「あっ・・・ごめんなさい・・・」「いいんだよ、お互い様だ・・・」それから何となく会話が途絶え、2人は飽きる事無く海を見続けていた。暫くそうしていると、後ろから声をかけられた。「ラグナス!」「ん・・・?」振り返ると、そこにはリダイアがいた。「どうしたんだ、リダイア?」「リアン様が・・・リアン様が目を覚ましたぞ!」「本当か!?」「ああ、お前たちの事を話したらぜひ会いたいと。」「分かった・・・行くぞ、悠楽。」「はい。」そして3人はリアンの待つ城へと戻って行った。
2008/01/16
コメント(0)
夜の峠道を走り、密林を抜け、昼間発った都市にラグナスは戻ってきた。宿屋にビィの馬を戻した後、駆け足で城へと向かう。ようやく着いた謁見の間には、リダイアとビィ、そして何故か悠楽までもがいた。「あ、戻ってきた。」一番始めに気付いたビィが声を上げると、リダイアが即座にラグナスのほうを向いた。「ラグナス・・・何か分かったか?」「ああ・・・どうやら毒を盛られていたらしい。解毒剤も調合して貰って来た。」ラグナスはそう言うと、鞄の中からジリウスに貰った解毒剤のビンを取り出した。「これか?」「ああ、直接飲ませればいいそうだ。」「分かった。」ラグナスからビンを受け取ったリダイアは、そのまま玉座のリアンに近付き、その口に白い液体を注ぎ込み始めた。「全部飲ませるのか?」「多分そうだろう。」その後もリダイアは、液体が零れない様に慎重にリアンの口に流し込み続けた。やがて液体が無くなると、リダイアは再びリアンに向けて話しかけ始めた。「リアン様、私が分かりますか?リダイアです。」「慌てるなリダイア、その薬は遅効性のようだから、すぐに効果が現れるわけじゃない。」「そ、そうか・・・」そう言われても尚、不安そうな表情でリアンを見るリダイア。昔からこの男は人一倍リアンに対する忠誠心が高かった。騎士団を追われ、時が経ってもそれは変わらないようだった。「とりあえず今日はもう宿に戻ろう・・・えっと・・・」ラグナスは悠楽に声をかけようとしたが、彼女が一国の姫君だと思い出すと躊躇してしまう。「えっ・・・な・・・何ですか・・・?」「いや・・・その・・・声をかけ辛くて・・・」「えっと・・・い、今まで通りで、結構です・・・」「そ、そうか・・・なら、戻るぞ。」「はい・・・」踵を返し、先に宿屋に戻った二人。リダイアとビィも、それに続いた。
2008/01/13
コメント(2)
『一先ずは何とかなったわね。』「この件に関しては一件落着かな。」『まあ、まだ全部終わっちゃいないけどね。』「ああ・・・分かっている。」いつかは訪れる、あの男達との戦い。そう、いつまでも感傷に浸っている訳には行かないのだ。「出来る事からやって行くしかないだろうな・・・」『まあ、こればかりはいくら考えたってどうしようもないしね。』「・・・おーい、出来たぞー!」奥からジリウスの声が聞こえて来る。「出来たみたいだな・・・」ラグナスは壁から離れると、ジリウスのいる奥の部屋へと向かった。「はいよ、これが解毒剤だ。」そう言ってジリウスが差し出したのは、白い液体が入ったビン。ラグナスはそれを受け取ると、鞄の中に仕しまい込んだ。「すまないな。」「いいさ、これくらい・・・ちょっと待ってくれ。」ジリウスは色々な試薬が置いてある棚から透明な液体が入った大きな容器を取り出すと、それをコップに少しだけ注いでまた元の位置に戻した。そしてその液体を飲み干し、再びラグナス・・・いや、エルマの方を向いて話しかけた。「よう、エルマ。元気だったか?」『元気も何も、ここ数日あちこちで色々あったからねぇ・・・まぁこれからも色々あるんだけどさ。』エルマも当然のように応える。「どうやら精霊ってのは災厄を引き付ける力があるらしいな。」『こいつ・・・私を疫病神みたいに・・・!!』憤慨するエルマに苦笑を浮かべつつ、ジリウスはラグナスに向き直った。「まぁ、俺はここからじっと見させて貰うさ・・・必要があればいつでも戻って来いよ?」「ああ・・・またな。」そう言うと、ラグナスはジリウスの家を後にした。そのまま街の入り口にいたビィの馬に乗り込み、ラグナスはリダイア達の待つイメンマハに向けて走り出した。
2008/01/09
コメント(0)
「・・・というわけだ。」ラグナスがリアンの容態について一通り説明を終えると、ジリウスは腕を組んだまま呟いた。「ふむ・・・体温は保たれていて脈もあるが、動作は一切無い、か・・・脳か脊髄辺りがやられていそうなんだがな・・・」「特定は出来ないのか?」「というよりは、そういう症状ってのはそんな短期間で出るようなもんじゃないんだ。呪いならともかく、それをかけている本人はもういないんだろ?」「ああ、確かに俺が倒した筈だ。」「もしかしたら病でも呪いでもないのかもしれないな・・・。」「結局分からずじまいか・・・」「しっかしそんないきなりで人形みたいになっちまうもんが・・・ん・・・?」独り言を言いかけたジリウスが、何かに感づいたように動きを止めた。その後本棚へと向かったジリウスは、少し厚めの本を取り出してページをめくり始める。そして、あるページで止まり、何を見たのか目を見張った。すぐに机の方に戻り、そのページを開いた本を置く。「分かったぞラグナス、やっぱり病なんかじゃなかった・・・正体はこいつだ。」ラグナスがそのページを覗き込み、書かれている薬品の名前を呟く。「マリオネットポーション・・・?」「ああ・・・脊髄を物理的に機能停止させて、植物人間にしてしまう遅効性の毒薬だ。こいつならあの期間でリアン様がやられちまったのも辻褄が合う。だが・・・」ジリウスは呆れたような仕草をして続けた。「今になってもそんなのを使おうとする馬鹿がいるなんてな・・・驚きだぜ。」「それで・・・治す事は出来るのか?」「遅効性の物だが、解毒剤なら調合できる。まあこいつは死に至るような奴じゃないし、その辺は安心だろ。だが・・・」「材料はこっちで用意しろ、か?」ラグナスが遮る。彼も時々ポーションを調合してもらいに訪れていたのだが、あまり金に余裕が無いラグナスはいつも自分で持ち込んできたハーブで調合してもらっていた。「察しがいいな・・・」「いつもの事だからな・・・ちょっと待ってろ。」そう言うとラグナスは背負っていた鞄を下ろすと、それを開けた。中に入っていたのは、ラグナスがあちこち回って集めて来た色とりどりのハーブ。「おいおい、もう用意していたのかよ・・・」苦笑いを浮かべながら中を覗き込んだジリウスは、早速物色を始めた。「えーと、ベースとマナがこんだけと、解毒草に・・・お、マンドレイクまであるな・・・よし、これだけあれば作れるだろ。」ジリウスは腕に抱えたハーブを机に置くと、調合の準備をしながらラグナスに言った。「んじゃあ今から調合するから、ちょっと向こう行っててくれ。終わったらまた呼ぶ。」「分かった。」ラグナスは踵を返すと、早速調合を始めたジリウスを置いて商品棚の部屋まで戻り、適当に壁にもたれかかった。
2007/12/29
コメント(0)
ダンバートンに着いたラグナスは、入り口に馬を留めて街中を歩いていた。その背中には、少し膨らんだ鞄が背負われている。『ねえラグナス、アイツが何も知らなかったらどうするのさ?』エルマが話しかけてくる。「その時はその時さ、図書館漁ってでも見つけてやるさ。」『図書館って・・・あんたねぇ・・・』「今はそれしか手が無いんだ、賭けてみるしかないさ・・・っと、ここだな。」ラグナスが立ち止まった小さな建物の扉には、ポーションが描かれた看板がかけられていた。躊躇無く扉をノックすると、中から1人の男が出てきた。黒いローブにダークブルーの髪と瞳で、ラグナスよりは少し年上に見える。その男に、ラグナスは話しかけた。「よう、ジリウス。」「何だラグナスか・・・またポーション切れたか?」「いや、今回は別の用事があって来た。」「何だって?」「とりあえず中に入ってもいいか?」「ああ、いいぞ。」ジリウスと呼ばれた男はラグナスを中に入れると、扉を閉めた。彼はヒーラーと言うよりはポーションの調合師で、自分で調合した色々なポーションを販売して生計を立てている。家の中には沢山のポーションが並んでいたが、2人はそれを気にも留めずにその奥にある部屋に入った。その部屋の中には、薬草学の色々な本が並んだ本棚と、調合器具と生活用品がごっちゃになって置かれていた机その他があった。「・・・で、その用事ってのは何だ?」「病の相談・・・って所か。」「病だって?誰がだ?」「現イメンマハ領主のリアン様だ。」「何だって!?」リアンの名を聞いたジリウスが驚いた顔で振り返る。「それ・・・本当なのか?」「こんな事を嘘で言うわけが無いだろ・・・今から容態を話す。」そしてラグナスは、リアンの容態について具体的に説明し始めた。
2007/12/24
コメント(0)
「リアン様!!」リダイアが一目散にリアンの許へと駆け寄り、声をかけた。「リアン様、私です、リダイアです!悪政を布いていたエスラスは私達が倒しました!私が分かるならお返事を!」だがリアンは全く動かなかった。全く力の入っていない頭は垂れ下がり、目の焦点も合っていない。体温が保たれている事のみで、生きている事が僅かに分かる程度だ。「エスラスを倒しても戻らないって事は、やっぱり何かの病なんじゃあ・・・」「どうやらそうらしいな・・・待てよ・・・?」ラグナスの呟きをよそに、リダイアは悔しそうに叫んだ。「くそっ、何か方法は無いのか!?このままでは・・・」「待ってくれリダイア、俺に考えがある。」「本当か、ラグナス?」リダイアだけでなく、ビィまでもがラグナスに注目する。「ああ、ダンバートンに俺の知り合いのヒーラーがいるんだ。無愛想だが腕は俺が保障する。多分そいつに聞けば何か分かるかもしれない。」ラグナスの言葉にリダイアが呟く。「ダンバートンか・・・遠いな。」「確かにここからだと時間がかかるな・・・ビィ、悪いけどちょっと馬を貸してもらえるか?」「俺のか!?そうは言ってもだな・・・」「どうせ色々あるからまだしばらくはこっちにいるんだろ?こっちは一刻を争うんだ、頼む!」ラグナスの必死さに、ついにビィが折れた。「わ、分かったよ、宿屋の脇にいるから使いな・・・その代わり、絶対無事に返せよ?」「分かっている・・・念のためリダイアはこっちにいてくれ。」「分かった、何かあったらすぐ知らせる・・・気をつけろよ。」「ああ・・・また会おう。」そう言って、ラグナスは宿屋へと向かった。
2007/12/22
コメント(0)
ラグナス達が突っ込んで来るのを見たタバルタスは右腕を振りかぶり、横っ面を殴るようにして振り回して来た。ラグナスは間合いに入らなかったものの、その少し前を走っていたリダイアは危うく直撃を喰らってどこかを持って行かれる所だった。だが、その大振りな攻撃はその後に多大な隙を生む。タバルタスのような巨体を持つものならばそれは尚更の事で、その隙をラグナスは見逃さなかった。短剣を握る左腕を突き出し、人の頭くらいの大きさに膨れ上がった火球を放つ。重い右腕は火球を叩き落すのに間に合わず、左腕は死角にある火球を防げない。火球はそのままタバルタスの胸部を直撃し、吹き飛ばす事は出来なかったが多少怯ませる事に成功した。「リダイア、今だ!」「任せろっ!」リダイアがタバルタスに駆け寄り、がら空きの胴体に向かって長剣を投げつけた。狙い違わず胸部に突き刺さった長剣は更にタバルタスにダメージを与えたが、痛みのあまりに地面に打ちつけた両腕が再び衝撃波を生み、ラグナスとリダイアを吹き飛ばした。「うわぁっ!!」「ぐっ・・・!!」強力な衝撃波に受身を取る事も出来ず地面に倒れる2人。呻き声を上げながら立ち上がり、ラグナスが吐き捨てた。「くそっ、あの衝撃波を何とかできないのか?」『あんなのまともに防げないわよ!何か別の方法で・・・』「2人とも、伏せろ!」突然後ろから声が聞こえ、振り返ると術の詠唱を終えたビィが先程のラグナスが放った物よりも更に大きい火炎弾を放つビィの姿があった。あれは・・・ファイアボール!全速力でタバルタスから離れ、魔術の効果範囲外に滑り込む。直後、ラグナスの真後ろで大爆発が起こり、爆風でタバルタスも吹き飛ばされて仰向けに倒れた。「今だラグナス、畳み掛けろ!!」ビィの指示が飛び、ラグナスは再びタバルタスに突っ込んで行く。そして跳躍し、下方に見えてきたタバルタスの胸部に思う存分遠隔攻撃を喰らわせた。弱点をズタズタに切り裂かれた巨人が断末魔の咆哮をあげながら身体を弓なりに反らせる。やがてその咆哮が消え行くと同時に、タバルタスは地響きと共に倒れ、二度と動く事は無かった。沈黙が、大部屋を支配する。「や、やった・・・のか?」リダイアが信じられないと言うような声で呟く。ラグナスとビィは何も言わず、安堵の溜息と共にそれぞれの武器を鞘に収めた。再び訪れた沈黙の後、異変は訪れた。エスラスにここまで飛ばされた時のように辺りの景色が歪み、数秒後には3人は謁見の間に戻って来ていた。その玉座には、今だ生気を無くしたままの領主が座っていた。
2007/12/19
コメント(0)
「な・・・馬鹿な・・・瞬間移動、だと・・・?」「俺は始めからここにいた・・・お前の能力なら歪みを検知する事も出来ない訳ではなかっただろうに・・・目だけに頼りすぎた事がお前の敗因だ!」そう言うとラグナスはエスラスの身体を蹴り飛ばし、剣を引き抜いた。倒れたエスラスは最早起き上がる事も出来なかった。「まだだ・・・まだ終わってはいない・・・古代の知識の守り手・・・タバルタスで・・・貴様らも道連れに・・・」途切れ途切れにそう呟いた後、エスラスは静かに事切れた。「タバルタス・・・一体何の事・・・」ビィが呟きかけたその時、3人を地響きが襲った。「うひゃっ!?」「うおっ!!」「くっ・・・!!」その揺れは次第に大きくなり、主要動並みの規模の状態が暫く続く中、突然壁に亀裂が入った。「何だ・・・」ラグナスの声は、次の瞬間何かが壁を砕いた轟音に掻き消された。揺れが収まり、何とか立ち上がった3人の目の前には、ゴーレムに似た岩石の巨人が現れていた。「あれは・・・タバルタスか!?」リダイアが巨人を見て叫ぶ。ラグナスもその名は聞いた事があった。古代の知恵を守る者達、神々の代理者。元々ケオ島やキアダンジョンに出現するゴーレムは、人の手によって造られたそれの劣化模倣物だとも言われる。3人ともゴーレムとの戦闘の経験はあるのだが、今目の前にいるそれはゴーレムとは比べ物にならない代物だと言う事は容易に感じられる。タバルタスがその右腕を振り上げ、思い切り地面を叩き付けると、部屋中に衝撃波が広がり、3人は軽々と吹っ飛ばされた。受身を取って着地したラグナスが素早く走り出す。『ちょっとラグナス、タバルタス相手に勝てるの!?』「勝算が無くてもやるしかないんだ・・・やってみせるさ。」「ゴーレムとは明らかに違う・・・さあ、どうするかな・・・」「やれやれ、最近貧乏籤が多い気がするんだよなあ・・・」「愚痴ってないで行くぞ、ビィ!」敵を目前にして肩を落とすビィを尻目に、ラグナスとリダイアはタバルタスに突っ込んで行った。走りながら、ラグナスは魔術の詠唱を始めた。
2007/12/15
コメント(0)
何の前触れも無く更新途絶えて失礼。実は昨日まで中間試験があったもんだからな。もう終わったし明日からまた小説執筆再開する予定ではいるが。ついでに告知しとくと年末年始は親の帰省でまた小説執筆は無しになるのでよろしく。さて、中間試験が終わった昨日、新しいネトゲを始めてみた。マビでのギルメンがやってたやつだからそのうちバッタリ会うかも知れん。つってもまだ結構先の話だろうがな、何せまだ慣れんし。昨日課金してきて結構ハマって来たがいかんせん結構暇になりやすいのがな・・・SSも撮ったがそれはまた後程。
2007/12/08
コメント(0)
「やはり来ましたね・・・」謁見の間、玉座の前に立つエスラスの正面には、ラグナス、リダイア、そしてビィの3人がいた。「お前の目的はもう分かっている。そんな事、決してやらせはしないぞ!」リダイアが腰の剣の柄を握りながら言うが、エスラスはフッと笑うだけだった。「こちらもあなた達の事は調べさせてもらいました・・・私の野望を邪魔すると言うのならば、あなた達には消えてもらわねばなりません。」「消えるのはお前だ、権力に取り憑かれた愚か者!」ラグナスが氷のような視線でエスラスを睨めつける。「何の話かはまだあんま飲み込めないけど、あまり俺達を甘く見ない方がいいかもよ?」ビィも背中の両手剣に手をかけ、臨戦態勢に入る。「戯言を・・・底知れぬ坑道の奥で果てるがいい。」エスラスの言葉が終わるや否や、辺りの風景が歪み始めた。不気味な色が入り混じり、蠢き、しばしの後にそれが元に戻った時には、4人は坑道らしきものの大部屋の中にいた。「バリダンジョンか・・・考えたな。」「フフフフ・・・では始めましょう・・・」エスラスはそれまでに見た事の無い類の笑みを浮かべると、自分の周りに何体ものスケルトンを召喚した。いずれも手には巨大な剣が握られている。「早速本性現しやがったか・・・」ラグナスは呟くと、一番近くにいたスケルトンに斬りかかった。ビィとリダイアもそれに続き、スケルトンを倒していく。「ビィ、リダイア、相手は魔術も使える。こいつらだけに気を取られるなよ!」「んなこと言われなくても分かって・・・どわっ!?」とっさに回避行動を取ったビィのすぐ横をエスラスの放った雷球が掠める。舌打ちして次の詠唱に入るエスラスだったが、ラグナスの繰り出す遠距離攻撃に阻まれる。「くっ・・・!」「詠唱する暇など与えん。」「ならば・・・!!」詠唱を諦めたエスラスは冷気を纏った拳でラグナスに飛びかかったが、その拳が届く寸前でラグナスの姿は掻き消えていた。「っ!?」反射的に後ろを向いたエスラスの視線の先には、間合いを広く取ったラグナスの姿。「力に取り込まれし愚者よ・・・今ここで滅べ!!」その叫びが終わるや否や、エスラスの脇腹に深々と漆黒の刃が喰い込む。先程まで離れていたはずのラグナスが、一瞬で至近距離まで迫って来ていた。
2007/11/17
コメント(0)
「私はそれまでエイリフ王国第二皇女として、ここから遥か西の地で生活していました・・・けれど・・・」悠楽は顔を曇らせながら続けた。「皆さんもご存知の通り、私の能力があの人達に狙われていました。9年前のあの日、突然城に訪れたあの人達は、私の身柄を引き渡すように言って来ました。」「世界の『浄化』の為に、か・・・?」「はい・・・勿論父はそれを許さず、その結果があの惨事でした。多分、逃げ切れたのは私だけなんじゃないかと思います・・・」しばしの沈黙。「それからはひたすら東へと逃げてばかりでした。私を匿ってくれた村や街は一つ残らず壊されました・・・」「成る程・・・その後の進撃はそういう事だったのか・・・」シノンが腕を組みながら呟く。そして悠楽の方に視線を戻すと、シノンは尋ねた。「なあ悠楽、あの白ローブの奴等は魔族なのか?」悠楽は首を横に振りながら答えた。「多分、違います・・・逃げている途中で見たんです・・・あの人達がウィスプやコボルドと戦っている所を・・・」「魔族とも敵対関係にある何か・・・世界の浄化・・・突拍子も無さ過ぎてよく分からないな。」「そうか?とりあえずこれだけは言える筈だがな・・・」ラグナスの呟きにシノンが答え、更に続けた。「あいつらはうちらと魔族共通の敵であって、近いうちに総力戦になる事は避けられない、ってな。」「総力戦、か・・・」あの戦いよりも遥かに規模の大きな戦いが繰り広げられる。想像するだけでも恐ろしかった。だがそうでもなければあの男達の勢いを完全に止めるには至らないと言うのも事実。いずれ訪れる戦いをあれこれ悩んでも仕方が無かった。「話を戻そう・・・騎士団離脱後もしばらくはエニと手紙のやり取りをしていたが、どうも不穏な動きが見られたらしい。」「つまり、あのエスラスってドルイドが何か企んでるわけか・・・」「そう考えていいだろうな・・・このまま放置しておくと、何が起こるか分かったもんじゃない。」「だけど、まさかお前一人で行く気じゃあ・・・」ビィが心配するが、ラグナスは落ち着いて制した。「心配するな、役者は揃ってる。そうだろ、プライス・・・いや、リダイア?」「えっ・・・?」「何だって・・・!?」ビィ達の視線が一瞬でリダイアに集まった。「・・・ああ、そうだな。ようやくあいつに一泡吹かせる事が出来る。」「ち、ちょっと待てよ、お前らの話は分かったけど、それでも宰相なんだろあいつは!?そんな奴を手にかけてみろ、大変な事に・・・」「だからといってこのまま黙って見過ごすわけには行かないんだ、頼む、行かせてくれ。」制止を遮られたビィはしばらく頭を抱えて何やらブツブツ言っていたが、やがて半ばヤケクソ気味に言った。「ああ、もうっ!分かった、俺も行く!どの道危ない道に入るんだ、今更何が来たってもう怖くないぞ!」意外な提案により、ビィも加えた3人で行く事になったのだった。
2007/11/17
コメント(0)
「昔話といっても4年位前の話だ・・・俺がパラディン騎士団に入ったのは、その年だ。」それが、ラグナスの最初の言葉だった。部屋の中は異常なほどに静まり返り、誰もがラグナスの話に耳を傾けていた。「当時のリアン様は優れた手腕を持たれていると言われていたが、実際はその政治のほとんどをエスラスというドルイドに任せていた。」「エスラスって言うと、あの時城で演説した・・・」「そう、あの女だ。その後俺は騎士として活動していたが、2年前、ある事件が起きた。」「イメンマハの惨劇、か・・・」シノンが呟く。「ああ、そうだ。そして俺達パラディン騎士団はリアン様と共に魔族が出現したコイルダンジョンに向かい、魔族の討伐を実行した。だが・・・」そこまで言うとラグナスは一旦言葉を切り、目だけをリダイアに向けた。リダイアもまたラグナスを見て、小さく頷く。ラグナスは視線を戻し、続けた。「・・・だが当時の隊長であったリダイアの剣が誤ってリアン様の足に刺さり、リアン様は重傷を負った・・・あの様な状態になり始めたのはその時からだ。」「感染症にでも?」「あんな状態になるような感染症なんて聞いた事が無いがな・・・とにかくその後リダイアはリアン様に傷を負わせたとされて騎士団を追われ、他のいくらかの騎士にも同様の罰則が下された。」「お前もその内の一人なのか、ラグナス?」「いや、俺にはそんな罰則は下されなかった。だが・・・あそこにいる意味を見出せなくなって、俺は自ら騎士団を離れた。」「『あそこにいる意味』?」「当時の俺はリダイアを尊敬していた。今でもそれは変わらない。リダイアを裏切り者としようとする流れに反発するうちに、俺の居場所は無くなったのかも知れない。」沈黙。「・・・ともかく、その翌年に俺はこのギルドに入って今に至る訳だ。」「騎士が姫君の護衛、か・・・」シノンが呟く。「姫君?」「ああ・・・悠楽の事さ。」「悠楽が!?」視線が一斉に悠楽に集中する。「えっ・・・どうして・・・」悠楽が驚愕の表情でシノンを見つめる。シノンは悠楽の腰辺りを指差して言った。「その短剣さ・・・見せてみ?」言われるままに悠楽が短剣を取り出すと、シノンは次に短剣の鞘を指差した。「その鞘の装飾は、9年前に例の奴等に皆殺しにされたエイリフ王国の王家の物だ。あの時、王族の中で唯一姫君だけが行方不明となっていたが・・・まさかこんな所まで逃げてきていたとはな。」「なっ・・・そうなのか、悠楽?」ラグナスが驚いて尋ねる。暫くの沈黙の後、悠楽はゆっくりと口を開いた。「・・・はい・・・シノンさんの言う通りです・・・」
2007/11/14
コメント(0)
翌日執り行われたエニの葬儀には、ラグナスやパラディン騎士団の面々の他、ビィやシノン、悠楽達も参列した。幾つもの剣が突き立った墓地の中を、エニの遺体が収められた棺桶を中心に、数人の騎士達の列がゆっくりと移動する。その最後尾には、儀礼用の鎧に身を包み、愛用の長剣を抜き身のまま掲げたラグナスの姿があった。やがて棺桶を納めた穴を埋め立て、更に土を盛って少し盛り上げる。そしてその土山の前に、剣を掲げたままのラグナスが立った。掲げた剣の刃を下に向け、一気に土山に突き立てる。そして一歩下がって印を切ったラグナスは、列に戻り、墓地を後にした。葬儀が終わり、着替えたラグナスが部屋に戻って来た時には、ギルドのメンバー全員とリダイアが集まっていた。「あっ、ラグナスさん・・・」一番最初に気付いた悠楽が声をかける。他の皆は声が掛けづらいのか、リダイア以外は複雑な視線でラグナスを見ていた。「・・・そんな目で見ないでくれ。逆にやり辛いだろ?」「いや、それはそうだけど・・・何言っていいのやら・・・」ビィが困った声で言うと、ラグナスはビィに向き直って言い返した。「俺としては、余計な心配なんて必要ないし、そんなのかけられたくも無い。今まで通りに接してくれればいいさ。」沈黙。雰囲気に耐えかねたのか、悠楽は話題を変えようと再び声をかけた。「と、ところでラグナスさん、その剣は・・・?」「ん?ああ、これか・・・」ラグナスの腰にそれまで使っていた長剣(エルマが宿っていない方)は無く、代わりにエニが使っていた刀が差されていた。「騎士団流の死者の弔い方だ。自らの武器を供え、戦友の武器を継ぐ・・・」「古来武器にはその主の意思が宿っていると考えられ、その死者の武器を使うことで遺志を継ごうと考えたというのが始まりとされている。」ラグナスを遮り、そう言ったのはシノンだった。意外そうな顔をしてラグナスがシノンを向いた。「・・・よく知っているな。」「以前本で読んだ事があるんだ・・・それはそれとして、だ。」シノンもラグナスを真っ直ぐに見て続けた。「あの時の話、忘れた訳じゃないだろう?」「ちょ、ちょっとシノンさん・・・」あの場で会話を聞いていた悠楽が止めようとするが、ラグナスが制した。「いいんだ悠楽、気を紛らわすくらいにはなるだろ・・・折角だから皆も聞いてくれ、ちょっとした昔話だ。」1つ深呼吸をして、ラグナスは再び口を開いた。
2007/11/12
コメント(0)
「エニ!」ラグナスが駆け寄った時には、先程の戦闘の音を聞いたのか悠楽達が駆け寄ってきていた。「駄目です、こんな傷、ヒーリングじゃ治せない・・・」「・・・っ!!」悠楽の言葉に絶望しながらもエニの傍まで行き、ラグナスは座り込んだ。「エニ、しっかりしろ!」「・・・ラグ、か・・・ハハッ、あんな事言っといて、結局これだな・・・カッコ、悪ぃよな、俺・・・」「馬鹿、喋るな!傷が・・・っ!」それでも必死に助けようとしたラグナスだったが、エニ本人でさえもう手遅れだと感じていた。傷口から溢れ出す血は最早止める事も出来ず、すぐ下の土を赤く染めて行く。「俺は、もう、駄目だよ・・・それと、頼むからもうちょっと、静かにしてくれ・・・傷に響くだろうが・・・」「エニ、お前・・・」「・・・なぁラグ・・・昔、俺とお前で、組んでた時は・・・何て、呼ばれてたっけな・・・」エニの唐突な質問に戸惑ったラグナスだったが、答えはすぐに見つかった。「・・・『アローヘッズ』・・・だったけっか・・・?」『アローヘッズ』・・・真っ先に戦陣に突っ込み、血路を切り開く剛勇無双の証。当時のラグナスとエニは、パラディン騎士団においてまさにそれに相応しいコンビだった。「確か・・・そんなんだった、な・・・あの頃は敵無しだったのが、今じゃこんな様か・・・」「エニ・・・ごめんね・・・私のせいで、こんな・・・」エルナが泣き出しそうになり、エニは右手をそっとエルナの頬に当てた。「そんな顔すんなよ・・・お前は、何も悪くないんだ・・・だから・・・」「でも・・・でもっ!」「なぁエルナ・・・頼むから、俺に心配事を残させないでくれよ・・・泣いてる顔なんて見たくねぇ・・・お前にだけは、この先、幸せになって欲しいんだよ・・・頼むよ、エルナ・・・」「エニ・・・」2人の視線が重なり合う。ゆっくりと微笑んだエニは、再びラグナスに視線を移した。「ラグ・・・こういう時の事は、覚えてるよな・・・?」「・・・ああ、覚えている。」「なら、いいや・・・俺自身はもう、見守る事しか、出来ないけど、『そいつ』はお前を、強くしてくれる筈だ・・・後は頼んだぜ、相棒・・・?」こみ上げて来る物を必死に押さえ、ラグナスは静かに、だが強く言った。「・・・ああ、任せろ!」ふっと笑い、エニはエルナの方を向いた。「約束、破っちまったけど・・・1つだけ、いいよな?」「・・・何?」「生きろよ・・・誰に何と言われようと、どんなに意地汚かろうと・・・生き延びて、戦って・・・最後に幸せを勝ち取れ・・・いいな?」エルナの頬を零れ落ちた涙が伝う。それを拭う事もせずに、エルナは頷いた。「うん・・・うん!約束するよ、絶対にエニの分まで幸せになるって!」「・・・なら、そろそろ、逝くぜ・・・すぐにこっちに来るなよ・・・?」エニの体から次第に力が抜け、彼を抱いているエルナの負担が大きくなる。最後の力を振り絞って、エニはゆっくりとラグナスに言った。「・・・何でもいい・・・大切な物を見つけて、守り切れよ、ラグ・・・じゃあ・・・な・・・」エニの目が完全に閉じられ、エルナの頬に当てられた手が地面に落ちる。エルナは重装甲に包まれた亡骸に顔を埋め、啜り泣き続けた。その傍らで、ラグナスが印を切って呟いた。「光差す虚空の下、安らかに眠れ、エニグマ・・・」その頬に一筋の涙が伝っている事に、ラグナスは気付かない振りをしていた。そんな2人の様子を見守る者達も、誰一人何も言う事が出来なかった・・・
2007/11/11
コメント(1)
「くそっ、とんでもない奴だ!一体何やりゃあんな事が出来るんだ!?」「だから言っただろ、手強いって!」「そんなこと言ってる場合ですか・・・っ!!」言い合う2人を宥めるエルナの脇に火炎弾が落下する。とっさに避けようとしたエルナだったが、鎧や盾といった重装備が災いしてバランスを崩してしまう。「あっ・・・」これぞ好機とばかりに飛びかかるグロール。「しまった・・・」ラグナスが遠距離攻撃を繰り出そうとするが、動きが素早くてまともに捉えられない。エルナは辛うじて立ち上がったものの、もう回避は間に合わない。万事休すか・・・そう思った時だった。「エルナァーーーーーーーーーーーッ!!」エニが全力疾走でエルナの方に走って行った。どうやらエルナの盾になるつもりらしい。「よせ、エニ!!」だがラグナスの声はエニに届かず、エニはエルナを思い切り突き飛ばし、炎を纏いながら突き出されたグロールの刃の正面に躍り出た。先程までとは違った、鈍い音が辺りに響く。次の瞬間、エニの身体をグロールの剣が鎧ごと貫通していた。「がっ・・・」「エニィーーーーーーーーッ!!」ラグナスが叫ぶ。ゆっくりと、剣が引き抜かれる。エニが糸の切れた人形のように地面に倒れ伏す。しばしの沈黙の後、グロールが静かに告げた。「手こずらせやがって・・・まあいい。小僧、こいつの最後に免じて今回はお預けとしようじゃないか。せいぜい悲しむがいい・・・クックックッ・・・ハッハッハッハッハッ!!」「待ちやがれ――――っ!!」ラグナスが走り寄って剣を繰り出すが、間合いに入った時には既にグロールの姿は無かった。「クソッ・・・」呟き、後ろを向くと、仰向けに倒れたエニと、その傍でエニの名を叫び続けるエルナの姿が目に入った。ラグナスは剣を鞘に納め、エニの元へと駆け寄って行った。
2007/11/10
コメント(0)
「うおっ!?」「ぐっ・・・!」互いに吹き飛ばされた2人は、空中で受身を取って同時に着地した。着地した瞬間を狙って、エルナが突っ込む。振り下ろされる長剣の刃を弾き、グロールは自分の長剣を突き出した。だがその刃はエルナが構えた大型の盾に阻まれる。次の瞬間、エルナの側面からいきなりラグナスの刃が飛び出してきた。辛くも回避し、追撃も防ぐグロール。再び間合いを取り、勝負は振り出しに戻る。「ふむ、やはり3対1ではこちらの分が悪いか・・・」「分かったんならとっとと降参した方がいいんじゃねえのか?」「笑わせる・・・こうなったら仕方が無い、少し本気を出させてもらうぞ!」そう言い放つと、グロールは剣を大地深く突き立てた。次の瞬間、周りの大地が爆発し、派手な火柱が上がり始めた。「なっ・・・!!」「うおっ!?」「きゃっ!!」突然の爆発に戸惑った隙を突いて、グロールはエニに斬りかかった。「死ねぇっ!!」「くっ・・・!」何とか刀で防御するが、その後の連撃を受けきれず吹き飛ばされる。その後ろから斬りかかったエルナの攻撃も見事にかわされ・・・たように見えた。次の瞬間、エルナは剣を振った勢いでそのままグロールに体当たりを食らわせていた。ダメージを与えるのが目的ではない。「うおっ・・・」体当たりで体制が崩れた所に飛来する雷球。ラグナスのライトニングボルトはグロールの身体を直撃し、今度はグロールが吹き飛んだ。だがグロールは空中で体勢を立て直すと、剣先から幾つもの火炎弾を放ってきた。とっさに回避したラグナス達の傍に落下した火炎弾は小爆発を起こし、辺りの草を一瞬で燃やし尽くした。
2007/11/07
コメント(0)
エニ達も気付いて、先程の表情は何処へやら、真剣な眼差しになった。「また会ったな、小僧。」『白ローブ』が静かに言葉を発する。この声には聞き覚えがあった。そう、あの時ティルコネイルで刃を交えた男・・・「・・・こんな所に乗り込んでくるとは大した自信だな、グロール。」「俺と刃を交えた事のある奴の言葉とは思えないな・・・まあいい・・・前に言った言葉を覚えているか?」「当たり前だ・・・随分と短気な奴だな。」「ふん、威勢がいいのも今のうちだ。今日、ここがお前の墓場になる・・・覚悟するんだな。」その言葉を合図に、グロールが真っ直ぐに突っ込んでくる。ラグナスも剣を抜いて応戦しようとした時、間に1つの影が割り込み、グロールの針路を妨害した。剣を弾かれ、後ずさるグロール。「くっ・・・邪魔をするな!」グロールが怒鳴る先には、先程グロールの剣を弾いた刀を鞘に収めるエニ。傍らには、長剣と盾を構えたエルナもいた。「さっきから俺達を差し置いて随分な事だな・・・俺達も相手になってやるよ。」「何だと?」「馬鹿言うなエニ、こいつは手強いぞ!」制止するラグナスだったが、エニは聞かなかった。「んなこた見た時から分かってるさ!それに手強いから加勢するんだろうが!」「はっ、3対1なら勝てると思っているのか?」「やってみなきゃ分からないだろ・・・行くぞエルナ、ラグ!」「うん!」「ったくこいつらは・・・仕方ない!」呟き、ラグナスは前を走る2人の後を追い始めた。エニは走りながら、自分の目の前にいる男を凝視していた。その右手は、鞘に納まった刀の柄を握っている。だんだんと距離が近付くにつれて、目の前の敵に対する恐怖が感情を乗っ取ろうとする。それを押し殺し、エニは柄を握る手に力を込めた。間合いに入るまで、あと3秒・・・2・・・1・・・エニは得意の居合い斬りを放ち、グロールは炎に包まれた剣を振り下ろした。両者の刃が接触し、互いを弾き返した。
2007/11/05
コメント(0)
致命傷には至らなかったものの体の数箇所を貫かれ、流石のドラゴンも苦痛で怯んだ。そしてがら空きになった胴体に巨大な火球が、氷の槍が、稲妻がいくつも直撃する。更なる苦痛に仰け反るドラゴン。止めを刺すチャンスが訪れる。そして、エニは全力疾走でドラゴンに向かって突っ込んでいた。十分に近付き、勢い良く跳躍する。振りかぶった刀の刃の先には、中級魔法や閃光の直撃で鱗が砕け、剥がれ落ち、その下の肉がむき出しになった部分。そして既にそこには、騎士達が投げつけた剣が数本、深々と刺さっていた。「これで終わりだ・・・」振り下ろされた刃が、ドラゴンの肉体に深々と入り込む。「・・・このデカブツ野郎ーーーーーーーーーーッ!!」叫びつつ、エニは全体重をその刀にかけた。刃が肉を切り裂きながら下に滑り出し、どんどんその速度を増して行く。エニが着地して後退した時には、ドラゴンの腹に赤い筋が走っていた。耳を劈くような断末魔の叫びと共に、地響きを立ててドラゴンが倒れる。ドラゴンはそれきり、二度と動かなかった。少し離れた所では、ラグナスが最後の白ローブを斬り捨てていた。静寂に包まれる戦場。だがその束の間の沈黙は、先程の断末魔に勝るとも劣らない歓声によって破られた。ビィ達主要メンバーがハイタッチをやり合い、後方で負傷者の回復をしていた悠楽達は安堵の表情を浮かべる。ラグナスもまた、安堵の表情を浮かべていた。『やったね、ラグナス。』エルマが嬉しそうに話しかけてくる。「ああ・・・まだゴタゴタあるだろうが、一先ずは一件落着かな。」「ようラグ!まだ生きてるか?」近くにいたエニも話しかけてくる。その横には、いつの間にこちらに来たのかエルナがいた。「ああ、ご覧の通りだ・・・エルナの方も無事だったみたいだな。」「ええ、死人は一人も出てないようで・・・本当に良かった。」「まあ骨折ったやつはいたんだがな、生きてるだけマシだろ・・・」既に周りの者達はイメンマハへと戻ろうとしていたのだが、エニはラグナスに近付きながら顔を少し赤くして続けた。「なあラグ、戦いの後だから言うんだけどさ・・・」「ん?」「その、何だ・・・実は俺、平和になったら、一緒に暮らして行こうってこいつと約束してるんだ・・・」そう言って、エニはエルナの肩に手を回した。心なしか、エルナの顔も赤くなっているように見える。「騎士団はどうするんだ?」「そりゃあ・・・まあ脱退する事になるんだろうけど・・・でも違った形で剣を持つ道もあるだろ?」「なるほどな、まあまだ先の話になるが・・・」そう言いかけた時、ラグナスは後ろから殺気を感じて振り返った。そこには、白ローブの男が一人だけ立っていた。
2007/11/03
コメント(0)
全183件 (183件中 1-50件目)