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カテゴリ: 落語の話
それは99年の春のこと。


「枝雀が…枝雀が死んじゃったよぉ~!」

と、半泣きの声をあげました。
その当時、落語という芸能の魅力をほとんど知らなかった私にも、衝撃的な自死のニュースの重みがグッと増すような、そんな生々しいファンの反応でした。

枝雀師匠の名前を聞く度に、私の脳裏には、あの日の同僚の悲痛な顔つきが目に浮かんでしまいます。
でも、残された一門のお弟子さん方や、枝雀師匠の高座を愛した方々にとっては、最期のかたちはどうであれ、故人をしのぶ時にはあくまでも笑いと共に、明るく…という思いがあるのでしょう。
「○回忌」とか「追善」といった形ではなく、70歳のお誕生会という形をとった今回の落語会のスタイルに、その気持ちが表れています。

名古屋・中日劇場で行われたこの日の「お誕生会」。

意気込んでチケットを取ったものの、この両大御所、

「どちらか来られないか、どちらも来られないか…になりそうな気がするよね…」

なんて言っていたら、バチが当たったか?結局は米朝師匠の入院により、このようなことに(涙)

090815sijaku1.jpg


という訳で、この日の出演陣と演目。

 桂 九雀 「狸の賽」
 桂雀三郎 「変わり目」
 桂 南光 「花筏」
 立川談志 「落語チャンチャカチャン」
  -中入りー
 桂 枝雀 「つる」(ビデオ上映)



枝雀門下のお弟子さんたちの落語は、どれも一度ならず聞いたことのあるポピュラーな噺でしたが、師匠が工夫していたこと、その師匠から教わったことを受け継ぐ高座だということが、素人の私にも感じとれました。

オチが初めて聞くかたちだった「狸の賽」、内弟子時代に師匠が酔っぱらいの形態描写を教えてくれた時の様子を再現し、爆笑のマクラとなった「変わり目」。
ストーリーが劇的に二転、三転する「花筏」も大好きな噺で、十二分に笑いました。

でも、一番おなかを抱えて笑ったのは、スクリーンに映し出された枝雀師匠の「つる」だったかもしれません。
遺された芸のカラっとした明るさ、その不思議な魅力には、観る者を虜にする魅力があるんですね。


会場で配られたパンフレットには、詳細な枝雀師匠の「おもろい年譜」なるものが掲載されていましたが、没年の表記は
「1999年4月19日(59才) ふらりと旅に出る。それ以来、ときどき皆さんの所へふらりと戻って来ることがある。例えば…」
となっていました。

【会場で、“ りらっくご ”主催のことりさんと遭遇。終演後に記念撮影していただきました】

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…ところで、私が当日まで(本当に出るのかな?)と思っていた談志師匠。
お茶子さんが大きな看板形式の名ビラに「立川談志」という名前を出した瞬間、何となく会場がどよめいたのは、同じような気持ちの人が多かったから?

しかし、舞台の端から座布団まで歩く姿、座る姿、しゃべる姿…何だかとてもお辛そうで、あぁ、命の灯が消えかかっている人がここに居る、と思わずにいられませんでした。

高座では、自身の身体がいかに思うに任せないか、落語がやりにくくなったか、ということをひとしきり。
かすれ声で滑舌も良いとはいえないのに、いくつか披露された小話や、落語のさわりにはグッと引き込まれるものがあり、そのカリスマ性の一端には確かに触れた実感がありました。
が…

結局、枝雀師匠が健在なうちに落語との出会いを果たせなかったのと同じように、私は、立川談志という人にも「間に合わなかった」のだな…と、これが正直な感想でした。

第二部の座談会でも、「さっきのビデオの落語、あれ笑えますか?」と持論を展開し、米朝という人の後を追って、古典の名人の道を進むことが出来る器があったのに、なぜこういう方向へ行ったのだろう、生前の彼に話をしたかったけれど、向こうは俺を避けていた…というような話を延々続ける談志師匠。
これ、米朝さんが出席してたらどんなことになっていたのだろう?と思ってしまう、何ともスリリングな展開でした。
雀三郎さんなんて、二、三回言葉を挟むのがやっとだったような…いっそヨーデル歌っちゃえばよかったのに!違うか(笑)

でも、談志師匠とはつながりの深いざこばさんとの熱いぶつかりあいも時間内に収まり、ラストは司会の南光さんが

「(枝雀師匠に言いたいことがあるなら) アチラへ行ってから、ゆっくり話してください

と引導を渡して、冷や汗混じりの爆笑のうちにお開きとなったのでした。

【今回もしじらの浴衣で。帯は大島の名古屋帯でお太鼓にしました。】

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桂 枝雀 落語大全19「猫の忠信」「つる」





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最終更新日  2009.08.16 23:29:42
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