灯台

灯台

2024年11月10日
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山小屋



ドラクエの村みたいな田舎の山小屋に泊まった。
何だか異国みたいな気がするのは辺り一帯は鬱蒼とした木々があるのに、
その山小屋の周囲だけ不自然に刈り取られているように見え、
明らかに伐採の目的が違う―――道なんだ、
何かへと案内する、何処かへと通じている、そういう交通路としての道、
その先へ行くと、背丈ほどもある大きな石が―――あった・・。
横幅も人間が寝転んだぐらい―――ある。
そこに碑銘でもあればもう少し違った理解があったろう。
巨石信仰というよりも、新興宗教を思わず想起してしまう不気味さで、
その心理に至るためには夕方の薄暗い雰囲気も、多分にある。
街の辻角や林の小径で魔物に逢う、この黄昏れ時。
イマジンが足りない。
それはマザーと叫んでいるときのジョン・レノンの顎はずれた感じが、
われわれには上手く伝わらない。いよいよ怪奇的装飾は整った。
この“後遺症”という―――もの・・。

バンジャマン・クレミュウは『不安と再建』の中で、
一九三〇年は、すべての領域で決定的な年であったといっている。
世界的な経済危機、ロシアのダンピング、
トーキーが欧州を風靡した年である。
それは集団的主張の時代が、個人的主張の時代に代わる年である、と・・・。

刷り込む。
形成する、言葉の流れや色や形を利用しなが―――ら。
そう、立地条件も悪くないのに、どうしてか潰れる店というのがある。
その飲食店には常連さんがいて、
いつも毎日、決まった時間コーヒーを飲みに来ていたらしい。
だけど、とある日にトイレだけを借りて、コーヒーも飲まずに帰った。
「そんな日もあるだろう」と、
「―――それまで、そんな日が一日もなかった」ことの揺らぎ。
体調でも悪いのかな、それとも何か怒らせることでもしたかなと思っていたら、
その常連さん―――近くのビルから飛び降り自殺した。
魚眼レンズを車の行き交う交差点のの中に突っ込んで撮影するようなもの。
たとえるのならば、何百億年の宇宙の虚空に沈殿し、浮遊し、
眩暈に変わりながら、もっと静かな気持ち、
腐っていく寸前に蘇生する・・永劫の感覚・・・・・・。

「人に騙された」とか言う人もいれば、
「家族関係のゴタゴタだろう」とか、
色んなことを言う人がいたけれど、これも定かではない。
警察署へ行って尋ねるということも、はばかられる。
他人と暮らす、その他人が身近な知り合い、顔見知り、
挨拶して、何らかの性格や、行動範囲を読み取りながら生きる街の生活。
鍵や鍵穴を所有していても、世間や、常識的な質問を交わさない関係の人。
見知っているけど、名前は知らない。声だって聞いたことがない。
そんな他人のことを僕等は顔見知り、という・・・・・・。
それから間もなく、店ではトイレにいつも誰かが入っているようになった。
トイレを開けると、誰もいない。
多分これはその常連さんなんだ、お祓いもした、やがて悪い評判が立つ、
そして従業員も怖がる、仕事にならない、半年後には店じまい。
それでも結構続いた方じゃないかっていう話だけどね。
そこから色んな店に変わったけど、長続きしなかった。
最終的には駐車場になった、さすがに駐車場は潰れないし、
怖い話も聞かない―――けどね。
でも何かそのことを知って以来、都市部で、どうしてこんな立地のいいところに、
駐車場があるんだろうなんて思うと、そのことを想像するようになった。
“後遺症”―――だね。

そんな場所だったけど、仲間数人で泊まった。
夜中にトランプゲームで盛り上がっていると、
いきなり誰かが自分達を呼んできた―――んだ。

「〇〇さーん」ってね。

知り合いにでも声かけてたのかなんて言いながら、
でもその呼ばれた名前に該当する人間が―――確かに、いた。
だからというわけじゃないけど、無視しようとは―――思わなかった。
とはいえ、ここはとても重要なことだけど、時間はかなり遅かった。
都市部のアパート訪問みたいなノリなら、
九時や十時は営業中みたいなところはあるのでこういう声かけも、ある。
でもここは―――山だ、そして二十二時時である。
誰かが真っ暗な山を登ってきたとは考え難い。
百歩譲って、遭難があった、登山仲間が自分達に何か知らないかというような、
そういうこともあるかも知れな―――い。
しかし自分達はそういうネットワークはなかった。
でも親兄弟が亡くなったみたいなことを報せに来てくれているかも知れない、
人生が長くなるとそんなアクシデントレポート、
こういうタイミングでくるか、みたいなことに気付いたりする、

・・・・・・そ し て、はっきりと理解する。
・・・・・・そ し て、はっきりと理解する。

―――“後遺症”―――だね。

しかし山小屋だ、失礼するとか言って入ってくれば―――いい。
不思議なもんでね、最初はお前早く行けよとか言ってたんだけど、
声がしつこく何度も呼び掛けてくるから、三十秒、一分、二分・・・。
沈黙は聖なる詩における夜の墓穴。
わかるかな、ちょっと気持ち悪く思えてきたんだ。
そいつが言う。
「だって山に行くとは言ってきたけど、何処の山かは言っていない」
しーん、としたよ。
虱潰しにいろんな場所へ連絡を取ったんじゃないかと気を回そうとしたけど、
そんなことをする労力に見合った出来事が本当にあるだろうかと思う。
―――いや、そうなってくると―――語らないがゆえに語ってしまう、
山特有の怖い話を想起して、引き攣ってくる、
背筋に寒いものがやってくる、
早く行ってやれよっていう言葉が、
段々、何キロ先、何十キロ先にあるように思えて来る。
大きな顔をしていたものが次第に芥子粒みたいに思えて来る。
“後遺症”―――だね。


>>>出来事に首を突っこむ、或いは引き起こす方法。
>>>揺れるもの、揺れているもの、揺れていたいもの。


はたしてこれは―――“ヒトなのか”・・。
それとも―――が、脳裏をぐるぐると堂々巡りする。
しかし声は聞こえてくる、何でもいいから、あの声を黙らせると息巻いて、
仲間が息を殺しながら見守る中―――扉の前に立ち、開ける・・。
緊迫する場面、おい焦らすなよ、さっさと開けろ。
いなかった―――。
懐中電灯で周囲を照らし出してみるが、何も、ない。
若干、罰ゲームのような気がしてくる。
お前、これ、YouTubeのヤラセなのか。
動く物の気配すらない。
「何なんだ、一体」
「幽霊じゃないか―――お前、心あたりはないか、
親類縁者が亡くなったとか」
「ないな―――あと、声に聞き覚えがない」
とはいえ、見知った人の声でも、
山みたいな場所で聞けばわからないという可能性もなくはない。
ただ、見知った人の声というのがポイントだ。
見知った人ならば、同じ名前を繰り返すだけとは考えにくい。
「だとしたら、案外、何処かで本当に、
誰かを呼んでいたかも知れない」
「でも明らかにこの山小屋に向かって聞こえたぞ」
「そう聞こえただけかも知れない」

要求された――領域・・脳神経、脊髄神経のように、
どの部分から神経が出ているかの細分に続く――。
意図的な形状記憶合金・・。
人間の鼓膜のような能力を生じたものらしい、世界・・。
このような会話。
ホッとしながらも、背中から匍い上がってくるようなえもいわれぬ不気味さ、
腑に落ちないまま、ドアを閉めた。
ガラスケースの中にある宝石は観賞用にしか見えないが、
購入する手続きになると別の見方が提供される。
“後遺症”―――だね。

昔、日本家屋に住んでいた人がいて話を聞いた。
茶の間と台所の間にスッと、ガラス戸があり、
ガラス戸の向こうに板の間がある。
その向こうは一段下がって土間になっている。
田舎の祖父母の家とか、民家なんかでかろうじてうかがえる程度で、
それこそ都市部で暮らす人にとっては天然記念物みたいな風景。
竈があるといえば、もっと分かり易いかも知れない。
まあそんなわけで、床下にはいくつもスース―した隙間がある、
害虫駆除界隈ではベスト10に入ってくるような、
ネズミやイタチのような小動物が家の中に入り込む。
タヌキが入ってきたこともあるらし―――い。
おにぎりを攀じ登って食べていたらしい。
コラといって怒鳴ったら、ピューッと消えていなくなって、
それっきりらしいけど、ね。
田舎だから、蛇だって入り込む。
マムシとかヤマカガシは怖いけど、大抵はアオダイショウだから。
違いが全然わからないのが素人とばかりに事もなげに仰るけど、
田舎の人、とりたてて年季の入った家に住む人は、
おおらかだっていう説を推したくなる感じだね。
でもそこに、一度だけ鈴虫が迷い込んだことがあるらしい。
何処から入り込んだのか全然わからないとは到底いえないにせよ、
その日、仲良くしていた親戚の方が亡くなったらしい。
虫の知らせだね。
“後遺症”―――だね。

そしてその後、再びトランプゲームをした。
もう呼ぶ声は聞こえなかった。
梟がときどきホウホウと梢で鳴いていた。
やがて就寝した。
夜中に一度だけ、大絶叫を聞いた声を除けば、何もなかった。
朝目覚めてドアを開けて出発しようとする―――と、血の跡が、ある。
みんな、夜中に声を聞いていた。
誰もそれについて何かを述べようとはしなかった―――が。
暗黒の室内は、ほんの数秒であったが、一転して墓場のような静寂が訪れた。
毛色が変わった。
声を出せば、真っ暗闇の中へと飛び出さなければいけない。
安全な場所から、身動き一つとらないための自衛手段。
しかしそれが間違っていたのか、正しかったのか。
暗い表情が、忍び寄って来る朝の気配と共に、その顔を仄かに翳らせている。
“後遺症”―――だね。

誰ともなく、その血の跡を、追いかける、
何だか異国みたいな気がするのは辺り一帯は鬱蒼とした木々があるのに、
その山小屋の周囲だけ不自然に刈り取られているように見え、
明らかに伐採の目的が違う―――道なんだ、
(地形のゆらぎ、飴いろの波、アンモナイトの褶曲・・、)
何かへと案内する、何処かへと通じている、そういう交通路としての道、
(君の動きがスローモーションになる、
まぎれもない・・あなたの――心臓が、心臓が・・、)
その先へ行くと、背丈ほどもある大きな石・・・・・・。
「まだ、駄目だよ」と頭の中で声がする。
横幅も人間が寝転んだぐらい―――ある石・・・。
「まだ、行っちゃ駄目」と頭の中で声がする。

昨日とは違う、それが時間の経過を伝えている―――。
それはやっぱり今日、時間は動いていることを教えている・・。

そこに、一匹の猿が死んでいる。
それがどういうことなのかは一切わからない、頭部が切断されている。
グロテスクだけれど、鋭利な切り口であることから一度や二度、
猿を殺している人間の仕業には見えない。もっと何度も、だ。
チェーンソーのような機械的な音は、夜には聞こえなかった。
ダース・ベイダーするエクソシスト・・・。
言葉が出てこない、圧倒されているのだ。
自然の空白、死というに摂理に意識を上書きされている―――のだ。
夕暮れと夜の間の僅かな時間だけ、空に広がる藍色と同じ色・・、
それから、果てしない落下の感覚――。
“後遺症”―――だね。

猿の脳味噌といえば、中国の高級珍味で、
清王朝時代の北京における宮廷料理、満漢全席に供されていた。
とはいえ、現代感覚ではゲテモノであり、
脳を食べると発想自体がもはや心を食べるという認識であるし、
それ以前にインパクトの時点で食べられない人はいるだろう。
これは多かれ少なかれ、
臓器提供をする気持ち悪さと通じるものがある。
しかしながら魚や動物の脳を食べるということは、
食文化と理解すれば呑み込みやすいし、むしろ一般的だ。
とはいえ、人の近縁種である猿の脳を取り出し、
脳であると分かる状態で食べることは間違いなくゲテモノだろう。
高い知能を持つと考える鯨や海豚を食べるのに、
心理的抵抗を示すようなもの―――だ。
ただ、自然界の掟である、狩られた者は殺されて食べられる。
弱い者は強い者に逆らうことは出来ない。
残酷ではあるけれど、蛇や鰐やライオンや虎だって、
僕等を狩ったら骨までしゃぶり上げるだろう。仕方ないことだ。
食することにより、
クロイツフェルト・ヤコブ病に感染する危険があり、
いわゆる変異型はクールー病で、食人をするとなる病気だ。
そこまではいかなくとも、猿を食べる行為に対して、
エボラ出血熱やHIVおよびCJDに感染する危険性も指摘されている。
ところで、イスラム世界では禁止される酒の製造・販売や飲酒が、
人目を避けて行われている国も多く、一方で、
自らが信じる食のタブーを基準に、他者を非難・攻撃し、
時には殺害に及ぶ者もいる。
何処から何処まで正常で異常なのかはきちんと話をしなければわからない、
今後宇宙人だの地底人だの異世界人だのが現れて、
人間を食べるという種族が現れないとも限らな―――い。
もちろんそんなのは認められないと我々は言うだろう、
ならば様々な生物を食べるのをやめていただきたい、となるかも知れない。
“後遺症”―――だね。

猿の頭部だけが切り取られた猿の死体―――が、
いや、もちろん最初からそれが猿だと思ったわけじゃない、
尻に毛がなく、全身の毛、そして細長い手足などから、
―――猿だと、猿の死体だと思ったわけだが・・。
何故この石の上にあるのか、それはわからな―――い。
闇の中で手さぐりに何かを探している時に
不意に指に触れたものだけが名前であることに気付く。
電気のスイッチが入ってパイロット・ランプが青から赤に変わるように、
そう、夜中に、一度だけ、大絶叫を聞いたわけだが、
その声の主はどうやら、この猿だったのだろう。
といっても、これが昨日の出来事とどう関連するのかは、
わからな―――い。
しかもどうして、魚をプールの中にいれてみたりするみたいに、
きれいな花を空き地に植えるように、石の上なのだ、
そこには何か明確な理由があったのか、
また猿を殺すというのもどう考えても人目をはばかられるので、
夜中にというのもわかるのだが、抵抗はしなかったのだろうか、
いやそれはまだよいとしても、その致命傷となっている、
切断された首からの血の跡が何故、山小屋のドア前から、
垂れているのだろ―――う。
猟奇的な悪趣味、
赤のインクと黒による碁石のごとき配置で美しく印刷されている。
わからないことはそれこそ山ほどあると知りながら、
眼の前に謎が山ほどある現場ではぼんやりとするしかないことを、
思い知る、きっと何か理由があったと考えるのにも、
無理があるのかどうか、それすらもわからな―――い。
奇妙なねじれの中で次第に鮮やかに浮かび上がってくる、
雲の切れ目のようなものを見つめる。
風が首筋や頬を撫でる。


>>>出来事に首を突っこむ、或いは引き起こす方法。
>>>揺れるもの、揺れているもの、揺れていたいもの。


やがて仲間たちと相談して、山小屋にちょうど、
土木作業用のスコップがあったので、石の少し隣に穴を掘って、
その猿の死体を埋めてやった。光るものは透明で・・、
人間の顔などでは到底表わせないような複雑な表情。
やわらかな――、激動・・。無情な冷酷――。


・・・・・・そ し て、はっきりと理解する。
・・・・・・そ し て、はっきりと理解する。

“後遺症”―――だね、物語というのは・・・・・・・。







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最終更新日  2024年11月10日 13時31分14秒


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