ユウ君パパのJAZZ三昧日記

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syoukopapa

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2006.11.13
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カテゴリ: 私の小説集

  ジーンと響く、エンジン音。重厚でありながら、胸をときめかせる何かがある。俺にとっては官能そのものだ。10代の半ばでハーレーダビッドソンの黒く、美しいフォルムとこの音に魅せられた俺は、今まさに自分の夢を実現している。アメリカのハイウェーをハーレーダビッドソンと一体になりながらブッ飛ばす夢をだ。俺の旅には勿論予定などない。俺とこの相棒が心地よいコラボレーションをしているなら、真夜中まで突っ走り適当なモーテルに倒れる。どちらかが機嫌が悪けりゃ、そのときいる町でぶらつく。それでも一応旅の目的はある。あの砂漠の町、パリ、テキサス。

  とりあえず飯をと思って入った、ハンバーガー・ショップ。グリーンのエプロンに、赤いストライプのシャツ。セミロングのブロンドのキュートなウエイトレス。

  「ご注文は何?」

  ブッキラボウな聞き方。まあ、これがご当地風か?

  「チーズバーガーとコーラ」

  そうですかとも言わず、さっさと行っちまう。

  「はい、どうぞ」

  と彼女。相変わらず、素っ気ない。

  「あれ、このsunny-side-up頼んでないよ。」

  「アンタみたいなのはもっと栄養つけなきゃ。わたしのおごり。」

  なんだ結構いい奴じゃないか。

  「あのハーレー、あんたのでしょ?」

  「ああ。」

  「その代りといっては何なんだけど、ちょっとあとで後ろにでも乗っけてよ。」

  「勿論、構わない。」

  ハーレーのエンジン音の中でキュートな彼女のブロンドが乾いた夜風になびく。そんな情景を想像するだけで、幸せな気分になれる。

  「私もうすぐ、上がりだから。外で待ってて。」

  エンジンをかけようとしたが、変な振動でうまくいかない。よく調べないとわからないが、厄介なことになりそうだ。そうこうしているうちに、ダークグリーンのコンパーチブルの彼女。

  「どうも後ろに乗っかんのは、無理みたいね。」

  「そうみたいだな。」

  「わたしのアパートに来る? 変な想像しないでよ。わたし、姉と住んでんだけど、一部屋あいてるから。あんたお金ないでしょ。」

  「ありがとう。世話になろうかな。」

  「あんた、名前は? 私、ジョーン。」

  「ヒロシ。」

  「じゃ、ヒロでいいわね。」

  「 ああ。ジョーン、世話になるよ。」

  壊れた部品によっては、かなり長い間世話になることになるかもしれない。

  「ジャズでも、どう?」

  「いいね。」

  「かなりイカレテるけど、すごい音を出すピアノ弾きがいるの。」

  「へぇ。」

  何が幸いするか、わからないものだ。ジャズクラブはかなり暗く、しかも煙でかなり息苦しい。客席にいる数はよくわからないし、どうも薬でラリっているのもいそうなほどいかがわしい。そんな隈雑な雰囲気のジャズクラブも、あの男のヘビーな演奏によって神の世界に生まれ変わる。そう、ブルースの情感をたたえたジャズ。力強く響きながら悲しくてたまらない。この世のものではなかった。

  「ジョーン、あの男の名前は?」

  「ヒデ・キムラ。」

  どこかで聞いたことがあるような感じだ。

  「10年程前、まだ彼が40にならないかどうかの頃、いい線までいいたんだけど。転落のお決まりのコース。才能がどうのと云いながら、ヤクと女。結構アブナイ連中とつきあって、もうヤバイの。キムラ本人とは関係なく、あのピアノの音みんな好きだから、何度もお金集めたりして、立ち直らせようとしたんだけど。結局、ヤバイことにつぎこんじゃう。あそこにいる、いやな目つきの男たち。きっと借金取り。」

  俺は演奏の後、ヒデ、キムラのアパートへ。

  「なんだ、お前は? 奴らの手下か? もうカネはないぜ。」

  キムラの震える手の先には、ジョーンの言っていた通り、散らばる白い粉。これだけ見ると、才能の残がいといった感じ。

  「いや、あんたの演奏にすっかりマイチマッタ野郎さ。」

  「ほう、変わったのもいるもんだ。近頃は借金取り以外、この部屋に来たのはいないんだが。」

  「まあ、俺が言っても無駄だろうが、アンタの才能はすごいのにドブに捨てんのか? ヤクさえやめ・・・」

  「ガキのお前に言われる筋合いはない。」

 キムラのかすかに震えた声が俺の青二才の声に重なる。ヤクで震えているのだろう。

  「まあ、ゴタゴタ言ってもしょうがないな。酔狂なお前さんに一曲聴かせてやるよ。」

  彼は隣の部屋のピアノを弾き出す。先のクラブの曲とはうって変わって、メロウでゆっくりした流れ。まさにブルースそのものだ。力強くはないが、やはり俺を突き刺す。キムラも昔は、人を愛したことがあるのだろう。そんなせつない情景を思わせる音色に、俺も自然に涙が流れる。

  「何て曲なんだ?」

  興奮の中でやっと口にできたのは、その一言だけ。

  「『ラスト・ソング・フォー・ユー』」

  キムラは震え出す。明らかにヤクのせいだ。

 「出て行け!!俺の苦しむ姿は誰にも見せない。」

  かなりもみあったが俺は結局、部屋から押し出される。

 次の朝、キムラは新聞の隅に出る。

  「ブルースのピアニスト、ヒデ、キムラ、撲殺さる。」

 そう、『ラスト・ソング・フォー・ユー』が本当に彼のレクイエムとなった。記事によると、散々殴られて、脳内出血が彼の死因らしい。町の片隅のごみ箱が彼の死に場所だった・・・。






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最終更新日  2006.12.27 12:39:56


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