「わぁー、おいしそうな匂い。ヒロ、何作っているの。」
眠そうな目をこすりながら、ジョーン。
「ハーブ・オムレツ。クレッソンとトマトを乗っけて、完成だ。」
ややお子様ランチ的だが、鮮やかな出来栄えだ。
「とってもカワイイわ。何か食べちゃうのは、可哀想みたい。」
「そんなこと言わないで、食ってくれよ。抜群にうまいんだ。今コーヒーを淹れるから。」
「それでは、いただきます。」
器用にナイフとフォークを操る、彼女.ハーブ・オムレツが彼女の口の中に滑り込む.
「本当に香ばしくて、おいしい。」
ハーブ・オムレツは俺の得意料理。シンプルだが、最高だ。気にいった相手にしか作らない。カンの良いジョーンはすでにこの朝飯の意味することを感じ取っているようだ。このジョーンたちのアパートに来て、もう10日。ナカナカ手に入らなかった部品もやっと調達。俺のハーレーのご機嫌もバッチリだ。つらいことだが、ジョーンと別れる時が来た。
ご馳走さまと言ったかと思ったら、もうブルーのデニムシャツに、ホワイトジーンズ。彼女の清楚な仕事への身支度。いつもながら、彼女のテキパキとした行動には感心してしまう。
「もう、この町を出ていくのね。」
なるべく自分の感情を込めずに、尋ねるジョーン。
「ああ.今日の午後あたり、行こうと思う。君にも、ジャニスにも世話になった。どうもありがとう。」
俺も辛さが伝わらないように、短く答える。
「それじゃ、1時ぐらいに店に来て。今日は早番だから、その時見送るわ。いいかしら?」
「いいさ。」
「じゃ、行ってきます。」
9月というのに、いやになるほど照りつける太陽。すっかり機嫌の直ったハーレー。尻込みする俺を旅にへと促す。この10日のことが走馬灯のように駈けめぐる。こんなおセンチ、似合わないなとひとりごちる。ジョーンとの約束よりも少し遅れて、ハンバーガーショップ。まだ、彼女はいない。来ないのかも知れない。このまま、行こうか?
しかし、かなり遅れてダークグリーンのコンパーチブル。いつでもカッ飛ばせる状態のようだ。
「ごめん、遅れて。」
「いや、いいさ。そういえば、こいつの後ろに乗せてやる約束だったな。」
「覚えてくれたのね。でも、いいわ。」
「ええ?」
「ヒロとはまた逢えると思うから。その時に、又お願いするわ。」
「ああ。」
「それじゃ、あの雲の下まで走ってお別れしましょう。」
「わかった。思いきって、飛ばすよ、ジョーン。」
「OK!!」
彼女の合図で、スポーツスターとコンパーチブルは徐々に加速する。相棒と俺の久しぶりのコラボレーション。何の支障もなかったかのように、至ってスムーズだ。
随分遠くに見えた雲が、ぐんぐん近付く。ジョーンのブロンドも乾いた風に流れている。かなり走ったはずだが、俺には一瞬のように思えた。お互いの間合いを計って、自分のマシンを減速する。もう、あの雲の下に来てしまった。言葉もなく、2人ともマシンから降りる。自然と唇が触れ合う。かわいらしくて、繊細なキス。
「さよならは言わないわ。元気で。」
それだけ言うと、彼女はコンパーチブルをUターンさせて一気に加速した。相変わらず、テキパキしたものだ。いい旅になるなとの予感に、俺はハーレーダビッドソンのエンジンを再びかける。
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