話飲徒然草〜Tokyo Meanderings

話飲徒然草〜Tokyo Meanderings

2021年05月03日
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20年以上前のことになりますが、クルマのマーケティングリサーチにかかわっていたことがあります。「因子分析」だの「クラスター分析」だのといったなにやら小難しい分析手法も教わりましたが、そんな中で面白いと思った分析手法のひとつに、「コーホート(コウホート)分析」というものがありました。


・ 「時代効果」というのは、高度成長期、バブル期、といった各年代における社会環境から発生する要因を指します。好景気であれば金回りがよくなってワインの消費は増えますし、リーマンショック後のような不況時であれば、消費マインドは冷え込みます。ワインに関しては、景気の良しあしと連動しますが、後述する「ワインブーム」のファクターが大きいと思われます。さらに細かくみていくと、為替レートの変動やビンテージによる作柄の吉凶なども広義の時代効果ということになるかもしれませんね。

・ 「年齢効果」というのは、人間の成長過程や加齢に伴って発生する要因のことで、いわゆる「ライフステージ」に伴うものです。たとえば独身の間は概して懐に余裕があり、外でワインを飲む機会も多く、高額なワインなども購入しますが、結婚して子どもが出来ると、子育てで時間的な余裕もなくなり、教育費などの家計負担が重くのしかかって、ワイン会などの派手な出費を控えたり、購入するワインもデイリーランクのものが中心になったりします。そして子どもが独立して住宅ローンが終わるころには再び家計にゆとりが出てきますが、今度は健康との兼ね合いが懸念材料になったりします。
ワインを趣味とするにはそれなりの可処分所得が要求されることや、なんのかんの言ってもアルコール飲料であり「酒の味」を覚えるのには多少年数がかかるということもあるのでしょうか、私の周囲の愛好家がワインにはまりだした年齢は、20代よりは、30代以降の方が多いようです。

・ コーホート(世代)効果というのは、戦後世代、団塊世代、すきま世代、団塊ジュニアというように、同じ時期に生まれ、同じ社会環境を共有して育ってきた人間集団から発生する要因を指します。
たとえば「団塊の世代」とは、第一次ベビームームが起きた1947年〜49年生まれで、高度成長期やバブル期を支えてきた世代です。その子どもたちの世代である「団塊ジュニア」については、(いくつかの定義がありますが)概ね1971年〜74年生まれの第二次ベビーブームのことを指し、現在、40代前半〜中盤にさしかかっています。
マーケティングの世界で「団塊の世代」や「団塊ジュニア」がよくとりあげられるのは、その人口ボリュームが大きいことに加えて、たとえば団塊世代では、「概して自分へのこだわりが強い人が多く、同世代間での競争意識が激しい」といった風に、世代としての特徴が語られやすいということもあります。
ちなみに私は1963年生まれですが、「大学在学中に学生運動が終わった世代から、バブル景気が起こる前に成人した世代まで」ということで、「しらけ世代」などと呼ばれたりしているようです。ワインの世代効果についてはわかりませんが、たとえばビールについては「若者のビール離れ」という言い方もあるように、コーホート分析にかけると、団塊ジュニア以降の世代で飲用率が低下しているといった結果も出ているようです。


過去、我が国には何度かのワインブームがありました。テーブルワインの消費に動きが出てきたのは東京オリンピック(1964年)頃からだと言われています。第1回目のワイン・ブームは昭和45年(1970年)の大阪万国博覧会を契機とした高度経済成長期の頃、日本人の食生活の洋風化により、ワインの消費が増大しました。
以降、日本でのワイン消費は、千円ワイン・ブーム(1978年)、一升瓶ワイン・ブーム(1981年)、ボージョレ・ヌーヴォー・ブーム(1987年)、赤ワイン・ブーム(1997年)など、何回かのワイン・ブームによる急激な伸びとその後の足踏みを繰り返しながら、少しずつ階段を上がるように伸びています。
 2000年代に入ってからは、ナチュラルワインや国産ワイン、シャンパーニュなど、爆発的でこそないものの、一過性に留まらない息の長いムーブメントが続いて今に至っているといってよいでしょう。
当誌が創刊されたのが2002年、インターネットでブログが普及し始めたのも2002年代ぐらいから、「神の雫」の連載開始が2004年、ネットショップが広く普及したのもこの時期(ちなみに楽天市場の開設は97年、13店舗からのスタートだったそうです)ということで、とにかく97年のワインブーム以降、インターネットの普及と相まって、ワインに関する情報量が圧倒的に増えたことが近年の大きな特徴といえます。
上記のようなブームの時期に、どの位の年齢でどのような生活を送っていたかが、ワインと出会いやその後のワインとの関わり方についてのポイントになっているのではないでしょうか。そう思って、あらためて「団塊の世代」や「団塊ジュニア」の人たちが、近年のブームの時に何歳だったかを表にしてみました。

 ボジョレーヌーヴォーがブームだった頃、団塊の世代は30代後半から40歳と、まさに「ワインにはまる」のに適した年代でした。実際にこのブームは団塊の世代が大きく寄与したのかもしれません。この時点でボルドーやブルゴーニュに嵌っていた愛好家の方々を私は心から羨ましく思います。というのも、当時はボルドー1級シャトーやDRCなども今では信じられないような価格で購入できたし、このあとには90年という歴史的なビンテージが控えていたわけですから。
 もっとも、このブームをきっかけに本格的にワイン愛好家になったという人は、ボリューム的にはあまり多くないのではないでしょうか。
当時の私は大学を卒業したてで、ワインが身近になりこそしましたが、深くのめりこむとろまではいきませんでした。20代前半ということで、「酒の味」そのものにまだ開眼していなかったことに加えて、「地方勤務でクルマ通勤だった」というのも大きな理由です。
仮に興味を持ったとしても、情報が乏しくて、そこから先には進みずらかったと思います。当時はまだネットもなく、本屋に行ってもワインの専門書籍は今ほど豊富ではありませんでした。たとえばブルゴーニュにおける「ドメーヌ×畑×ビンテージ」の複雑なマトリクスを理解するためのハードルは今よりずっと高かったはずだし、我々が日ごろ接しているブログやSNSなどの身近な情報や口コミ情報等も簡単には得られなかったでしょう。(そういう意味でも、私はこのころからの愛好家の方はスゴイと思います。)
 団塊ジュニアの世代に至っては、この当時は未成年です。しかし、親の世代がブームによって自宅でワインを飲む機会が増えたのであれば、その姿を目にして育った彼らにポジティブな影響を与えた可能性は大いにあります。
ちなみに私の実家では、両親はワインにまったく興味がなく、自宅でワインが開けられる姿を目にした事は一度もありませんでした。両親がワインを多少でも嗜んでいたなら、私ももっと早くワインに目を向けていたかもしれません。


海外旅行というきっかけこそありましたが、私自身が30代になって、経済的な余裕が多少出てきてワインを趣味として愉しむ土台が出来たというのも大きな要因と思います。

そのあと、件の赤ワインブームがやってきました。
ワインの健康効果(ワインに含まれるポリフェノールが動脈硬化や心疾患などを予防するというもの)がテレビの健康特集で大きく取り上げられ、時を同じくして、田崎真也氏がソムリエ世界大会で優勝、赤ワインが一躍ブームとなりました。安価なチリワインが数多くスーパーなどで出回るようになったのもこの頃からだと記憶しています。
さまざまなメディアでワインに関する特集が組まれ、ワインを扱った書籍が数多く出版されました。この時期にワインに本格的に嵌った、という愛好家は多いと思います。かくいう私もこのブームがなかったら、今に至るまでこのようにワインにはまりこんではいなかったかもしれません。なんといっても、世の中の情報量が増えて、ワインに関する知識を得やすくなったことが、愛好家を増やした大きなファクターだったと思います。
一方で、ワインの価格がいきなり高騰したのもこの時期でした。近隣のワインショップで、それまで1万円台前半だったCh.ラトゥール78が、ある日を境に突然値札が3万円台になっていたのを今でもよく覚えています。


団塊ジュニアは、この時期はまだ20代前半ということで、ワインに本格的にはまるにはやや時期尚早だったかもしれません。世代で言えば、当時30代から40代にさしかかるころだった私たちの世代がまさにブームの牽引役になっていたように思います。

さて、2000年代に入ると、前述のとおりインターネットの普及もあって、ワインに関する情報量はさらに圧倒的に増えました。当誌の創刊は2002年、「神の雫」の連載が始まったのが2004年。ネットショップも普及し、またこの10年間でワインの流通環境も非常によくなって、コンディションのよいワインを手軽に入手できるようになりました。90年代にワインにはまった愛好家たちにとっては、いろいろな意味でよい時代となりました。
ブルゴーニュやボルドーなどの一部銘柄が手に届かない価格になってしまった一方で、30歳を越えた団塊ジュニアを中心とした層にアピールしたのか、比較的安価に楽しむことのできるナチュラルワインや国産ワインといった新たなムーブメントが起きました。一方で「団塊の世代」の愛好家は50代となって、そろそろ健康との兼ね合いを真剣に考えなければいけない時期にさしかかってきた頃合いです。
我が家では、2002年に上の子、03年に下の子が生まれ、それ以降、私のワインライフは子育てとの両立が最大のテーマになり、ワインにかける費用も漸減していきました。

 さて、2015年の今はどうでしょうか。
団塊世代は60代後半。この世代の愛好家は、健康との兼ね合いがますます重要になって来ていることでしょう。新たなビンテージを買って寝かせるよりも、これまで収集した貴重なワインたちを、自宅で抑えめに消費してゆくようなスタイルでしょうか。
その子供たち、すなわち「団塊ジュニア」世代の人たちは、40台前半となり、まさにワインシーンを支える年代となっています。
国産ワインやナチュラルワインなどが息の長いムーブメントとなっている背景には、これらの世代の人たちの支持を得ていることも大きいのではと思います。彼らにとっては、ワインというのは決して「舶来のなにやら気取ったもの」ではなく、より生活に根付いた身近な飲み物であるはずだし、40代前半の彼らには、この先10年ぐらいの間はあまりペースを落とすことなくワインを飲み続ける余力があるでしょう。
アベノミクスによって(私自身は懐が豊かになっているという実感はどうも伴わないのですが)日経平均はITバブル以降初めて2万円を超えました。そう考えると、当面、我が国のワイン消費は比較的堅調に推移するのではないかという期待が持てます。

とはいえ、中期的に見れば決して安心することはできません。そもそも少子化が進んでいるところに加えて、若者のアルコール離れが取りざたされる昨今、20代の若者や、あるいはこれから成人する年代が、ワインと出会い、さらにそこからワインにのめりこんでいきたくなるようなきっかけがあまり無いように思います。
かつては少し背伸びをしたり、仲間内で割り勘にすれば飲むことができたボルドー1級シャトーやDRC、ドメーヌ・ルロワ、それにヴォギュエやアルマン・ルソーなども今や完全に彼岸のプライスになってしまいました。新興国を中心に世界規模でワインの需要が増えている昨今、この流れが元に戻ることは考えずらく、むしろこれからも「手の届かない作り手や銘柄」は増えていくことでしょう。

ワインの裾野が広がって生活に密着したものとなる一方で、憧れのワインたちが遠い存在になってしまうという状況。
マーケティングの世界で私は似たような光景を目の当たりにしたことがあります。
私たちが学生の頃、クルマは若者のあこがれでした。「ソアラ」や「プレリュード」「シルヴィア」など、2ドアのクーペという型式が流行していました。「ドライブ」が趣味として成り立っていた時代でした。
しかし、現在、履歴書の趣味欄に「ドライブ」と書く若者がどれだけいるでしょうか。2ドア・クーペという型式は絶滅危惧種となり、代わりにミニバンやSUVなどが主流になりました。我々の生活の中において、クルマは、それそのものを趣味とするよりは、趣味を楽しむための道具という位置づけになっています。

ワインについても、我々は同じような潮流の中にいるのかもしれません。
高貴なワインを収集して、手元で熟成させて薀蓄を語りながら飲むことを趣味とする人たちは、今よりさらに限られたごく一部のエクスクルーシブな層となり、ワインはより日常生活に根付いた、友人たちとの語らいや食事を楽しむための一手段になる。考えて見ればそちらのほうがより成熟したワイン文化なのかもしれませんね。

私自身も50歳を越えて、ワインという趣味についていろいろと考えさせられています。
子育てについてはずいぶんと手がかからなくなった一方で、教育費の負担が重くなり、ワインにかけられる費用はすっかり限られています。そんなところに、近年のブルゴーニュを中心としたワイン価格の高騰は堪えます。そもそもあと何年ワインを飲み続けられる健康な体でいられるのかと自問すると、もはや新しいビンテージのグランクリュを買おうという気力は失せてしまいました。そう、最大の問題は「健康問題」なのです。年々上がり続ける血糖値やγ-GTPその他の健康指標。いかにしてこの問題と折り合いをつけながら、長くワインを飲み続けることができるか。これがこの先の私自身の最大のテーマになりそうです。





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Last updated  2021年05月03日 10時30分05秒
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shuz1127 @ Re[1]:祝日セール情報1103 Holiday Sale Info(11/03) Echezeaux14さん、お久しぶりです。 10月…
Echezeaux14 @ Re:祝日セール情報1103 Holiday Sale Info(11/03) お久しぶりです。 ワインと関係ないです…

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