2013年04月14日
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ハルキスト(なんて呼ばないでよ頼むからと本人たちは言うだろう)の友人たちから
「ネタバレしてやる~けけけ」 とか
「あんまりはやく読んでしまうとコスパ悪いよ。楽しもう」 とか
さまざまなメールが舞い込み舞いこみ、
もはや読まずにはいられぬ。そのことがなんだか笑いだしたくなるような楽しさだ。
大嫌いだったのにね、村上春樹。

ということで、読了。コスパ悪かったかな。
それほど器用ではないから一気に読まねば脳内の映像が途切れて落ちてしまう。
そして映像が浮かばぬもの、寧ろ落としたいようなそれなら
今のわたしにとってそれは読むに値しない書籍なのだから
この新刊はしまいの頁まで辿りついた、そのことがめでたくうれしく思われる。

ネタバレは勘弁しとくれやす~と涙目で叫んできた以上自らがそれをするわけにはいかないのだが
いや待て自らだからこそそれをする権利があるよねっ! ←おい

ということで、笑
いややはりやめておく。



やはり少し、書く。
以下これから読む人は読まないでくださいね。
いやぜんぜんネタバレというほどにならないだろうとは思うのですが。
(いや書いてみたらやっぱりネタバレでしたごめんなさい)






本作、思ったよりも、いや思った以上に「村上春樹」であった。
そんなのあたりまえじゃんって話であろうかと思うがなんというか
これは『ノルウェイの森』の変奏曲である。それ以下でもそれ以上でもない。

であるからそれを好きだった人はこれも好きかもしれない。いやきっと好きだ。
であるから私はこの物語に登場してくるひとびとたちに
半分以上イライラし、半分以上「ばかみたい」と思っていた。
つくるくん(主人公)の歳でこんな幼稚な男がいたら友人にだってなりたくない。
だがそうなのだ。だからこそつくるくんは「自分が知らない理由で」
「自分の大切な人に無言で切られていく」
そういう人間性を物語のなかで生きていくしかないのである。

最後の頁を閉じた時、やはりわたしは少し怒っていたけれども
でもそれが村上春樹なのである。
だいたい還暦超えたおっさんがなぜ二十歳くらいの友情なんか描くかな。
還暦超えたおっさんは物語の大事なエピソードも核心も回収しようともしない。ったく。いささか。いやはや。
つくるくんはお金持ちの息子で姉が二人おり、やさしくて聞き上手、謙虚で自虐的で
そして今でいうところの「イケメン」である。(が作家はそれを「ハンサム」と言う。何度も)

(いやおそろしい。この作品は本当に)
(ある意味鳥肌もののサスペンス劇場である)
(きっとつくるくんがやっちゃったんじゃない?)

たぶん作家は友情なんかちっとも好きじゃないんだろう。信じてもいない。
だからこそこのようにすてきに突き放した描写ができる。
それでこそプロだと思う。
それでもさすがにこれを「巡礼」というのは巡礼に失礼かなあとは思った。
初めはそう思っていた。
(わたしは「色彩を持たない」ということがシキモウという性質のことなのだと思っていた)
(しかしそれは比喩にすらなかったのであった)
(鉄道ファンが喜んでいるかもしれないけれど、作家は鉄道だってちっとも好きじゃなさそうだ)



物語に出てくる人たちはいつもながら多少感情的でそしてぜんぜん論理的ではない。
そして本人たちだけがそれを論理的だと思っているような会話。
不器用でぼくにはわたしには器用な言い訳なんかができないからというのがいちばんの言い訳。
勘弁してくれよと思う。
全部引き受けようと思ったけどやっぱりできないから全部捨てるその極端さ。
勘弁してくれよ。
それを青春の比喩と言うのならきっとそれはそれでよい。
物語の核心は別にある。いや別じゃなくてそこに絡んである。(どっちなんだ)

登場人物たちには「故郷」というものがあり、そして物語はそこから始まった。
そして作家は人をこう分別している。
「故郷を出るもの」「故郷から出ないもの」
「故郷に戻らないもの」「故郷に戻れないもの」
意外と世界はそのような単純でできているのかもしれない。
周囲をみれば多くの人たちはそのように分類されるのかもしれない。
故郷を出たことがないものたちは実際にもたくさんいる。一生を故郷で終えるのだ。
また故郷を出て違う場所で生きている人たちもまたたくさんいる。
将来故郷に戻ろうと願うものも。

ここで作家は「故郷に戻るもの」を描かなかった。

故郷とはなんだろう。
そうだ。きっと故郷がないものに巡礼はできない。



物語に登場する音楽を知らなかったが、後半で名を挙げられたピアニスト、
私は好きである。
少し危ういものにひきつけられるけれどやはり好きなのはすこやかで剛健であるものだ。
いつか失われることにおびえながら、やはり健やかで剛健でありたいと願うものだ。



ということで、お薦めである。(お薦めなのか)
少なくとも読んでいる間その世界に入ることができたし映像が途切れなかった。
読み終えて不満が残ったのもそれを楽しめた証左だ。
好きなエピソードもあった好きなシーンもあった好きな人物もいた。
だから許す。(許す?)
お薦めだよ、ほんとだよ。(言うほど嘘くさくきこえるかもしれないけど、ほんとだよ。笑)
(実はとっても物凄おそろしいお話)(サイコ)(ある意味やはり「巡礼」)

しかしこのような物語を日本人のどれくらいがこの週末に読んだのだろうかと思うと
少し気持ち悪くなるね。
「ああ。やっぱり昔の友だちに逢いに行こう」とか急にみんなが連絡取り出したり突撃移動が始まったりしたら。
だけどまあ日本人の人口は1億2千万人ほどなんだし
べつにどうってことないか。






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最終更新日  2013年04月15日 00時54分53秒
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