「俺は前から塾講師の仕事を長くしていたから、声の出し方、板書の書き方は、まぁ他の一般的な教育実習生よりかは最初からよくデキてた方だと思う。実際、土佐先生にもお褒めをいただいたし。
でも今回、土佐先生からの指摘でものすごく思い知らされたことがある。「君の説明は"天下り的"やな。」と言われたこと。つまり、俺の説明は”まず、結論ありき”だということらしい。ある一定の、目的とする"科学的な法則"に向かって説明を組み立てていっていると。
科学的思考にとって最も大切なことは、凡百という一見なんのことかわからない事実の積み重ねがいったいどのような科学的な意味合いを持つのかを推測すること、実感することで、君はその過程をすっとばして、いきなり答えまで導こうとしていると。
いや、俺、そんなことを言われたのははじめてやったから、いたく感動した。そして言われるまで、自分がやっている"ルール違反"にまったく気づかなかったことにものすごく驚いた。
言ってみれば俺がやっていたのは推理小説を書くのと一緒だったのだなって。まずトリックがあって、それに犯人や動機を加えて、、、あとで探偵が事件を解きやすくすることを最優先に物語を組み立てていく。でも実際の世の中の事件はそんなもんじゃない。誰が犯人なのか、何が起こったのか。警察はただひたすら現場を調べて犯人にたどりつく。それが本当なのだって。ニュートンもアインシュタインもファラデーも、みんなそうやって科学的な法則にたどりついたのだと。そして土佐先生は君達にそれを追体験させようとしているのだと。
でもな、俺は自分が間違っていたとは思わない。
そりゃお前らは毎日必ず1時間は土佐先生の授業があるわけや。でも俺ら塾講師は1週間にたったの1回、1時間30分の授業。しかも出席とったり、テストやったり、賞味授業の時間ていうたら1時間ぐらい。その時間で生徒や保護者に学校の先生以上の"満足"を感じてもらうにはそれぐらいの科学的な"ズル"でもしないとやってられない。それが塾というものだと思う。
ただ、それは俺のホームグランドでするべきことであって、ここですることではないし、正直”科学的思考”のなんたるかは本当にここに来て土佐先生に教えてもらわなければ身をもって知ることはできなかった。
いや、俺自身、この教室で、何年か前まではそっち側に座って土佐先生の授業をうけてたワケやし、「ふぎゃー わからんー」と言って授業中でも寝てて何度も土佐先生に怒られてたワケだ。でも俺はあの時、土佐先生が俺達生徒にそのような考えをもって教えてられるとは露とも思わなかった。んで、その理念は、たぶん君達にも言ってられない。そういうことを言う人ちゃうから。だから俺が替わりに言っている(笑) この人は知識を教えているわけではない、科学にとって最も大切な"考え方"を体験させているのだと。
いや、正直、俺が今何を言っているか本当の意味ではわからんと思う。だから、俺は、君達があと数年して、大学に入ったとき、ぜひとも教職の単位をとってもらいたいと思っている。余計な単位を何個も、しんどいかもしれんけど、いつか教育実習でこの学校に来て、大人になった自分の目で、自分を教えていた先生を見ると本当にいろいろよくわかる。そして、いかに自分が、大きな情熱をもって教えられてたかがよくわかると思う。これは、土佐先生が目の前にいらっしゃるから言うんじゃなくて、本当にそう思うから言っている。俺はその手のお世辞はぜったい言わないから。
そしてその、"教育に関する大きな情熱と理念"というのはこの学校で再会したすべての先生が持ってられて、それもそれぞれすさまじかった。正直”これが本職の『先生』というものか”と舌をまいたのも事実。だから、俺は今になってはじめて、この学校で6年間、この先生方に、学べたことを誇りに思うし、今、こうして学んでいる君達を本当にうらやましく思う。なので、明日からも自分が教わっている先生方を信頼して、勉強に励んでほしいと思う。
これが、俺が、この2週間の千里国際学園の教育実習で実感したことだ。君達にとってこれから先、何かの役に立てば嬉しい。
2週間、俺のくだらん話を聞いてくれて、ありがとう。」
教育実習の最後に時間をいただいた時に話させてもらった内容。見学に来てくれていた真砂先生には拍手をいただけました。千里国際学園での教育実習は確かに素晴らしい体験でした。大人になるということは、今まで見えなかったことがいろいろ見えてくるということ。そしてそのときにもう1度、あの学校を見る機会を与えられたというのは本当に幸福だったと思います。
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