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2021.03.29
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テーマ: 読書(8214)
カテゴリ: 【読書】未分類

本のタイトル・作者



世界と僕のあいだに [ タナハシ・コーツ ]
"BETWEEN THE WORLD AND ME" by TA-NEHISI COATES

本の目次・あらすじ


息子よ、今、僕はお前に話そう。
お前の肉体がいかに破壊されやすいものか。
黒人が常に暴力と危険に曝され、奪われ続けてきたことを。

アメリカ。自由と平等の国。
警察による不当な尋問と恣意的な検査、差別的な陪審制度、労働力としての投獄。
繰り返される、無実の黒人の射殺。

ただの「資源」である、この黒い肉体。

白人の男の子が、郊外の裏庭で遊んでいる―――テレビ越しの、裕福で平穏な暮らし。
子どもの頃僕は、じっとそれを見ていた。
その空虚で輝きに満ちた「ドリーム」を。
略奪と凌辱。抑圧と欺瞞。虐待と暴力。
僕の世界の日常に比べ、それは遠い世界の、銀河の反対側にある物語だった。

世界と、僕のあいだにあるもの。

引用


僕はお前を連中のように生きさせはしまい。お前が投げ込まれたのは、いつも向かい風を面に受け、猟犬が足もとまで迫ってきているレースなんだ。程度の差こそあれそれはあらゆる人生にあてはまるんだが、違いは、この本質的な事実に目を背けて生きる幸運にお前は恵まれなかった、ってことなんだよ。


感想


2021年読書:043冊目
おすすめ度:★★★★

2015年全米図書賞ジャーナリズム部門受賞。マッカーサー賞受賞(5年で50万ドル!)、
著者は1975年生まれの作家、ジャーナリスト、教育者。
解説によると「詩人でありブロガー」でもある。

すごい本だった。

アメリカで黒人として生きること、ということは、こういうことなのか。
生きている世界が、見えている世界が、まったく違うんだ、ということを、思い知った。

著者は、黒人教育のメッカであるハワード大学に進学。
そこで初めて、「黒人」のヴァリエーションに気付く。
私も、読んでいてはじめてここで、「白人と対比しての黒人」を前提にしていたことに気付いた。

それが当たり前だから。
そこではむしろ、地域や民族、言語、宗教のほうがカテゴライズの意味をなすだろう。

私は日本で生まれ、黄色人種の中で「自分が何であるか」なんて考えずに育った。
この本を読んで、フランスの道端で「シノワ!(中国人!)」と呼ばれたことを思いだした。

解説によると、アメリカでは監獄の民営化が進み、健康保険や失業保険を払う必要がない大量の囚人の存在を前提とした社会システムがあるという。
愕然とする。なんだそれ。現代の奴隷制度じゃないか。

著者は、幼い頃通りを歩く時、いつもぎゅうと手を握られていた。
難癖をつけられ、流れ玉にあてられ、無意味な暴力にさらされて、失われた命たち。
そのすべてから守ろうとするように、保護者はきつく、手を握る。
災厄が降りかからぬよう、この通りを無事に歩けるよう、生きて帰れるよう。

私が歩道を歩く時、人通りがなければ子供たちは自由に歩く。
けれど時折、ややこしそうな人がいたら、私は子供を引き寄せてぎゅうと手を握る。
子どもを後ろに隠すように、目立たぬよう、かばうように歩く。
そのことを、思い出す。手の中の小さな温もりと、きょとんとこちらを見上げる瞳。
振り解こうとする手を、きつく握りしめて。
それが日常であるならば、その人生はいったいどんな風であるだろう。

その昔、中学の国語の教師が言っていた。
「有色人種有色人種って、何なんですかね。白だって、色なのに。」
―――白だって、色なのに。
そしてそれは、まったく混じりけのない白ではありえないだろうに。
#ffffff?そんなはず、ないだろう?

フランスで「シノワ(中国人)!」と呼ばれたとき、私は思った。
ジュ・ヌ・スイ・パ・シノワ、ジュ・スイ・ジャポネ!
―――ああ、私は日本人という枠にとらわれている。
そしてそこには、「中国人ではない」という認識が働いている。
いくらかの歴史的な、唾棄すべきバイアスがインストールされている。
それは、自らを白人と称し、差別なんてないように振る舞うことと、どう違うんだろう?

著者は、本の中で言う。
息子よ、鎖につながれていた彼らは、お前たちと別の人間ではないんだよ。

彼らは星を見上げ、その美しさに目を見張っただろう。
痛みに呻き、悲しみに泣き、喜びに胸を震わせただろう。

仏教的な考えで私は思う。
輪廻転生があるならば。私がもしも彼らであったならば。もしくはこの先、彼らが私であるならば。

砂漠の真ん中で、海に浮かぶ島で、北限の地で。
白い肌で、黄色い肌で、黒い肌で。
私たちは、同じ空を見上げただろう。
青い目で、茶色い目で、黒い目で。
端から染まる夕焼けの諧調に、藍に散らばる無数の星に、息を吹き返す凍てつく朝に。

だとすれば、彼らは過去の私であり、未来の私だ。
そうならば、同じ人間であるということに、あらためて気付くだろう。
今回、私が私として現在の属性を持って生まれたことはまったくの偶然だ。
それは誰かの上に立つことでも、誰かの下に置かれることでもない。
そしてそれは、同じはずなんだ。
ともすれば、意識の外に置かれがちであるけれど。

世界と、僕のあいだにあるもの。
それを上から眺めてみる。
ほんとうは、そこにはきっと、何もなかったんだ。
宇宙から地球を見ても、国境線なんて見えないのに。
でもみんな、そこにラインが引かれていると信じているんだよ。

誰かが引いた線を、守っている。
実際に高い壁を築きさえする。

世界と、僕のあいだに。


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最終更新日  2021.03.29 00:00:18
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