320life

PR

プロフィール

ノマ@320life

ノマ@320life

キーワードサーチ

▼キーワード検索

カレンダー

2021.04.29
XML
テーマ: 読書(8214)
カテゴリ: 【読書】未分類

本のタイトル・作者



ある男 [ 平野 啓一郎 ]

本の目次・あらすじ


死んだ夫は、別人だったようなんです―――。

かつての依頼人・里枝から相談を受けた弁護士の城戸。
宮崎の田舎町で林業に就き、事故で亡くなった「谷口大祐」。
折り合いの悪かった兄が確認したその顔は、別人だった。

谷口大祐であった彼は、いったい誰だったのか。
優しく純朴だった彼は、なぜ他人になりすましていたのか。

引用


勿論、もっと違った生き方もあったはずだった。それも恐らくは無限通りの可能性として。そして、彼は今、自分とは何か、ではなく、何だったのかということを、生きるためというより、寧ろどういう人間として死ぬのか、ということを意識しながら、問い直すように迫られていた。


感想


2021年読書:070冊目
おすすめ度:★★★

2019年本屋大賞第5位、ということで読んでみた。

面白く読んだし、いろいろ考えたけど、どんぴしゃではないなあ。
本屋大賞を読むと、いろんな作家さんに出会えて楽しいですね。
ぼうっとしていると、三浦しをん、森見登美彦、伊坂幸太郎、江國香織…といったいつもの「お気に入り」の人ばかりになっちゃうから。

過去を消した男の過去を追う物語。
ひたすら事件を追っていくところには『罪の声』、内容には『容疑者Xの献身』を重ねた。

弁護士の城戸は、在日3世。
そのアイデンティティと自分がうまく融合していないと感じている。
妻とも、決定的な何かがあるわけではないけれど、うまくいかない。
出張先のバーで、城戸はふと「谷口大祐」を名乗り、彼の人生を語る。
その解放感と背徳感。
これ、あるなあと思った。


幸福なのだと言い聞かせて、噛んで含めて納得させて、生きていく。
幸福なだけの重荷を携えて。

ふとこれまでの名前を、肩書を、過去を捨てて、別人として生きられたなら。
その身軽さに、一瞬心を惹かれる。

子どものころ、小さな窓から外を見て思っていた。

誰も私を追いかけてこれないところまで、逃げていく。
これまでの人生と、まったく関わりあわずに生きていくのだ。
今の、生まれてからこれまでの私の存在を、消してしまいたい。
誰も私を知らないところで、新しく人生を始められたら。

どこまでいっても、自分は自分であったとしても。
「つながり」の中にがんじがらめになって、身動きが取れない自分を、その鎖から解き放つ。
それはひどく魅力的なことのように思えた。

自分を、「自分」たらしめているもの。
過去の延長にあるのなら、その過去を否定すれば、今の私はどうなるんだろう。
過去の自分を受け入れることでしか、今の自分の存在を肯定できないとしたら、過去に傷を持つ場合は、どうすればいい?

そういうことを考えた小説でした。

誰かの物語を語れば、その人は、「誰か」になる。
名前はただの記号で、その人をその人にするものは、「何」なんだろう?
だからこそ、血のつながりがある、というのは、確固とした物語の成立を担保する、重要な要素になる。
だからこそ、「血がつながらない」という暴露は、世界が崩壊するような衝撃を与える。
ひとつの物語を断ち切ってしまう。
その感情が、本物であっても。




にほんブログ村 にほんブログ村へ







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2021.04.29 05:53:29
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: