三河に生息するチョウ 子供と一緒にチョウに接した時期を思い返して
はじめに
近年、色々な環境問題と向き合う機会が増えている。その中で児童向けに自然や生き物との触れ合いを勧める活動は、将来の健全な環境を託す上でも重要な位置付けにある。
例えばビオトープのような、昆虫を身近に生息できる環境を作ることは、未来に向けて人間と他の生物の共生を目指すモデル例と思われる。
また、私たちの身近にいるチョウに関しても生息数減少を懸念し、色々な活動が各地で行われている。東海地方ではギフチョウの保護、育成が有名ですが、これも貴重な地球の種の財産を守ることの重要性を教える上で必要である
我々大人としては、子供達に多くの自然や生き物への興味を引く機会を与えることが必要となってくる。
その上で私自身たまたま数年前に我が子供と蝶にて興味を共有することができました。私としてはこの財産をどこかに残したいと思い、三河地方にどんなチョウが生息しているか、いくつかその生態をまとめてみました。
きっかけは時空を超えた 標本
9年前のことでした。夏の連休を利用し、諏訪の実家に家族で帰省した際、私の親が押入れの奥からひとつの古びた標本箱を出して来ました。
それは、私が小学1年にこしらえたチョウの標本でした。モンシロチョウ、アゲハにまじり、アカタテハ、スジボソヤマキチョウ・・・。親は孫に見せたくゴソゴソと出してきたのですが、当時幼稚園年長の末娘が目をキラキラとさせて、「私も標本を作りたい」とつぶやきました。
身近な野山を巡り
それ以来、我が家はチョウと深い係わりが続きました。
昔取った杵柄とばかりうんちくを並べるおやじ(私)。チョウの美しさに魅せられ、卵からの飼育や標本までこなす家内。幼虫が葉をむしる姿を食い入るように観察したり、チョウの羽化の瞬間を見ようとして早朝にあわただしくおきる娘。これらは我が家の庭や周辺の野山を巡り、暇を見つけてはチョウ網を振り回した産物と言えます。
見つけたチョウを幾つか紹介します。
(1)ツマグロヒョウモン
このチョウは小さい頃私の実家では見かけることのなかった蝶です。
愛知でも、ここ15年くらい前から見られるようになったといわれています。今ではごく普通に愛知の町中で見つけることが出来ます。もともと紀伊半島以西に生息していたとされ、近年日本列島への北上が進んでいます。地球の温暖化が影響しているのでしょうか?本*1によると家庭で観賞用にさかんに栽培されるようになったパンジーを幼虫が食べるとのことで、全体数は増えていると思われます。メスの羽の先端には濃い紺色があり、その濃黄色とのコントラストが見事です。縄張り意識が強いのか、他の蝶が来ると、それめがけて猛進します。すずめに向かっても飛んでいます。私にはその奇怪な行動の理由がわかりません。だれか教えてください。
*1 チョウと共に生きる
阿江 茂著 裳華房
(2)ナガサキアゲハ
幡豆の山をうろついていたところ
黒地の後ろ翅(はね)にきれいな白と朱色の斑点をもったチョウがふわりふわりと飛んでいました。思わず「ナガサキハゲハだ」と叫んでいました。このチョウもその名のとおり九州しかみられなかったチョウで、ここ数年で北上が進み、愛知でもみられるようになったそうです。農薬が散布されていないのか、たまたま幡豆の荒れたミカン畑にたくさん飛んでいました。ミカンの葉っぱを幼虫が食べることはアゲハと同じですし、幼虫の姿格好も良く似ていす。
ただアゲハよりは人目につかないような山沿いで見ます。我が家では、卵から育成し、1頭羽化に成功しました。翅が徐々に開く様子は神秘的でした。もちろん標本にすることなく放しました。
(3)ゴマダラチョウ
翅 を伸ばしたまま木の上を旋回する姿はまるでツバメをチョウにしたような爽快さを感じます。しかも羽の黒と白のコントラストは凛とした威厳を併せ持ちます。
幼虫は榎の葉を好むので、神社や公園で植えられている榎の周辺でよく見られます。
我が家はこのチョウを採集した際、三角紙の中に卵を産んだので、家内の実家より榎の小枝を拝借し飼育した結果、見事羽化しましたそのうちの1頭は何故か娘に懐き寄り添っていました。これは不思議な体験でした。
(4)ウラギンシジミ
シジミチョウといえば小さくて野原の草と同じ高さを飛んで‥といった光景を思い浮かべますが、このシジミは木の上をタテハチョウのように飛びます。体長約20mmとシジミにしては大型で、裏翅が銀色のため飛んでいる時は日を反射しきれいです。表羽の色が雄と雌で異なり、一対で並べてみると存在感が増します。
このチョウはチョウのまま越冬もします。私は秋も後半の11月、三河湾の佐久島の海つりセンターへ架かる橋の上で見つけました。
海を渡るチョウにロマンを求めて
(5)アサギマダラ
近年、殊に国内で有名になったのがアサギマダラである。
このチョウは春から夏にかけて北上し、夏から晩秋にかけて南下する渡りをするチョウだ。愛知で見つけたチョウが南大東島で発見された記録もある。
(写真朝日新聞記事より)
どうやってわかったかって?
実はこのチョウの生態を調べるためにチョウの翅に印をつけているんです。これをマーキングと呼んでいます。日本各地にこのチョウに興味を持っている人がおり、捕まえた際に細字のマジックで、場所と日付を明記します。
再びある人がそのチョウを捕まえてどこから飛んできたかがわかるのです。
マジックで書けるのは翅の白い部分に燐粉が無いからであり、アゲハでは書けません。羽ばたきが遅く飛ぶ姿には温和さを感じます。どこに海を渡る力を秘めているのか不思議でたまりません。また燐粉の無い部分がやや透けているため、光の反射と透過を通して、飛んでいるとき微妙に色が変わりきれいです。10月上旬から11月上旬にかけて、愛知県内でも見ることができます。特に渥美半島から三河湾にかけての海から急に山になるような場所でヒヨドリバナのあるところに群れを成します。
私は8月に蓼科で、10月には知多半島の内海でこのチョウが群れを成しているのを見ました。2002、3年には家族で内海フォレストパークにてアサギマダラマーキングに参加しました。
数多くの人がマーキングに参加しており、中には1日に100頭を超えてマークした人もいます。その人たちは片手にタオルを、片手にチョウ網をもってアサギマダラを捕まえています。不思議なことにタオルをグルグル回すとそれめがけてアサギマダラは飛んでくるのです。残念ながらフォレストパークは2003年に閉鎖され、行事としてのマーキングはなくなりました。
このチョウに興味のあるかたは秋、知多半島や、三河湾、佐久島でマーキングされては如何でしょうか?
あなたのマーキングしたチョウが海を越え、沖縄や台湾で見つかるかも知れません。私は海を渡る途中にどこでどのように羽を休めているのか興味を覚えます。
チョウとの接し方に思う
そのほか、モンキハゲハを三ヶ根山で、ジャコウアゲハの群れをそのふもとで見つけており、身近なところに色々なチョウがたくさんいます。
我が家では、4年間で三河、知多で計33種類のチョウを観察しました。
最後に、チョウを採集する者にとって気にかかる点、それは捕獲することの行為である。保護を考えると捕獲することは相反するように思えます。
この点については色々な意見があるが、命の大切さを子に伝えた上で捕獲した場所、年月日を標本に付記することで、授かった命を無駄にしないように心がけました。
ただ、絶対数が少ない品種に対しては、一匹のメスの捕獲が大きな悪影響を及ぼすとも言われおり、捕獲するのではなく保護することが必要となってきます。チョウを保護育成するために、身近な里山を維持してほしいと強く感じます。
大人になって再びチョウに魅せられるとは考えもしなかった自分が、大人だからこそ、子供とチョウとの共生について深く考えた期間でした。
その後、子供は中学生になり、チョウへの興味は失せましたがこれも成長過程としては仕方なき事かもしれません。しかし当時食い入るようにチョウを観察した事実と、自然に触れ合った記憶は何れ大人になる時その世代の子供達に伝わると信じている。
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