土井いわゆるエリートではなかった、工業高校の機械工学を専攻し川崎重工には職工として入社した。
航空機を作る工場でもくもくと同じ作業を繰り返していたが、いつも疑問を抱えている男だった。
工業高校時代は勉強をするより実験や、実際に飛ぶ鳥を捕まえてはその翼の構造を細かく研究していた。
鳥の翼は二つの要素から構成されている空気を後ろに押しやる羽ばたく翼と胴体に近い羽ばたかない翼である。
航空機は鳥の翼を研究することにより実現できた乗り物である。
羽ばたく翼は航空機でいえばプロペラを動かすエンジン(内燃機関と)空気を圧縮して燃料を注入し爆発力を推進力に替えるジェットエンジン(外燃機関)に当たる。
一方、羽ばたかない翼は上昇力(揚力)を生む。
これは流体力学上ベルヌーイの定理で説明される、同じ空間において翼の上を通る空気の圧力と速度を乗じたものと翼の下を通るそれは一定であるので翼の上面の流速は下より速くなり結果的に空気の圧力は翼の下のそれより小さくなる。
つまり、結果的に下から持ち上げられることになりこれが揚力となる。
こうして鳥は空を飛べるのでありこれは鳥が考えたのか神が考えたのかさすがの土井にもわからない。
土井は工場でよく作業を中断する、あまり良い職工ではなかった。
中断しては上長に提案するのだ「ここはこう変えたほうが空気の流れが良くなるのではないでしょうか」
そればかりか、自分の持ち場を離れ様々な作業工程に首を突っ込んでくるのでかなり煙たがれていた。
工場長は山口と言って東大出のエリートである、しかし、問題児とされいろいろ質問してくる土井には好感を持っていた。
「なるほど、そうだね」工学系の理論をしっかり身に着けていた山口工場長には土井の指摘が理にかなっているものだとすぐに飲み込めた。
工場長の呼び出し 2020.07.31
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