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2004年05月03日
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まず何はともあれしたかったこと。
彼女が起きる前に準備をして、
起きてきた魔茶味に朝ご飯を与える前に、
庭の真ん中に椅子を置いて座らせる。そして、
風呂敷を首に巻いて、ぞろぞろ伸びた髪を切ってあげる。
「いいよ切ってくれなくて。美容院いくからー」
という魔茶味の訴えは却下。
私は、中学生くらいまで父が髪を切ってくれていたので、
我が家には立派な散髪セットがある。

弟の髪を切ってあげたこともあった。しかしあれははっきり言って失敗だったが。
まるでつぶやきシローかほとちゃんかっていう仕上がりだったから、
次の日弟は、朝イチで床屋に行っていた。
そんなことは、魔茶味にはもちろんあえて言わず。
母が、魔茶味からのお土産のぬいぐるみを持って、
まな板の上の鯉状態のマチャミの周りを浮かれて徘徊。
暇なら写真をとってと言って、青空美容室の写真を撮ってもらう。
言われるがままに椅子に座っておとなしくしている魔茶味だが、
内心どんなことになってしまうのか不安に違いない。

空ではすずめがちゅんちゅん鳴いていて、
時折すーっと吹く風が、心地いい。


町で一番美味しいと思う蕎麦屋さん。
彼女が福岡でも指折りの美味しい蕎麦屋の娘で、
蕎麦にうるさいことは承知の上。
それでもきっと、旨いと思うだろうという確信。
注文を受けてからうって出してくれるから、待ち時間が長い。

町の中にもいっぱいの知った顔。
「おー帰ってきたか!」
「おかえり!」
という言葉をいっぱいもらいながら、ゆっくり歩く。
店番をしていた友達は、化粧をする暇もないほどひっきりなしに
お客さんがきて忙しそうだ。
お昼ご飯におにぎりとコロッケを商店街で買って差し入れる。
「たすかるわー。」
お安いご用。よーがんばっとるね。立派なもんです。

「アングラちゃん。」
「なに?」
「魔茶ね、気に入ってるの。」
「何が?」
「この髪型。ありがとう。」
かわいい奴だ。
こんななんでもないときにふと告げたってことは、ずーっと思ってたんだろう。
確かにかわいくなったよ。

「確かにこれは美味しい。」
東京の名店の蕎麦にも首を縦にふらなかった蕎麦屋の娘も納得の味。
「これだったら東京に進出してもやっていけるよ。」
すぐにビジネスに結びつけたがる魔茶味だが、
この町の人は、多分、ここでやっていくことに誇りを持っていると思うよ。
都会で沢山の店舗展開をするために、飲食店をやっているわけではない。
その価値観の違いは、この町が好きだ、この場所が好きだ、
というそれだけで、埋められてしまうことなのだ。
都会のビジネスのあり方とは、違うのだ。
昨日から、いいものを見つけるとすぐに
「これは東京でも通用するよ。」
といっていた魔茶味だけど、段々理解してきたようだ。
この場所にあるから、いいんだよ。
この場所にいるから、いいんだよ。
この場所だから成り立つ、注文を受けてから蕎麦をうち、
長いときは2時間待たないと食べられない蕎麦は、
お客さんを待ち時間の間にぶらりと町を散策してみようという気持ちにさせて、
町に人が流れて、町が元気になる。
観光を一つの産業にしていこうとしている町にとっては、いい相乗効果。

なぜかついてきたうちの母も交えて、三人でおいしく蕎麦を食べた後は、
「お父さん以外には裸は見せないの♪」という母を家に送り届けてから
魔茶味と二人で昼間っから温泉へ。
風呂あがりに休憩所でマッサージ。
マッサージ上手な彼女は、最近は専ら人にやってあげることが多い。
マッサージが上手な人は、自分がマッサージを受ける気持ち良さを知っているから。
だから、私にくらいしか言わないだろう、
「もーんーで!」
という彼女のわがままを、ここではハイハイ、ときいてあげる。

ソフトクリームをふたつも食べる珍しい彼女もここではアリだろうと思いながら、
次に、この町の人でさえ知らない私だけの桃源郷に案内する。

教えたくない場所。
私の秘密の場所。
ここにくれば、どんな気持ちも流してしまえて、
どんな心も清浄されて、
体の痛みも、心の痛みも、すーっとひいていく、
そんな桃源郷が、あるのだ。

車で山の中に分け入っていく。車で行けるところまで行ったら、
そこから歩いて、草を分け入って入っていくと、
目の前に広がるのは、別世界。
川底まで透き通った水が流れる川と、滝と、
まっすぐに伸びた木々と、山野草があちこちに咲いていて、
時折鳥のさえずりがきこえ、それでいて
不思議なほどの静寂があり、地球に住んでいる実感。
ちっぽけな自分と、大きな自然と、
この場所に抱かれている安心感。

二人とも、その場所の、別々の場所で、どこを見るともなく、
たたずんでいた。ただ、たたずんでいた。

「この場所を共有したいって思う人って、
 そんなに多くないよね。」
と二人で言いあいながら、お互い誰を思い浮かべていただろう。

私にとっては、あなたもその一人です。

あなたが私のふるさとを訪れてくれたときに連れていきたい場所は、
はりきった観光コースではない。
私の好きな人たちに会わせて、家族と談笑して、
なんてことはない日常の会話に加わって、
学校の帰りに買い食いしたやみつきコロッケを食べさせて、
好きな景色を一緒に見て、
秘密の場所を案内して、
温泉でゆっくりして、全てフル方言の私で。
それ以外のことは、別にわざわざここでなくとも
あんたに見せる機会は沢山ある。
私という人間が出来あがった、そのルーツを伝えたい。
私がふるさとにこだわる理由を、押し付けではなく伝えたい。
それが、毎年GWにあんたが岐阜まできてくれる心意気への
応えだと思っている。

山から綺麗に咲いたフジの花をとって、花好きのおばさんちに届ける。
逆にお礼をいっぱいもらって家に戻ると、
母お手製の、ふるさとの味フルコースディナーが用意されていた。
朝採ったばかりの庭でとれた筍、エンドウもキャベツも、みんな
畑で採れたもの。漬物は家でつけたもの、米も田んぼで採れたもの。
山菜のてんぷらは、母の解説付き。
この山菜はどこで採れた、この山菜は手に入りにくい、など、
美味しいものを食べさせてもらっているからには、黙って聞くしかない。
魔茶味リクエストの桜海老は、我が家の野菜を贈るお礼におじさんちから
毎年やってくる季節の贈り物。物々交換が成り立つ世界である。

片付けもしなくていいと言われ、こんな上げ膳据え膳生活は
極楽だなぁと思いながら、多分、普段自分でやっているからこそ
こういうありがたみが余計にわかるんだなぁと思うと、
東京の日常も、意味があるなと思う。

眠たくなったら床に入ればいい。
健康的に、9時には一旦寝付いてしまったが、
12時くらいに目が覚めて、
そこから2人で映画を見始めて、結局寝たのは明け方だった。
魔茶味はそこから更にマンガにはまっていた。
多分東京じゃそんなことに時間を費やそうとは思わないんだろうけど、
他にすることもないし、する必要もないし、
あくせくしなければいけないことなんて何もないし、
しなきゃいけないことも、ここまで持ってこれないし、で、マンガ。
うちにはマンガといったらドカベンと釣りバカ日誌くらいしかないので、
彼女が夢中になって読むマンガはもちろんうちのではなく
友達が勤めている児童センター通称ジーセンから借りてきたもの。
ジーセンには、まちの子どもはみんな小さい頃からお世話になっている。
貸し出し期間は決められているのだろうけれど、
友のよしみで無期限で借りているマンガも、
これだけ読まれれば本望だろう。明日返しにいってこよう。
なんてことを考えていたら、うつらうつらとしてきた。


こんな夜の過ごし方もいいんじゃない。





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最終更新日  2004年05月17日 21時08分27秒
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