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レビュー記事:Ph.D
写真:TEAM23.JP
履いている人が少なくて、自分に最適なバスケットボールシューズを見つけた時の『ホクホク』感を分かるだろか?それは、売れる前のお気に入りのミュージシャンを見つけた時の満足感と似たところがある。今年3月に特に大きな前触れもなく発売になったVapor
Driveは、まさにそんなカテゴリーに属するシューズと言えるだろう。 発売から5ヶ月。そろそろセール品み紛れ込んで市場から完全に消え去る頃合だろう。そんな掘り出し物を見逃さない為にも、今回のレビューは、隠れた一品を紹介する事にした。注意:ミツケタタソクゲット。
この商品のコンセプトは「Engineered For Speed」。とにかくスピードにこだわってみました。というものだ。よって、最近ナイキジャパンが行っている「Speed」のバスケット版という事なのだろう。実際の商品に目を向けてみても、その事はビンビンと伝わってくる。


シューズの構成は、ミドルソールを境に分かりやすく分割されている。担当部署に分かれているとでも言ってよいかもしれない。
軽量部門(アッパー) :とにかく軽い。その軽さを言えば、アッパーだけの重さはほとんどないだろう。もともと軽いアッパーレザーを使っているのに、それにベンチレーションホールを全体に空けて軽量化を計っただけではなく、インナーも重さ数グラムという感じの伸縮性のメッシュ素材になっている。こだわりは、アッパーの裏地(布一枚)にもいきわっているのは、言うまでもない。
軽量+スピード部門(ミドル+アウトソール):ロープロファイルのCMEVAとZoomユニットでスピードと軽量化を実現。アウトソールも面積も少なく、厚みも薄い。スピードに耐える為の施工も忘れずに施されており、フルレングス+立体のカーボンスプリングプレートによって、重さを重ねる事なく、安定化が図られている。イメージとしては、F1マシーンの足回りが、軽量で強度のある固めのパーツで作られているのに近いものがある。勿論、サスペンションは硬い。
Vapor Drive AF = 超軽量ボディ + 強度で軽量な足回り。空気(Vapor)を載せて走るスーパーカーみたいなもの=ボディの重さの影響を一切受けない車。空気を身につけてドライブするような感覚。

全体にベンチレーションホールを空けられたVapor Driveのアッパーはとにかく軽い。どの位軽いかと言えば、「ミニ四駆」(タミヤの玩具)でボディをくり抜きすぎて、コースアウトしっぱなしな位だ。アッパーの厚み指で測ってみてもそれは歴然としており、触った感じは布一枚という感じが一番当たっているだろう。軽いのはアッパーレザーだけではない。Vapor
Driveのインナーは、軽すぎるアッパー以上に軽いつくりになっている。素材は伸縮性のあるメッシュが2層になっているものを使っており、触った感じはナイキのDri
Fitの素材のようなものになっている。

そんな"2枚の布だけ"のようなVapor Driveのアッパー部門は、足を入れてもほとんど履いた感じがない。名前のVapor(水蒸気)を身にまとっているように、足にまとわりつくものを感じる不快感は皆無に等しい。通気性の良さもそれを際立たせているのだろう。しかし、軽さと履き心地の良さのトレードオフは確実に存在する。Vapor
Driveのアッパーは、『非常』にもろい作りになっている。AND1のタイチ・ミッドで頻繁に見られるように、サイドから裂けてくるのが最初の兆候なのではないだろうか?ナイキのスウォッシュで補強はされているものの、それだけは避けられそうもない。※Zoom
Swift IIよりは頑丈。
また、柔らかすぎるアッパー素材が理由で、足をシューズにロックできないという欠点もある。実際に、シューレースを一番上の穴まで通して、かなりきつめに締めたのだが、激しい動きになると、動きを抑えられないアッパーが伸びているような感覚を感じ、少し不安な感じが残っている。ヒールカップの固定感が弱めな事も、全体的なサポート力の低下に直結している。

あまり注目は浴びていないが、ガード向けのシューズとしてはかなり高いレベルのパフォーマンスを提供してくれる。安定感やサポートという意味で言えば、ナイキが力を入れているSwiftIIよりも、私には合っていると思えた。
具体的に言えば、軽さと履き心地、そしてかなり高いレベルの接地感覚と反発性。特に気に入ったのが、走りやすいアウトソールの柔軟性と、サイドのはみ出したアウトソールの形状によって生まれる安定感だろう。この形によって、少し位変な角度で着地をしても、正しいポジションに導いてくれるので、反転する事は防いでくれるはずだ。AirJordan 19のそれよりも、小さく(邪魔にならない)ても効果的なようにも思えた。立体(足の側面まで延長した)になって装備されているフルレングスカーボンファイバーも、そのサイドの動きの安定性に一役買っている事は確かなようだ。
逆に少し足りないと感じたのは、柔らかいアッパーによって、足の固定が甘い部分だ。試しているうちに感じたのだが、どれだけきつくシューレースを結んだとしても、足を靴にロックダウンする事はできないので、激しい動きの中では微妙に足がブレる感覚を感じてしまう。重さが増したとしても、もう少しアッパーに強度を増してもよかったのではないだろうか。それに加えて、モビリティを重視したクッションシステムも、人によっては十分でないと感じる事があるかもしれない。あと、アウトソールが糊で貼り付けただけというのが丸出しな部分も、少し心配が残る。
Vapor Driveは、スピード重視のプレーヤーで、サポートをそれほど必要とせず、クッションを重要視していないガード、フォーワードプレーヤーにはお勧めのシューズだ。スピードを重視していないプレーヤーでも、広い範囲でこのシューズのパフォーマンスを気にいるプレーヤーは少なくないだろう。逆に、サポーター無しにはプレーできないようなプレーヤーで、足の固定を必要としているなら、このシューズは避けておいたほうがよい。

これだけ良質なシューズが、特に注目を集める事なく市場から消えていくというのは、とても不思議な気がしてならない。結局はマーケティング。と結論に到達してしまうのだが、完全に消えてなくなってしまう前に、こんな良質なシューズがありましたよ。というお知らせの意味を込めて、今回はこのシューズを紹介させてもらう事にした。最近の商品サイクルは早くなる一方で、どんどん新しい商品が生まれては消えていくわけだが、その中でもバスケットボールを科学されたシューズというのはそれほど多いわけではない。全てが昔の商品の焼きまわしに過ぎず、ほとんどのシューズにあまり大きな感動を感じないというのが、最近のシューズ市場の現状であったりする。
そんな中でも、『Vapor Drive AF』っていい。今後の為に2足かってしまった。というあなた。あなたはよほどのシューズ通で、自分の価値観を持っている人だろう。なんといってもこのシューズの良い点は、スピードに注力して、とことんまでその目的を追求した姿勢にある。この職人魂は、高く評価すべき点で、このようなシューズはそう多くはない。
例えば、Zoom Huarache 2K4。Zoomとハラチというナイキの材料を調合した上で、大きなマーケッティングを打ち上げ、あれだけ多くのNBAプレーヤーに着用してもらったシューズがあるが、ネームバリューがあるものの、商品自体からはほとんど主張は伝わってこない。特に軽いわけではないし、ハラチが特にフィットするわけでもない。サポートもユルユルだし、どの要素を取り上げても、このVaporDriveにパフォーマンス自体で勝っている点は見つからない。 勝っている点といえば、マーケティングにかけられた費用と、希望小売価格と、市場に出回った出荷数と、ナイキファンの間の期待値位だろう。どれをとっても、シューズの実際の性能にはつながっていない。これが現実というものなのだろう。
これだけ情報が氾濫している今日。その中から自分の必要としている情報を見つけ出し、検証し、自分の価値観と照らし合わせるという事は、それほど簡単な事ではない。誰もが自分はユニークでありたいと思いながらも、ほとんどの人が、周りと同じ行動をとっているのを見てもそれが分かるだろう。
そんな事に悩まされているあなた。(ie. なんとなくZoom Swift IIを買ってしまったあなた)Vapor Driveを選ぼう。周りに履いている人が少なかったとしても、確実なパフォーマンスに満足する事だろう。デザインについては個人差があるのであまりいえないが、本物の実力がそこにはある。
P.S. Air Zoom Vapor Drive AF を、少々厚底で安定感が高い AND1 Chosen 1 Mid と感じたのは自分だけだろうか?
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