パンジーが徒長し始めて、
虫も散見されるようになった。
朝、
門の前でパンジーの花殻を取っていたら、
ふと背後にひと気を感じて振り返ってみた。
犬の散歩の人だったので安心した。
犬の散歩の人は多いのだけど、
普通の通行人とちがって立ち止まっていることが多い。
なに?と思って足元に犬がいると安心する。
なぜそんなことぐらいで安心するのか。
安心といえば今朝の場合には、
そいういうことがあってから間もなく、
おはようございます、という声がこちらに向けられたように感じたので、
また振り返ったら、
珍しいことに警官が徒歩で一人で通り過ぎるところだった。
あ、おはようございます。
歩いてるんですかと聞きたかったが、
通過してしまった。
丸腰じゃないとは思うけど、
警官だから自転車かバイクかパトカーにしてね、
とちょっと思った。
警官がコンビニにお弁当買いに入るのは見たことがある。
見ていてなんだか可笑しかった。
おおむね平和な国だから、いいなとも思う。
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もう10年は経つと思うけれど、
その朝も同じように花殻をとっていて、
僕は背後に何かひと気を感じた。
その時は、
通行人ではなく、
犬の散歩の人でもなく、
ご近所さんらしくもなく、
なにか変な感じの後姿で少年かもしれなかった。
5~6メートル離れているのだけど、
放心したような後姿でほとんど歩かずに佇んだ感じだった。
家に入っても気になって、
2階から見たら、
まだほとんど同じところに佇んでいたので、
おかしいなと気になってよくよく見てみたら、
だらんと両腕が下がっていて、
片手にキラリと光るものが見える気がした。
茶髪だったし、
ただならぬオーラ?を感じた。
110番して様子を説明した。
パトカーは5分後ぐらいに来たのだけど、
もう姿がなかった。
説明している間に警官どうしであわただしいやりとりがあって、
近くの交番に来て暴れたから捕まえたということだった。
実際には、
それは17歳の茶髪の少女だった。
知らなかったのだけど、
すぐ見える近所のお宅の子で、
家庭内暴力直後の飛び出して来た放心状態だったらしい。
自分で交番に来て、
誰か刺してやると暴れたらしい。
パトカーが迎えに来て、
僕は生まれて初めてパトカーに乗ったのだった。
警官は、
僕が変にその子にかかわらなくてよかった、と言った。
昔はパトロールカーがよく巡回してくれていたのに、
警官増やしてほしいと思う、
と僕が言うと、
警官は言った。
いえ、
増やせば悪い警官も増えるんです、と。
その家族は、
まもなく引っ越してしまった。
あの子はどうしてるかなとよく思い出す。
パンジーの花殻とってると、
あの朝の空気感が蘇るのだ。