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隠し続けた兄の存在…「最期をみとる」覚悟を持てた心の変化
「結婚しよう」
10年前、神奈川県に住む30代の会社員、寺田智美に大きな転機が訪れた。職場で知り合った交際相手の毅にプロポーズされたのだ。
幼い頃から、自分の家庭を築くことを誰よりも望んでいた。そんな智美にとって、毅からの言葉は忘れられない瞬間になるはずだった。が、喜びよりも先に脳裏をよぎったのは不安だった。「どうしよう…」
智美は毅に、父のいない環境で育ったことだけは伝えていた。しかし、両親が離婚したことや、母の美幸からネグレクト(育児放棄)されていたことなど、まだ打ち明けていない幾つもの家庭の事情があった。
中でも、知的障害を持つ2つ上の兄、宏の存在は、10代後半から友人や上司にも存在自体を隠し続けてきた最大の「秘密」だった。
母に背中押され
智美が幼い頃から、兄は独特の存在だった。ぶつぶつと意味が分からない言葉を繰り返し、嫌なことがあると突然「ワーッ」と大声を上げた。手を落ち着きなく上下に動かし、しきりに拍手をする。夜はあまり眠らず、何かつぶやいたり、テレビゲームに没頭したりする姿を覚えている。
智美の父、敏夫は家族4人で暮らしていた頃から家に生活費を入れなかったため、家計を担っていた母は、飲食店での仕事で家を空けていた。智美には母親らしいことはほとんどしてくれなかったが、決められた生活でなければパニックに陥ってしまう兄のことには、人が変わったように関係機関への相談などに奔走していた。
事実、兄に関する相談のため、母は兄と智美を連れて月に数回、児童相談所を訪れたが、家に不在がちで智美に十分な食事さえ準備できていないことは、一言も口にしなかった。
「母はそういう状況になっていることを人に言うのは恥ずかしいことだと感じていたんだと思う。兄に関してはなりふり構わないのに。兄にばかり構っていてずるいと思っていた」
智美は思わず母に「普通の家に生まれたかった」と感情をぶつけたことがある。返事はなかった。
智美が小学3年のときに両親が離婚すると、母は女手一つで子供2人を育てようとした。だが、やはり負担が大きく、半年で断念した。兄はそれ以来、障害者施設に入っている。
智美はやがて兄の存在自体を隠すようになり、毅にも「兄弟はいない」と説明していた。そんなときの、毅からのプロポーズ。「隠し通せない。でも、言ったら結婚できないかもしれない…」
悩む間にも、毅の両親にあいさつに行くことになるなど、結婚話が進んでいく。焦りを募らせる智美に「言った方がいい」と背中を押してくれたのは母だった。思い切って両親の離婚のこと、兄のことを一気に打ち開けると、毅の返答は「なんだ、そんなことだったの」。毅の両親も受け入れてくれた。
理解を生かして
施設に入る兄と最近会ったのは約1年前。母にも「年に1回は会いに行って」と頼まれている。
兄は体調の良い時は智美の娘に興味を示し、「よろしく、よろしく」と繰り返すが、無視することもある。かつて「何でいるんだろう」と疎ましく思った兄の存在だが、次第に受け入れ、周囲にも話せるようになった。
時には「実はうちも…」と家族に障害者がいることを打ち明けられることも。かつての自分と同じような境遇の人たちがいることを知った。30代になった今は「障害者の家族の気持ちを自分は誰よりも分かると思う。これを生かしていきたい」と前向きに捉え、職場でも障害者をサポートする役割に手を挙げた。
智美は言う。「障害は特別なことではない。どういう症状かを知れば、障害者は怖い存在ではないことが分かるはず。職場などで受け入れることが、障害者への理解につながるのでは」
兄にばかり愛情を注いだかに見えた母も、もう60代と高齢だ。「母が死んだら、兄の身内は私だけ。兄の最期をみとるのは私しかいない」。そんな覚悟を持てるようになった。
(文中はいずれも仮名、敬称略)
■被虐待者は乳幼児4割超 虐待者は実母が突出
厚生労働省が集計している児童相談所による虐待対応件数は、被虐待者の対象を「18歳未満」としている。厚労省が被虐待者を「0~3歳未満」「3歳~学齢前」「小学生」「中学生」「高校生・その他」の5つに区分して集計したところ、平成25年度で最も多かったのは小学生で、2万6049件(約35%)だった。
これに、3歳~学齢前の1万7476件(約24%)、0歳~3歳未満の1万3917件(約19%)が続く。学齢前の乳幼児を合計すると、全体の4割超に上った。
一方、虐待した側をみると、実母が4万95件(約54%)で最多。実父(2万3558件、約32%)の約1・7倍だった。また、実母が再婚した相手や内縁の夫などを含めた「実父以外の父」も4727件(約6%)と一定の割合を占めている。
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