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心理学で最も有名...「悲劇の患者」の伝記
『ぼくは物覚えが悪い 健忘症患者H・Mの生涯』 スザンヌ・コーキン著
H・Mは心理学で最も有名な患者であろう。
彼はてんかんの治療のため脳の一部切除手術を受け、
その後新たな記憶を形成することができなくなった。
自転車に乗り、楽器は弾けても、
日々の出来事や出会った人についてのエピソードの記憶が、
H・Mには不得意であった。
その記憶は、手術より前の過去か、または現在の約30秒に限定されてしまった。
彼は「永遠の現在に閉じ込められてしまった」のである。
彼の症例により、記憶には短期記憶、
長期記憶と体が覚えた手続き的記憶があり、
それぞれが異なる脳機構によることが理解された。
現代心理学・脳科学の記憶の理論は、
H・Mの症例を手がかりに進展してきたと言っても過言ではない。
本書は、H・Mとして知られてきた抽象的な記憶障害者の人生を、
ヘンリー・モレゾンという具体的な人物の生涯として描いたものである。
ヘンリーは27歳のとき、てんかんの治療のため
発作の原発部位とされた脳の海馬とその周辺の切除手術を受けた。
幸いてんかんは治ったが、
ヘンリーはその後記憶を作れない男になってしまった。
本書の40ページには、手術前のヘンリーの写真が掲載されている。
美男である。
自分の身に起きた悲劇にも 拘 わらず、
そして記憶が30秒しか持続しないにも拘わらず、
研究者に協力的で礼儀正しい男であったそうだ。
著者のスザンヌ・コーキンは、
研究者としてヘンリーと46年に 渉 るつきあいを続けてきた。
本書には、研究者としての視線と、
そして著者自身は努めて抑制的であるが友人としての視線が、
モザイクのように描かれている。
抽象的な症例としてではなく、人間としてのヘンリーに触れることで、
読者は記憶の科学をヘンリーの伝記として学ぶことが出来るだろう。
ヘンリーは永遠の現在を楽しむことを身につけ、死について悩むこともなく、
82歳の生涯を全うした。
今まさに心理学を勉強している諸君は、
教科書よりもまずはこの本を読むべきである。
鍛原多恵子訳。
◇ Suzanne Corkin =マサチューセッツ工科大神経科学名誉教授。
マサチューセッツ州チャールズタウン在住。
早川書房 2600円
人生どのように生きるか、
勿論色々な弊害のある中でも、
何より懸命に生きる姿に感銘を受けるのでしょうね。 🌠
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