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2015.01.15
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カテゴリ: アット・ランダム

 心理学で最も有名...「悲劇の患者」の伝記

 『ぼくは物覚えが悪い 健忘症患者H・Mの生涯』 スザンヌ・コーキン著

H・Mは心理学で最も有名な患者であろう。

彼はてんかんの治療のため脳の一部切除手術を受け、

その後新たな記憶を形成することができなくなった。

 自転車に乗り、楽器は弾けても、

日々の出来事や出会った人についてのエピソードの記憶が、

H・Mには不得意であった。

その記憶は、手術より前の過去か、または現在の約30秒に限定されてしまった。

彼は「永遠の現在に閉じ込められてしまった」のである。

彼の症例により、記憶には短期記憶、

長期記憶と体が覚えた手続き的記憶があり、

それぞれが異なる脳機構によることが理解された。

現代心理学・脳科学の記憶の理論は、

H・Mの症例を手がかりに進展してきたと言っても過言ではない。

 本書は、H・Mとして知られてきた抽象的な記憶障害者の人生を、

ヘンリー・モレゾンという具体的な人物の生涯として描いたものである。

ヘンリーは27歳のとき、てんかんの治療のため

発作の原発部位とされた脳の海馬とその周辺の切除手術を受けた。

幸いてんかんは治ったが、

ヘンリーはその後記憶を作れない男になってしまった。

本書の40ページには、手術前のヘンリーの写真が掲載されている。

美男である。

自分の身に起きた悲劇にも かか わらず、

そして記憶が30秒しか持続しないにも拘わらず、

研究者に協力的で礼儀正しい男であったそうだ。

 著者のスザンヌ・コーキンは、

研究者としてヘンリーと46年に わた るつきあいを続けてきた。

本書には、研究者としての視線と、

そして著者自身は努めて抑制的であるが友人としての視線が、

モザイクのように描かれている。

抽象的な症例としてではなく、人間としてのヘンリーに触れることで、

読者は記憶の科学をヘンリーの伝記として学ぶことが出来るだろう。

ヘンリーは永遠の現在を楽しむことを身につけ、死について悩むこともなく、

82歳の生涯を全うした。

今まさに心理学を勉強している諸君は、

教科書よりもまずはこの本を読むべきである。

鍛原多恵子訳。

 ◇ Suzanne Corkin =マサチューセッツ工科大神経科学名誉教授。

マサチューセッツ州チャールズタウン在住。

 早川書房 2600円

【読売新聞】

ぼくは物覚えが悪い 健忘症患者H・Mの生涯

人生どのように生きるか、

勿論色々な弊害のある中でも、

何より懸命に生きる姿に感銘を受けるのでしょうね。 🌠

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Last updated  2015.01.18 10:51:46
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