ペトラプト・パルテプト

まきまき / その6

まきますか? まきませんか? / その6





「なぁんだ。人形か――――!!」







寿命が縮むとはまさにこの事だ。


(そりゃ息もしなけりゃ、動きもないわな――。)







全身から力が抜けるようだ。安堵とはこんな感じのことをいうのか。







ほとんど人間と区別がつけられないぐらい精巧に良くできた人形。


トランクの中で膝を抱えている。眠っているかのようだ。




死体と間違えるのも無理はない。





緑色のドレス。腰よりも長そうな髪。髪飾りみたいなのに長めのリボン。安らかな寝顔…。












窓の外では街がゆっくり目覚めたかのように、少しずつ喧騒が始まりだす。
いつものことだ。でも…。









それがこの子を起こしやしないかと心配になるほど、安らかな寝顔…。













その寝顔を見つめていると、なぜだか心が静かになっていく感じがした。







( 触ってもいいんだろうか? 別にいいよな? 誰かに見られてるわけじゃないし。)


( こういう趣味はないけど、誰かに見られたらヤバいよなぁ…。)


( 人形マニアの変態…。ロリコン…。一人暮らしの寂しいダッチ○○○好き…。)









「えぇーい! そんな訳あるか! 俺はな、好き好んで人形を置いてるわけじゃない!!」




思わず声に出てしまった。これ以上の妄想は身体にいや、心に毒だ。









とりあえず両手をシャツでひと拭きしてから、人形を持ち上げることにした。



なぜなら、もし手が汗ばんでたりしてたら、汚してしまうのを恐れたからだ。









両手を人形の両脇に差し込んでそっと…、壊れやしないかと多少ビクつきながら…。










意外に重い。材質は何だろう? 木か?それともプラスチックみたいなものか?







金属のようでないのは持った感触からわかる。


それこそ材質が見当つかないくらい柔らかいのだ。







こういうときに自分が男であるのが情けない。一瞬やらしいことを考えてしまった。



それくらい奇妙な感触だ。








持ち上げると、その人形はだらんと首をもたげる。目は閉じたままで。












(普通、この手の人形って、子供がお人形さん遊びできるように、目をパッチリと
開いたりするもんだと思ったけど…。壊れてんのか?)


(それにしても重いよな。3・4キロぐらいはあるか?)



大きさ的には不思議はない。50センチから60センチはあるだろう。





でも人形ってもっと軽いんじゃないかという偏見が自分にはあるらしく、

それがどうもこの人形に対して奇妙な印象を持たざるを得ない。






ゆっくりと床におろしてみた。間接もゆるいみたいだ。だらんとしている。






(ひょっとしてロボット? でもこの手のロボットってまだ開発されてないよな?)


(ほら、昔あったマンガに確か「ちょびっツ」っていうのがあって…)


(人間の形をしたパソコンが動くって奴だ。案外、こいつもパソコンだったり…)


(するわけないよなー。それこそマンガの話だ。)





ぐったりと言う表現が似合いすぎる人形を目の前にしてあれこれ考えてみた。


でもどう考えてもわからない。そもそも出現が不明だ。


服を脱がせてみるかとも考えたが、ぐったり人形にそれをするのも後味が悪そうだし…。





(うーーーん。どうすりゃいいんだ!? )



(もう一度寝て、夢でしたとかいうオチならいいんだが…。)







意識してなかったが、不意に鞄の方を見ると鍵らしいのが目に入った。







( 鍵? 鞄の? でも鍵なんてかかってなかったし、第一この大きさだと…。)




( まさか?…な?)





人形をひっくり返してみる。











スイッチはさすがになかったが、背中の真ん中に穴があいてる。これか?




左手で人形を抱えて背中の穴に鍵を差し込んだ。  カチャ!








「 そうかこれがスイッチだ! 回せば動くぞ! 目覚めろ○○人形!! 」











叫んだ割にはなんともなかった。キリキリと機械音はしたものの…それだけだ。




鍵はゆっくりと回ってもとの位置に戻る。







正直、ビビッていたために少ししか回していないせいだ。





( もしかしたらゼンマイ? )




すごくハイテクな物を期待していただけに残念だ。






( やはり見かけどおりのアンティーク人形か…。正直、幻滅…。 )


( たぶんこれはゼンマイで、回したら機械っぽい動きで挨拶とかして)


( すぐにゼンマイが切れるんだろうな。)


( まぁ、せっかくだし、巻いてみるか…。 )






今度はしっかりと巻いてみる。いっぱいまで巻かなければ動かないだろうと考えた。





キリキリキリと今度はしっかりした音とともに…。











一瞬、左腕の感覚がなくなったのかと思った。

突然、人形が軽くなったからだ。








「はぁ? はぁ? はぁああああああ?」



( 浮いてる? なんで? )









驚いた。と言うより度肝を抜かれた。








その人形はゆっくりと直立の姿勢で俺の目の前に浮いている。



やがてゆっくりと目を開く。左右で色が違う紅い右目と翠色の左目。




( 赤い狐と緑の狸…。語呂は似てるが…。 )



その瞳が俺を見つめた。






見つめたと言うよりは睨んだというほうが正しい。












そして、なんとしゃべった !!









「おい人間。お前がこの翠星石のネジを巻きやがったですか?」






to be continue




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