私の人生論 (思考が運命になる)

私の人生論 (思考が運命になる)

2016年09月28日
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カテゴリ: 千の朝


 思想界を非常な勢ひで動かした事があつた。

 歴史といふ言葉が、
 世間で急に有難がられ出したのはその時以來の事です。

 物を歴史的に見ない者は馬鹿だといふ事になつたわけで、
 世人の歴史的関心が高まつた
 などとしきりに言はれたものですが、
 歴史に對する建全な興味が、
 決して人々の間に喚起されたわけではなかつた。


 本當の歴史は紛失して了つた、
 と言つた方がよいかも知れぬ。

 人々の歴史的関心が高まつたといふ
 妙な言葉の實際の意味は、
 人々はもう歴史といふ色眼鏡を通さなくては、
 何一つ見る事が出來なくなつて了つたといふ事であつた、
 さう言つた方がいゝかも知れませぬ。

 かういふ逆説めいた光景は、
 いつの時代にもあつた様で、
 気が付く人は、ちやんと気が付いてゐた。

 「其の物につきて、其の物を費し損ふもの、

 身に虱あり、家に鼠あり、國に賊あり、
 小人に財あり、君子に仁義あり、僧に法あり」
 さういふ言葉が徒然草にもある。

「歴史と文學」 小林秀雄 白水社





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最終更新日  2016年10月06日 06時24分59秒
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