今回の作品は「小気味良いテンポ」で「心地よくスイング」という作品ではない。異常なバカっ速さで突撃する"What Is This Thing Called Love"に、まったりしたテンポの"The Man I Love"、挑発するような"A Night in Tunisia"、スタンダードナンバーをあざ笑うかのような"When You Wish Upon A Star"等々。職場のジャズ仲間には不評だったこの作品、心穏やかに鑑賞したい人向けには作られていないのかもしれないが、猫麻呂的には結構気に入っているのだ。ダールの本質はブルースの"Boppish Rubbish Rabbit"や"Mitsuo After Midnight""Commin Home"に特徴的に現れている「ゴリゴリ感」なのだろう。音楽を決して「美しく」「流れるように」は演奏しない。モダン・アートとしての音楽は、常にある種の「違和感」を伴うものだ。21世紀のジャズは、本当は「小難しい」ことをしているのに、「違和感」なく聴けるよう巧妙に隠しているものが多い。しかし、ダールのジャズは、あえて「違和感」をチラ見せすることによって、モダンジャズが一般社会とは隔絶されたマニアのための(むしろジャズマンのための)音楽だったことを思い出させてくれるのである。