ジャズの神様の思し召しのままに

ジャズの神様の思し召しのままに

2008年05月25日
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テーマ: Jazz(2004)
カテゴリ: ★★★★
アイドリース・シュリーマンにリーダー作があったこと自体、実は猫麻呂も最近まで知らなかった。「いつでも・どこでも・誰とでも」のポリシーでセッションからセッションへと渡り歩く「セッション系渡り鳥」のシュリーマンが、自らリーダーとなって、選曲にメンバー選定にギャラの配分まで考えるなんて、とても想像できないのである。シュリーマンといえば、セッションでリーダーから「ハイ、ここの2コーラスで景気良く頼んますネ」と言われて、与えられたスペースでバップフレーズをブチまけるための専門職だったはず。しかも、いつでも全力投球のハイテンションでブリブリ吹きまくるから、良くも悪くも大味で単調な感じとなる。この大味さがツボにはまった時の感じが猫麻呂は大好きだったのだが、ワン・ホーン作品となるとそうは行かない。あのテこのテで聴かせどころを作らなきゃならないし、微妙な陰影やら色気やらも出さなきゃいけない。そうだ、シュリーマンの演奏でこれまで感じなかったのは「色気」なのだ。

さて、そんな「色気」とは対極にあるようなシュリーマンにワン・ホーン作品ができるのだろうか、という点が本作品の聴きどころである。毎度の話となるが、トランペットでワン・ホーンというのはとにかく大変なのだ。ブリブリ吹けばうるさいし、マッタリ吹けば退屈となる。だから、ラッパのワン・ホーンは選曲の良さで勝負するのだ。その点、この作品ではよく考えられている1曲目にアップテンポのブルースを持ってくるが、リハモされて小洒落た感じに仕上げてあるので、オープニングとしては心地よい。2曲目はデューク・ジョーダンの美しいバラードだ。でだしがストレイホーンの"Chelsea Bridge"に似た曲だが、こういった手垢のついていない曲を持ってきたところが巧い。3曲目はレコードのB面の名曲と呼びたくなるようなミディアムテンポの美味しいオリジナル曲だ。4曲目はホレス・パーランの"A Theme for Ahmad"という曲。ラテン・フレーヴァーでとにかく美しい曲だ。これもB面の名曲系だろう。本物のB面の1曲目はアルバムタイトルの"Now's The Time"となる。B面2曲目がシュリーマンの作曲したスタンダード風のバラード。ラストもシュリーマン作曲でミディアム・テンポ。絵に描いたようなB面ラスト曲だ。選曲面で言えば、B面系の渋かっこいい曲で固めたマニア好みの作りとなっている。こんな考え抜いた選曲をシュリーマンがしたとは到底思えないくらいの出来過ぎぶりなのである。

しかい、よく考えると、レコーディングの選曲はプロデューサーが決めたりするわけで、シュリーマンが考えたとは限らない。そもそも、この作品を作りたかったのはシュリーマン自身ではなく、スティープルチェイスのオーナーであるニルス・ウィンターがシュリーマンンでワン・ホーン作品を作ろうと考えたのがことの発端らしい。サイドマンの選定も、たまたま欧州ツアーをしていたジョージ・コールマン・カルテットのリズムセクションをニルス・ウィンターが借り受けたもので、シュリーマンが自ら集めたものではない。そうなると、選曲もニルス・ウィンターによるものと考えたほうが自然かもしれない。やっぱりシュリーマンには選曲やメンバー集めは無理だったのかな・・・。(こうして決め付けてはいけませんね。)

選曲は良いとして、演奏はどうかというと、これが普通すぎて驚いてしまう。シュリーマンにしては随分とおとなしい演奏で、猫麻呂的にはやや期待ハズレではあるが、ダスコ・ゴイコビッチが吹いているのと大差ないのだ。ということは、一般的は良くできているということになるのか・・・。一応、トランペットとフリューゲルの両方を吹き分けているらしいのだが、猫麻呂には全部トランペットに聞こえる。シュリーマンがフリューゲルを吹くような軟弱なジャズはいけない、という過激な思想を持つ猫麻呂としては、ちょっと安心だったりする。

全体を通して評価すると、この作品はかなり出来が良い部類だと思う。シュリーマンの作品と知らずに聴けば、通好みの渋かっこいい作品と言っているだろう。録音も良いしサイドのシダー・ウォルトン、サム・ジョーンズ、ビリー・ヒギンスのサポートも素晴らしい。しかし、何かが足りないような気がするのだ。それは、50年代のシュリーマンの持っていた大胆さや勢いなのだろう。何か、型にはまってしまった感じがするのだ。どっちが良いとか悪いという話ではないが、シュリーマンは50年代の方がシュリーマンらしかったのかもしれない。

猫麻呂ポイント:★★★★(4.0)
Idrees Sulieman / Now Is The Time (SteepleChase)
Now Is The Time





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最終更新日  2008年05月25日 18時15分05秒
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