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両の手でそっと砂を掬い上げても
その嵩はおよそはかなくて
しかもそれすら
指の隙からさらさらとこぼれ落ちる
重畳として堆積する
時間の軋轢のなか
古代シリアの文明もまた
つかの間に揺曳する光
しかしいま
時の流れの
須臾のはざまにいて
かいま見る古代の遺品は
私の感動を呼びおこす
永劫のうちの一瞬にきらめく
マリンブルーの貴石に
金象嵌を施した耳飾り
三千年の昔
王宮の女が
渇仰したものは何だったろう
また ロダンのそれとも見まがう
隆鼻白皙のトルソー
黄金の獅子頭
その眼窩に炯々として光るものは
怒り 悲しみ
それとも祈りなのだろうか
そしてそれらすべての
きらめきを呑み込んで
眼裏をよぎる
流砂 流砂の氾濫
春まだ浅き頃
千里の海を越えて
飛来する黄砂に
大陸の地異を見たのだが
季節はいま水無月
一歩ミューゼアムを出れば
外はこぬか雨
人は酸性雨などというが
近未来の予兆か
白い淋しげな風に乗って
流砂の記憶は蘇える