アオイネイロ

September 3, 2011
XML

カテゴリ: 小説
――遥か昔、夢の中に異性が現れた場合。その相手が自分の事を想っていると考えられていた。


今日、蜻羅はとても疲れていた。
何故だったか、記憶を辿ってもとんと思い出せない。いや、思い当る節も無いが、
兎にも角にも、蜻羅はそれは疲れていた。
だからベッドに横になって、1分もたたないうちに眠りに着き………

リィィン……

辺りに響く鈴の音で目を開けた。
――呼ばれた……
どこかで声が聞える。


「夢の中だな、我の」

呟いた声に返事が来て、蜻羅は慌てて振り返った。
疾風が居た。普段の白いローブ姿では無く、和装でイスに座っていた。
「え、っと……呼び、ましたか?」
「いや」
少ししどろもどろになりながら問いかけると、疾風は小さく首を横に振る。
そして、鋭い双眸でじっと蜻羅を見つめ、やがてゆっくりと立ち上がった。

瞬間、と言ったら良いものか少し迷うくらいに
瞬き一つの間に疾風の姿が蜻羅の視界で揺らめいて、消える。

「なっ……!?」

慌ててきょろきょろと見回すが、暗闇が続くばかりで何も無い。

「此方だ」
声と共に、ぐいっと服を引っ張られた。
視点を下にやると、千歳と同じくらいか、それよりも小さいかくらいの少年が、蜻羅の服を強く引いていた。
「は、疾風?」
少しも動じず、何か知っているかのような彼の様子に、蜻羅はただ困惑して声をかける。


速足だったのが、段々と駆け足に変わってきた頃
蜻羅はふと、自分の視界が変わったような気がして小首を傾げた。
先程まで蜻羅の服の裾を掴んでいたはずの疾風が、蜻羅の手をしっかりと握っている。
今まで真下にあった疾風の頭も、目の前にあった。

疾風の背が伸びたのかと一瞬考え、しかし蜻羅は自分自身が小さくなったのだと気付いた。
しっかりと握っている手が、二人とも小さく柔らかい、幼子のもので
普段なら走っても大した距離では無いのに、既にお互いの息は切れ、額に汗が滲んでいる。
繋いだ手がじっとりと汗ばんで、手を離すべきか少し迷ったが
考えている間に疾風が握った手にぎゅっと力を込めたので、結局離す事もままならなくなって蜻羅は俯いたまま引かれるままに前へと進んだ。

自分の小さな足が、床を踏む度にカラン、コロンと軽快な音を立てる。
鮮やかな模様の描かれた長い袖は、走る早さに合わせて左右に揺れた。

「着いたぞ」
その声に、蜻羅ははっと我に返った。
息を切らしながら振り返った疾風は、幼さを残したその顔に小さな笑みを浮かべた。
そして、しっかりと握っていた手を離すと、二、三歩後ずさって距離を取る。
「あ……っ」
慌てて追った手は、虚しく宙を掻いて

「また、何処かで会えたら……」
淋しそうに笑って、目の前の少年がそう言った瞬間
真っ暗だった暗闇に光が差し込み
「待って、待って下さい! 貴方は……」
言いかけた蜻羅の言葉を遮るように、少年は口を開いた。
しかしそれが音になる事は無く


蜻羅は、閉じていた瞳をゆっくりと開いた。
「ん……」
窓から朝日が差し込んでいる。
「朝。……何か、夢を見ていた様な気が致しましたが」
ぼんやりと呟いて、蜻羅は温もりが残った掌をきゅっと握りしめた。






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  September 3, 2011 09:08:10 PM
コメント(0) | コメントを書く
[小説] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約 に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、 こちら をご確認ください。


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: