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2006/07/23
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私がこんなに音楽にどっぷりなのも

きっと幼い頃からの父の影響が強いと思うのだ

古い古い記憶、

父の部屋、煙草の煙、白熱灯のオレンジ色の暖かさ、

大きな大きなスピーカー

たくさんのレコード

まるで超合金の様な大袈裟なアンプ諸々、

オベイションのアコースティックギター、













絨毯の上には胡坐を掻いた父。



その父の胡坐の中にすっぽり入るのが好きだった。

ジーンズの感触。

スピーカーから聴こえてくる、

様々の国の音楽。

うちは、裕福な方ではなかったから、

部屋はそのひとつしかなくって

私は小さい頃、いつもその父の胡坐の中で過ごした













くるくる回るレコードを触ろうとして、

怒られたこともある。

思い返せば、私はずっとこうやって

音楽に包まれた空間で育ってきた。



何も今に始まった事じゃないんだなぁなんて

ようやく最近、気付いた













音楽と、父に関する逸話は

いくつもあって、

うちにはずっとお金はなかったが



接待で飲みに行ったり、例えば他の女の人に現をぬかしたり

そんなことを全くしなかった替わりに

全てのお小遣いを

音楽につぎ込んではニコニコしていた














お小遣いばかりか

少なかったお給料に、およそ釣り合わないものまで

お金に糸目もつけず買ってきてしまうので

母はそれでかなり、苦労をしたそうだ














当時、初任給が8万円の時代に

オベーションのアコギは20万だったらしいし

でっかいJBLのスピーカーもやっぱり20万だったらしい

これは、もうすごいというより阿呆としか言いようが無い

母が離婚を考えたのも頷ける話だ

そのお陰で、そのどちらも20年経った今でも、現役バリバリで働いてくれているが














で、さらにすごい話があって

貧乏が身に沁みる、寒い寒いある冬の日のこと

父が母に、外から電話をしたらしい。

『ジャケットを欲しいんだけど、買ってもいいかな・・・』












母は、肘に穴が空いた部分を継ぎ接ぎしたような

ボロボロのジャケットをずっと着ていた父を思い、

こう聞いた

『いくらのジャケットなの?』

『7500円』

何度も言うが、初任給8万の時代である

それでも、母は、

『いいよ、何色のジャケットなの?』

『色んな色が入ってるんだ』

『そう』














そんなこんなで、夕方。

帰路に着いた父。

見たところ、どこにも新しいジャケットの入った紙袋を

持っていない。替わりに、レコード屋さんの袋をひとつ。

母は聞いた。

『ジャケットは?』














聞かれた父は、レコード屋さんの袋から

ジョンレノンの貴重盤レコード、を取り出して、ニタリと、こう言ったらしい

『・・・・・・(レコード)ジャケット。』













母は、怒りで血の気が引いて真っ青になっていくのが自分でもわかったという。

憤慨した母が家出をしたのは言うまでも無い。

しかし、私も今の歳になってその話を聞くと、

もう天晴れ、としかいいようがないし

笑い話にしかならない

でも母親が言うには

当時は全く、笑い話にはならなかったらしい。













今でも、父は、ひとり、部屋に篭って毎日、レコードを聴いている。

ただ、当時と違うのは、そこに、

胡坐の中に飛び込んでくる、幼い娘がいないことだ。

私は、それに対して別段何も思っていなかったし、

何しろ殆ど家にいないので、その光景を見る事も少なくなった。

しかし、こないだ、ふと、

父は毎日、ひとりでレコードを聴きながら、何を思うんだろうなぁ、なんて思った

あの頃、甘えただった女の子は、

今は親を心配させるだけの、ただの厄介者になってしまったし

苦労をかけるだけで、親孝行のひとつもできないでいる。

父は、今、寂しいだろうなぁ、と思った。

心が痛む。













と、この日記を書いている時に、

父に珍しくちょっと、レコードの話をふってみたところ、

嬉しそうに色々話してくれて、止まらなくなった。

驚いたのは、今でも、昔のレコードを買い集める事をコツコツ続けていたことだ。

まだ現役かよ!

いつの間にか、家にあった

70年代のビートルズのイギリスのアップル盤がなくなっていて

代わりに、オデオン社の赤盤に変わっていた

『いつの間に買い換えたのよ』

と言ったら、先のボーナスでもらったお小遣いを

全部注ぎ込んでしまった!と子供のような顔で笑っていた

これには私もつられて大笑いしてしまった

勝てねぇなぁ、と思ったし

やっぱり私の収集癖は、ぜったいこの人の血を受け継いでいるのだなぁと自覚。














どうやら、マニアに良くある、価値の高いものを買い集める感覚とは全く違って

とにかく、自分がビートルズに夢中だった当時、

その当時に聴いていた音、がどうしても欲しくって、そうなったらしい

『お父さんがこうやって古いレコードを買い集めるのは

 すべて、古い思い出を集めているようなものだ』

と言っていた。もう何も言えない。














もうひとつ爆笑したのが、

ジャズの中古の世界は、もっともっとディープで、

専門店に行くと、初盤レコードが

神々しく、飾られており、それには目が飛び出るような値段がついていて、

それに対して思うことは

『ハハ~!!!(と、手を合わせ拝みながら)ちゅう感じ!!!笑』

だそうで、その笑顔が余りに子供の顔だったので、笑ってしまった。

しかし、そのようなディープなジャズの世界に入ると、

破産するんで、そこは避けているらしい

『ビートルズならどうやっても13枚しかないから』

だそうだ。













と、身内の話を書いていても

読んで下さっている方は面白くも何とも無いと思うのですが

許してちょんまげ。

あ。ちなみに、私のプレミア音源収集癖は、高校生で終わりました。

CDなんてどう転んでもCDだもんねぇ

レコードと違って。

よく、娘は父親に似ている男性に魅かれやすい、と言いますが

これはなかなか当たっているかも知れない

もしも、私がいつか結婚をし、

当時の母親のような立場になったとしても、

笑って許せるような気がする

例え、貧乏暮らしでも。













だから、女の子を放ったらしていても

本を読む事に没頭している男の人とか

夢中でひたすら音楽について熱く語っている男の人だとか

例えそれが漫画だったとしても

アニメだったとしても

落語だったとしても

映画たったとしても

野球だったとしても

自分の世界に入っちゃって呼んでもなかなか出てこないとか、

そんなんでも全然平気だったりするのです













その、夢中な話を聞いている時が

とても幸せだったりするのよね

女の子に優しい男の子、確かに魅力的かもだけれど

私はそんなん、別にあんまりいらないなぁ

別に私に構ってくれなくってもいいんだよね

不器用、大いに結構なのです。
















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Last updated  2006/07/23 09:08:09 PM
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