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Chapter 3- 4
翌日、透は珍しくるり子をドライブに誘った。
「今度の日曜、確か二人とも休みだったろ?」
「ドライブ?あの車で?」
「ああ、海かどこか...。」
「...それなら、あの海に行ってみたいわ。」
「赤井の別荘がある...?」
「そう、もう三年にもなるのね。なんだか懐かしくて...。」
「分かった。」
次の休日、朝から二人は修二の車で思い出の場所に向かった。
青空に、刷毛ではいたかのような筋状の雲がうっすらと浮かぶ、穏やかな日和だった。
海岸線に沿って、西へ西へと進むと、昼前には目的地に到着した。
「あのレストラン、あるかしら。」
「あのケーキ屋は?」
二人は思い出の記憶を手繰るように、自分達を急速に結びつけた二週間の、軌跡を辿った。
「そうだ、ビューティー・トラップはまだ居るかしら。」
「行ってみよう。」
乗馬クラブに行くと、ビューティー・トラップは以前と変わりなく、繋がれていた。
「るり子、いたよ、
ビューティー・トラップ、いたよ!」
透は先に立つと馬の方へ駆け寄った。
「オレだよ、憶えているか?」
そう言いながら、透は馬の額を撫で擦った。
「ビューティー・トラップ、憶えてる?私よ!」
続けて駆け寄るるり子を馬は懐かしそうに迎えた。
透は厩務員に頼んで、鞍をつけてもらうと、馬場を何周か、駆けさせて貰った。
久しぶりの乗馬で、ややぎこちない透のことを嫌がりもせず、相変わらず、ビューティー・トラップはよく駆けた。
夕暮れが徐々に迫りつつある頃、透は、ビューティー・トラップの汗を冷ましてやるかのように、海に連れて行き、砂浜を歩かせた。
季節外れの誰も居ない浜辺で、ビューティー・トラップを傍らに、透は一人で、水平線を眺めた。
薄く広がる雲が僅かに茜色に染められていく。
刻々と変わり行く景色を、透は遠い目をして見つめながら、独り言ちた。
―「さよならをしよう。」
帰り際、助手席に乗り込むと、るり子は、つい今しがた近くの雑貨屋で買ってきた、ガラス玉のついたストラップのようなものを取り出してきた。
「かわいいでしょ?ガラスの中にふくろうのような形をしたトンボ玉が入っているの。」
るり子はルームミラーに取り付けると、無邪気な表情を透に向け、にっこり笑った。
「あなたの幸運のお守りになりますように。」
「ありがとう。」
ガラス玉から視線を落として、自分の方に向けられた透の笑顔が、るり子には少しいつもと違って見えた。
「邪魔だったかしら?」
「いや、そんなことないさ。
さあ、帰ろう。」
透はキーを回すとエンジンをかけた。
* * * * * * * * * * * * * *
いつも変わらない日常が始まるかのように思えた。
けれど、あの日以来、透の様子は目に見えて変わっていった。
「あなた、私のカード使って、30万引き出したの?」
「ああ、ちょっと使わせてもらった。今度給料が入ったら返すから。」
無断でるり子の預金が引き出されることが何度か続いた。
「一体何に使ったの?」
「何だっていいだろ!」
もちろん返されたことはなく、問い詰めると逆に切れられた。
帰る時間が深夜になることもあれば、前後不覚になるほど酔っ払って帰ってくることもある。
るり子が一言何か言えば一々食って掛かるほど、ギスギスした態度をとるようになった。
「一体...、何があったの?」
るり子は透の肩に手を置くと、優しく問いかけた。
「うるさいな!保護者ぶるなよ!」
振り向きざまに強く手を払われ、るり子はバランスを崩して、床に倒れた。
「そんなにオレがバカに見えるか?頼りなく見えるのか?
オレのことを信用できないっていうのか?!」
憤怒の表情で透はるり子を見下ろすと、その襟元をつかんで、床に突き伏せた。
倒ったるり子を引き回すと、雑言を浴びせる。
まるで別人かと思われるような透の豹変ぶりに、るり子は戸惑うばかりだった。
「どうしたというの、透...。一体何があったの...?」
続く