私なりにプレゼンに更なる工夫をして、一人でも客を見つけようと思い、勇んで家を出た。
会社に着くと、すぐに社長から呼ばれた。
私は、今日の決意を語ろうと勢い込んで、社長室に入った。
社長は、私を見ると「どうだ、何か良いアイデアは浮かんだか?」と訊いた。
私は、考えてきたプレゼンのことを伝えた。すると社長は「分かった。それなら、客を取れるというんだな。今日こそは一人でも取って来いよ。俺もお前のことでは随分我慢してきたつもりだ。しかし、それももう限界だよ。だから、今日客を一人でも取って来れなければ、残念だがお前はクビだ。その覚悟で、今日一日営業して来いよ。」と私に言った。
私は、ガツンと頭を殴られたようなショックを受けたが、思わず「分かりました。今日一日その覚悟で、頑張ります。」と言った。
社長は、私の言葉を聞くと、「じゃぁ、下がっていいよ。」と言うと、私を見ないですぐにどこかへ電話を掛け始めた。仕方なく、私は一礼して社長室を出た。
一日中、私の頭の中を「お前はクビだ。」という言葉が追いかけてきた。
営業していても、その言葉がつい頭をよぎった。そして、結果はその言葉通りになった。
客を一人も取れないまま、帰社した。私が帰ってきたことを誰かが伝えたのか、すぐに社長に呼ばれた。私は、もうどうにでもなれといった気持ちだった。私は、社長室のドアを開けた。
社長が「どうだった?」と私に訊いた。私は、小さな声で「だめでした。」とうつむきながら報告した。
社長は私の報告を聞くと「残念だが、今朝言ったとおりお前はクビだな。」と言った。
私は、かすかな期待をしていたが、それも甘かったようだ。少し食い下がろうかと思ったが、もうどうでもよいという思いが強くなり、「分かりました。長い間お世話になりました。」と言い頭を下げて社長室を出た。
社長室を出て、私の机に座ると、すぐに総務の担当者が来た。退職手続きのことをしゃべっていた。そんなことはどうでもよかった。
私がクビになるということは、この会社にとって既定の路線だったようだ。
総勢20名ほどの会社だったが、10年ほど勤めてきた。5年前には営業でトップだったこともあった。あの時は、社長も大喜びで、私の将来を保証するようなことを言っていた。あの時の社長の笑顔が浮かんだ。あれは何だったのだろう。
とにかく、私はクビになったのだ。私の体中を徒労感が埋め尽くした。私は、何もする気にならず、布団をかぶって寝た。
続く
カレンダー
コメント新着