私は、玉手箱を開けるべきかどうかで迷った。
そして考えた。
今の私にとって、最悪とは何か?
それは、死だ。
まだ、この世を楽しみたいと思っている私にとって、一番好ましくない状態とは死である。
だが、私は、ここにある玉手箱を開けることによって死ぬことはなさそうに思った。
私が会った浦島太郎は、善い人のようだったし、そもそもあの体験そのものが尋常ではなかった。
私が体験したことを周りの人に話しても、決して信じてもらえないだろう。
あの体験をした私にとって、玉手箱を開けないという選択肢はなさそうに思う。
では、玉手箱を開けるとして、考えられることは何か?
浦島太郎さんは、ふたを開けたとき、もう煙は出ないと言っていたが、その場に立ち会っていなかったので、煙は全て出たのか多少の不安は残る。
とりあえず、身の回りにある帽子や、花粉症対策のめがね、タオルで口を覆うなどの対策を講じることにした。
勿論、長袖のシャツに、冬物のブルゾンもタンスから引っ張り出して着た。
これ以上は、時間の無駄だと感じた。
いよいよ、玉手箱を開けるときが来た。
胸の鼓動が激しくなり、バクバクと鼓動が、自分の耳にはっきりと聞こえた。
皮手袋で武装した手で、玉手箱の取っ手を持ち、恐る恐る留め金を外した。
あっけなく留め金は外れた。
さて、いよいよ蓋だ。
「開けるぞ!」と、気合を入れて、ゆっくりと蓋に手を掛け、開けた。
「さぁー蓋が外れるぞ」と思った瞬間、思わず目をつぶってしまった。
そして、恐る恐る目を開けた。
そこには、アクアマリンのような水色をした真珠のような宝石が、玉手箱の中を覆っていたアコヤ貝の真ん中に、ポツンと一粒収まっていた。
浦島太郎さんが言ったとおりだった。
私は、中身を確認すると、すぐに鏡を見に走った。
帽子などの防具を急いで取り、自分の姿を確認した。
大丈夫だった。
私の髪は、白くなってはいなかったし、身体にも何の変化も無かった。
私は、更に鏡に顔を近づけ、変化が無いことを再確認した。
一安心した私は、玉手箱の前に戻った。
ふーっと、一息深く息を吸い、おもむろにその真珠のような宝石に手を伸ばした。
続く
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