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2013.03.09
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カテゴリ: 読書案内
【天童荒太/永遠の仔】
20130309

◆虐待から逃れるためには、親を殺すか己が死ぬか

最近は目が疲れやすくなって小さい字を追うのが面倒になりつつある。だからよっぽど惹きつけられる小説でなければ、長編を読了するのは本当にしんどい。
高村薫の『レディ・ジョーカー』は、上下巻2冊の長編だったが、一気呵成に読了した。それだけ著者の技巧が優れているということだろう。読者を飽きさせない見事な筆致。
今回は『永遠の仔』、天童荒太の書き下ろしだ。
天童荒太の代表作といえば『家族狩り』で、山本周五郎賞を受賞している。読後は何とも言えない重苦しさに喘いだような記憶がある。
それがどうだ、『永遠の仔』の方がさらに輪をかけた如く息苦しさに見舞われた。なんなんだ、この閉塞感は?!
限りなく結末の見えないラストに苛立つし、絶望的なまでの孤独感に襲われる。あらゆる意味でドラマチックで、読後は放心状態になってしまう。いや本当に。
まず念頭に置きたいのが、幼い子どもらに向けられる虐待がいかなるものか、その辺をきちんと整理しながら読み進めないと、単なる小説の中の絵空事で終わってしまう。
現実に性的虐待などで心身ともに病んでしまった子どもたちを収容する施設と、養護学校が存在することを踏まえた上で、主人公ら3人の壮絶な成長を追っていくのが望ましい。

話はこうだ。

優希もその一人で、ある事情から外界を遮断するスイッチを持つようになった。
そんな新入りの優希に興味を持ったのは、ジラフ(キリンの意)とモウル(モグラの意)と呼ばれる二人の少年たちだった。
ジラフは母親からタバコを体じゅうに押し付けられたせいで、丸い火傷の痕がキリンの模様のように付いていた。それは大切な性器や尻に至るまで、まるで悪ふざけのように火傷痕が残っていた。
モウルは、母親が知らない男を連れて帰る度に暗い押入れの中に閉じ込められ、男が帰るまでトイレにも行けず、自分の性器をちぎれるほど握りしめて堪えなくてはならない状況下にあった。そのせいで、灯りのない場所に極度の恐怖と不安を覚えるようになり、おまけに男性としての機能が全く働かない身体となってしまったのだ。
そして優希は、なんと、実の父親から性的虐待を受けていたのだった。

物語は、17年後の現在、優希が看護士、ジラフが刑事、モウルが弁護士となった今と、17年前の小児精神科の治療を受けていたころと、交互に進んでいく。
3人の辛く哀しい過去が現在まで尾を引き、様々な形で事件につながっていく。
どうしようもない過去から目を背けて生きて来たところ、3人が再会することで、否が応でも打ち消すことの出来ない記憶を辿らなくてはならない。
背負うものが余りにも重過ぎて、苦しさから逃れられない。
このどうしようもない絶望的な嘆きの前に、神も仏もなく、ただ傷口を舐め合う仔犬のようにうずくまるのだ。
ラストは、読者各々が感覚として捉えた輪郭をなぞるものだと思う。それは形がなく、曖昧で、無性に孤独を促す結末かもしれないが、寝る間も惜しむほどに引き摺りこまれる作品だった。



20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.50)は藤沢周平の『蝉しぐれ』を予定しています。


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最終更新日  2013.03.09 06:27:56
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