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2013.06.05
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カテゴリ: 読書案内
【志賀直哉/和解】
20130605

◆著者自身の親子の不和と子の出生を題材とする

まずお断りしておくことがある。このブログは2人の筆者がいて、各々が好きなことを感じたままに書いている。
1人は画像やレイアウトなどを考え、興味深い時事ネタの抜粋などを紹介している。ある時はそこにちょっとした感想も添えたりする。また、俳句や詩歌なども季節に合わせて掲載している。そこに筆者の様々な思惑が潜んでいることもあるかもしれない。(本人に確認したわけではないが・・・)
もう1人(私)は、専ら映画と読書の感想だ。
そんなわけで、ある記事には「私の両親はすでに亡くなっていて・・・」と書いてあるそばから他方で、「我が老父は・・・」と近況を綴っているのは至極当然のことで、これは記事を書いている筆者が違うという事情があったのだ。
この場をお借りして、矛盾点を明らかにさせて頂きます。今後とも吟遊映人の記事を、変わらずご覧頂ければ幸いです。

さて、志賀直哉。
この作家の小説は一生に一度は読む機会に恵まれるのではなかろうか? 最近はどうか知らないが、私の世代は高校の現代文で『城の崎にて』を勉強した。
『城の崎にて』は随筆ながら、普遍的な哲学を思わせるし、透明感のある清々しさを感じさせるものだった。
『和解』は、志賀直哉自身の身の上を題材に取ったもので、父との不和からやがて和解にたどり着くまでのプロセスを綴ったものだ。

だがそれは小説の神様、ドラマチックな父子の和解が成立するのだから、それはもう感動的だ。しかも、そんな個人的な親子間の問題を一つのテーマとして掲げ、決して自己の正当化を図ったものではない作風は、お見事としか言いようがない。

話はこうだ。
順吉は、父とのギクシャクした関係を、もう何年も続けていた。実家に用事がある時などは、なるべく父の不在を見計らって訪ねるようにしていた。
そんな中、順吉の妻に子ができた。父にとっては初孫である。
経済力の乏しい順吉は、結局、お産の費用を父に全額頼ってしまう。
順吉にとっても可愛い娘になるはずの赤子は、ある晩、体調を崩す。順吉は血相を変えて赤子を抱き、裸足で町医者の所まで走る。
我孫子のような田舎の医師では限界があると思った順吉は、さらに東京の医者にも電報を打つ。
だがそんな手厚い処置も虚しく、赤子はかえらぬ人となってしまう。
順吉は泣いた。皆が我が子を、自分と父との関係に利用したが為に、死んでしまったのだと思い込んだ。
そして全ては、実家との不徹底がこの不幸を呼び込んでしまったのだと。
それから暫くして順吉の苦悩が癒えぬ間に、再び妻が懐妊した。夫婦は素直に喜んだ。



このように『和解』は、主人公・順吉とその妻の間に生まれる子どもの存在も大きなキーワードとなる。
実家の手を借りず、経済的な援助もなく乗り切ることができたなら、この話の結末は違っていたかもしれない。
だが実際には、父に頼り、その支えあってこそ順吉夫婦とその子の幸が保障されるものであることを、否が応でも認めざるを得ないのだ。
また、さんざん反抗した父という存在を前に、子の出生によって今度は自分が父という立場になるという因果。
順吉は初めて、親と子の絆を見たような気がしたのかもしれない。

類稀なる人間描写に思わず脱帽。
ぐいぐいと惹き込まれ、やがて自分も当事者に同化してしまうような錯覚すら覚える。

この神業とも思える見事な作風にどっぷりと浸かり、文学の香りを味わって欲しい。

『和解』志賀直哉・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.75)は島崎藤村の『新生』を予定しています。


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最終更新日  2013.06.05 06:23:05
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