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サンマルコ広場では船のグループの多くの人が歩いている。その中に裕子と聡美もいる。中心にいるガイドが話している。
「ここは世界で一番美しいと言われているサン・マルコ広場です。大理石作りのサロンと言われています。この広場で特に目を引くのが金色のモザイクに輝くサン・マルコ寺院ですね。ここはかつてのベネチア共和国の寺で金箔を豊富に使ってあるので金色の教会ともいわれています」
女性たちのうなり声。
その後裕子と聡美はゴンドラに乗った。聡美は川を見ながら
「水は思ったより汚れているわね」
そう言って裕子を見るとぼーっとしている。聡美は裕子の肩を叩いて
「裕子さん、夕べ眠れなかったの?」
「あー、そうかも」
心配げの聡美だったがゴンドラの船頭が『オーソレミオ』の歌を歌い出した。今度はうっとり聞き始める裕子だった。
その後船に戻った裕子と聡美だが別れて裕子は一人で船の喫茶店でコーヒーを飲んでいる。たまたま近くを通ったタムタムが裕子に気づいて近付いてくる。
「今日はお一人ですか?」
「イタリアをすごく楽しみにしてたんですけど、何だか疲れちゃって。聡美さんに悪かったけど今日はパスしちゃって」
「チャオ」
「えっ?」
「イタリアの挨拶ですよ。元気出して明日は出かけて挨拶して下さい」
「チャオ!! 疲れが取れそう」
「ただし 初対面の人にチャオは失礼。初めての人にはピアッチェーレといいながら挨拶しましょ」
「はぁ」
「ホテルのフロントやブテイック レストランに入るときには『ボン・ジョルノ』こんにちわ 何か尋ねるときはミスクージすいません」
そう言いながら離れようとしていたタムタムだが戻ってきて
「そうそうとにかく大事なのはグラッツェありがとう」
それを言って離れるタムタム。小さな裕子のため息。(すごくいい人 だけどちょっと疲れる)と思っているとまたくるっと振り向いて戻って来たタムタム。
裕子は(えっ! 聞こえちゃったかな? まさか)。
タムタムは
「ちょうど半分 船の生活も一ヶ月と半分過ぎたから少々疲れたんでしょう。お顔が赤い。熱があるかも。お医者さんに見てもらったらどうですか?」
「あっ。もう半分過ぎちゃったんだ」
「おひとりでは心配ですよ ご一緒しますよ」
「あー 大丈夫です 一人で行けますから」 小走りで去って行く裕子。
裕子は一人になって廊下を歩いていると意外にすぐ診察室がわかった。だが診察室から遠ざかって鏡の前に立った。自分の全身を眺めて
「よしっ」
近くを通った人がくすくす笑う。舌をぺろっと出す裕子。そして診察室に近づいて裕子がドアを叩こうとするとドアが開く。
「先生」
中から顔を出したのはイケメンな若い男性。「先生?」
「いえいえ。看護士です。先生は今」
「お留守ですか?」
「今、先生は気になる方がいらして」
「気になる方?」
「それよりどうなさいましたか?」
「一ヶ月と半分たってちょっと疲れたみたいで」
「ああ わかります。ビタミンが足りないかもしれませんよ。お名前 後で先生に申し上げておきますから」
といいながら、診察室に戻っていく。中から看護士の声が聞こえる。
「どうぞ」
廊下を小走りで逃げていく裕子。看護士は
首を傾げながら廊下に顔を出すが誰もいなかった。
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