・『戦略的思考とは何か』は、外交官・評論家として知られた岡崎久彦が、国家間の外交や安全保障を題材に、「戦略とは何か」「国益をどう考えるべきか」を論じた作品だ。ビジネス書的な「勝つためのテクニック」を説く本ではなく、 複雑な現実の中で、何を目的とし、何を捨て、どの時間軸で判断するか を考えるための本として読むと、その核心が見えてくる。
・『戦略的思考とは何か』の中心にあるのは、「戦略」という言葉を安易に使わないことだ。戦略というと、
- 目標を立てる
- 計画を作る
- PDCAを回す
- 勝つための方法を考える
といった現代的なビジネス用語を思い浮かべやすい。しかし岡崎久彦が論じる戦略は、もっと重い。それは、 「限られた国力と資源を、何のために、どこへ投入するのか」 という問題だ。外交や安全保障では、すべてを同時に守ることはできない。敵もいる。味方もいる。地理的制約もある。歴史的な経緯もある。そして、相手もこちらの意思を読んで動いてくる。その中で国家が生き残るには、「何をするか」だけでなく、 「何をしないか」 を決めなければならない。ここに岡崎のいう戦略的思考の核心がある。
・ 本書を読むうえで最も重要なのが、この区別だ。戦術とは、 「目の前の問題をどう処理するか」 に近い。戦略とは、 「そもそも、何を達成すべきなのか」 を決めることだ。戦術は細かくなればなるほど専門的になる。しかし、戦略はむしろ抽象度が上がる。だから管理職になるほど、 「自分で仕事をする能力」より「何をするべきかを決める能力」 が重要になる。
・戦略の本質は、実は「選ぶこと」より「捨てること」にある。資源には限界がある。人材も資金も時間も無限ではない。だから、「すべてやります」という計画は、一見すると意欲的でも、戦略的には弱い。何を優先するのか。何を諦めるのか。どのリスクを受け入れるのか。そこまで決めて初めて戦略になる。だから、 「何をやらないか」を決めることが管理職の仕事になる。
・『戦略的思考とは何か』は、現在のビジネス書にありがちな、「戦略を立てれば成功する」という楽観的な本ではない。むしろ逆だ。世界は複雑で、相手も動き、未来は予測できない。だからこそ、
何を目的とするのか。
何を守るのか。
誰と組むのか。
何を捨てるのか。
どの時間軸で考えるのか。
を決めなければならない。
岡崎の議論には、外交・安全保障をめぐる時代的な制約や、現在から見れば異なる前提もある。それでも、「戦略とは何か」を考えるための素材として読む価値は高い。戦略とは、未来を言い当てる占いではない。不確実な未来に対して、限られた資源をどこへ賭けるかを決める、覚悟の技術だ。そして、その覚悟を支えるのが歴史を見る目であり、相手を見る目であり、自分自身の限界を見る目なのだ。岡崎久彦の『戦略的思考とは何か』が現在でも読める理由は、ここにある。 戦略とは、勝つ方法を考えることではない。「何を勝利と呼ぶのか」を決めることなのだ。
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