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2026.08.27
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カテゴリ: Novel
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・『女の国会』は、単なる「女性政治家の苦悩」を描いた小説ではない。政治の世界に入り込んだ女性たちが、性別、家柄、容姿、選挙、派閥、メディア、そして「女同士」という見えない構図によってどう縛られるのかを、ミステリーの推進力に変えた作品だ。2024年4月に幻冬舎から刊行され、2025年に第38回山本周五郎賞を受賞している。

・『女の国会』の舞台は、現代の永田町。主人公の一人は、野党第一党の国会議員・ 高月馨 。歯に衣着せぬ物言いから「憤慨おばさん」と呼ばれる、政治家としてはかなり異色の存在だ。もう一人の重要人物が、与党議員の 朝沼侑子 。「お嬢」と呼ばれる彼女は、政界の名門に生まれた二世議員で、若く美しく、メディアからも注目される存在だ。一見すると、この二人は正反対に見える。高月は、政治の世界で泥をかぶりながら這い上がってきたタイプ。朝沼は、恵まれた環境を背負って政界に入ったタイプ。しかも二人は敵対する政党に所属している。ところが、ある法案をめぐっては、奇妙な共闘関係にあった。そんな朝沼が、遺書を残して自殺する。しかも、死の前日に高月は朝沼を厳しく叱責していた。「自分の派閥のトップも説得できていなかったの? 法案を通すつもり、本当にあったの?」この言葉が朝沼を追い詰めたのではないか。そう世間から責められ、高月は謝罪と国対副委員長の辞任を迫られる。しかし、高月にはどうしても納得できない。 朝沼は、本当に自殺したのか。 ここから物語は、政治小説から政治ミステリーへと大きく動き出す。

・朝沼の死を調べ始める高月は、朝沼の婚約者である 三好顕太郎 に接触する。三好は政界のプリンスと呼ばれる人物。朝沼と三好の関係を含め、事件の背景には政治家、秘書、派閥、メディアなど、複数の利害関係が絡んでいる。ここで本作は、「誰が朝沼を殺したのか」だけを問うわけではない。むしろ、 「朝沼を死に追い込んだものは何だったのか」 という問いへ広がっていく。一人の悪人が存在して、その人物を倒せばすべて解決する。そんな単純な世界ではない。人を追い詰めるのは、しばしば一人の加害者ではなく、無数の小さな圧力だからだ。

・高月と朝沼の関係が象徴するのは、女性同士の連帯の難しさでもある。本当に必要な連帯とは、「女性だから助け合う」ことではない。むしろ、 「あなたの意見には反対する。でも、あなたが不当に扱われることには反対する」 という関係だ。これは成熟した組織に必要な考え方でもある。同じチームだから全員が同じ意見になる必要はない。むしろ意見が違うからこそ、組織は強くなる。重要なのは、意見の対立と人格への攻撃を分離することだ。高月と朝沼の物語は、その難しさを浮き彫りにする。

『女の国会』を、「女性が政治の世界で苦労する話」だけで終わらせると、作品の射程を狭めてしまう。本質的には、 権力を持つためには、何を犠牲にしなければならないのか という物語だ。女性だから苦労する。もちろん、それは重要なテーマだ。しかし、そのさらに奥には、権力を得ようとすると、人間は組織のルールに従わなければならなくなるという普遍的な問題がある。

・『女の国会』は、女性政治家を主人公にした社会派ミステリーでありながら、その核心はもっと普遍的なところにある。 人間は、組織の中でどこまで自分自身でいられるのか。 これが本作の中心的な問いだ。高月馨と朝沼侑子は、まったく違うタイプの女性に見える。しかし二人とも、政治という巨大な組織の中で「女」という属性から自由にはなれない。そして、その属性を利用しなければ権力を得られない一方で、利用した瞬間に別の偏見にさらされる。この矛盾こそが、作品の苦さだ。だから本作は、「女性ももっと政治家になろう」というだけの小説ではない。むしろ、 「人間を属性ではなく個人として評価できる組織とは、どんな組織なのか」 という問いを突きつけてくる。そして、ときには家庭の中にもある。 人が権力と評価をめぐって生きる場所なら、そこはすべて小さな「国会」なのだ。




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Last updated  2026.08.27 00:00:09
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