2005年01月03日
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カテゴリ: 小説&ポエム
太郎はいつもの調子でたくみに言葉を操り、
ニュースキャスターと同等レベルの発音・会話スピードで
彼女と話していた。
太郎の彼女は、やや小柄で栗色のつやつやした
光沢のある髪をしており、顔立ちも美しく、
胸元も痩せている体型にしてはふくよかで、
足もスラリとまっすぐで美しかった。。

(あんな子いたのか。。なんで俺にはできずに
 ロボの太郎なんかに人間の彼女ができるんだよ!

 ないくせよ!)

「太郎の彼女本当にうつくしいなぁ!
 お前うばっちゃえば?な~んてね!!!」

クラスのおちゃらけた奴がうらやましそうに
嫉妬で顔がこわばっている俺に突然話しかけてきた。

「そぉか?あんなぐらいどーってことねーよ!
 俺が今まで遊んできた女の中じゃたいしたことねーな。」

「さっすが経験者数が違うなw!」

「まぁな。そろそろ最後の授業始まるぞ!
 明日から夏休みだ~!!!」

偽りを言い続けて3年。やっと高校最後の夏休みがくる。。

好きになれないんだよなぁ。
自分でいうのもなんだが、ものすごく純粋なんだ。
好きで、本当に大好きで、自分さえも捨ててもいいと
いうぐらい愛している人以外とは付き合えない。
もちろん3年間経験者が一番多い!っという

はもとより経験者ゼロ・もちろん付き合った人も
ゼロというのが現実だ。

国語の授業が始まる。
「今日は2004年に人気のあった恋愛小説の
 『世界の中心で愛を叫ぶ』を朗読してもらう。
 お前らいいな!わかったな!」

国語だけは人間教師が担当しており、
最後の授業にとってはふさわしい。
皆それぞれの机の液晶チャンネルを押し、
デジタル文字が目の前にうかびあがってくる。

「2000年前半はまだ印刷での書籍だから
 読みにくいかもしれないが、
 文字のデジタル加工を各自指定して
 よみやすくかえろよ!」

「めんどくせぇなぁ~!こんなのよみたくねーよ」

「おい!大野!つべこべ言わず読んどけ!!」

隣のクラスまできこえるんじゃないかってぐらいの声で
注意がきた。

「わーったよ!」

ふてぶてしく無気力を装うのが俺の流儀。
でもこの作品<愛を叫ぶ>ってことは恋愛系だな。
勉強しておくか。
ロボクラスでのクラス順位2位という人間では
不可能に近い成績を維持している哲の学習意欲と
恋愛への関心ときたら飢えた狼なのだ。

「おーい、哲!また夏休みにでも哲の彼女もつれて
 4人でどこか遊びいこーね!またねー!」

と太郎がかばんを右、彼女を左にもちながら
とても聞き取りやすいアクセントで話てきたので
はっ!と気がついた。
誰よりも真剣に、チャイムのなる音さえ聞こえないほど
熱心に読んでいた。
自分が恋愛の本に興味があると思われてしまったかも
しれないと思うと心拍数が少しあがるのを感じた。

「よぉ!もー彼女つれてかえるのかよ?
 今から家にでも連れ込むのか?
 まっ俺も今日は女と遊ぶけどな。もちろん家で。」

「大野さん、彼女いらっしゃるならご一緒に夏すぐにでも
 遊びにいきましょ?」

「あーいつでもいいけど女が年上だからなぁ~きいとくよ。
 ところで名前はなんていうの?」
とぶっきらぼうにいった。

「あっ申し遅れました、
 わたくし、鈴野 純っていいます。」

「純ちゃんってよぶから。それではお二人、熱い夜を。」

二人になったとき気まずくなるようにしむけたはずが・・・

「はい!そーしますね。それではまた休みに。」

と言って自己紹介メモリーチップを机に置き
そそくさと二人は立ち去っていった。
何が「はい!」だよ!淫乱なやつなのか?
俺はそーいう奴お断りだ!って誰もさそってきてないか。
と苦笑いになりつつも夏っていっても困るよなぁ・・・
という思いでせっかくの楽しい夏休みという文字が
いっきに崩れるのを感じた。
今の国家では大学まで義務教育となっており、受験勉強は
大学になってからすればいいので誰もが大学生になる前に
高校最後の夏を楽しむことで頭がいっぱいなのである。
自分より劣る太郎に先を越されたのがテストで
失敗するよりむかついていた。
実際おかしな話だ!人間に作られたロボが
人間と付き合う。。。
確かに彼らは生殖機能から発汗機能まで
すべて人間と同じだからありえるか・・・
と今更ながら確認をしている自分を馬鹿だぁと
蝉の悲しい声を聞きながら苦笑した。

「この本を読んでからかえるか」

誰もいない純白の教室が夕日で赤く染まっていく
雰囲気を窓際から感じながら読書するのもいいなと
哲は思った。
最後の悲しいシーンを読み終えた頃にはすでに
夜10時を回っていた。

「そろそろ戸締りの時間です。」

無表情のロボの警備が警告してきたころには純にもらった
チップもしまい、ドアをあけようとしているところだった。

「かえるって!うるせーな!ロボのくせによ!」

「・・・・」

今日の出来事に苛立っていたとは言え、
タブーの言葉を直接言ってしまったことに、
少しだけ反省しつつ、家までの道を汗だくで
走ってかえった。





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最終更新日  2005年01月03日 01時00分22秒
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