極上生徒街- declinare-

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矩継 琴葉

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2006.12.01
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カテゴリ: 小説

あれから、アフ男は大事をとって帰ったのか、授業に姿を見せず、あっという間に放課後になった。心配になり、様子を見に行こうと教室を出たところで、一緒に保健室にアフ男を運んだ男子が近寄ってきた。

「やあ、転校生君。」

「えっと・・・・?」


男子の名前が分らず戸惑っていると、忘れてたという顔をして名前を言った。

「ごめんごめん。俺は、川村優(かわむら すぐる)。優って呼んでくれ。ところでなんだが・・・あいつには関わらないほうがいいぞ?」

あいつとは、誰を指しているか分らず聞き返した。

「あいつって?」


「公男だよ!アフロ頭のあいつ」


アフ男は、公男というのか。男が一致していて、微妙に面白いと思った。
優に言われなくても、アフ男がやばそうなのはなんとなく分る。
高校生で、アフロを極める人間に普通な奴はいないだろう。
だが、そう教えてくれるにはもっと深い理由があるはずだ。その理由を、聞こうと思ったその時だった。
階段の下から、激しい足音と沢山の女子生徒の悲鳴が聞えた。と、同時に嫌な悪寒がした。
その元凶は、キモ・・・公男ことアフ男だった。

「さぁ、一緒に来てくれ」

僕が了解の返事をする間もなく、腕を掴むと強引に引っ張っていかれた。
哀れみの目で見る、優の表情がなんだか痛かった。というか、トドメの如く手を合わせられた。
アフ男から逃げようと必死に抵抗してみたが、予想外に馬鹿力でまったく手を放すことができない。いつの間にか、階段を降り切っていた。

「ど、どこに連れてくんだよ!放せよ!」

聞えているはずなのだが、一切シカトされている。
僕の無駄な抵抗中も、僕は確実にどこかへと引っ張られ、階段を下りるときも廊下を進む時も他の生徒に変な目で見られ最悪な気分だった。逃げ切れない以上、こうなったら、行くしかないと腹を括った。すると、向かっているのは第2校舎だということが分った。連絡路に連れて行かれ、第2校舎へと引きずり込まれた。
第2校舎は、1年生の教室と実習室のほかに、部室などがあるそうだ。保健の先生の言葉から予想するならば、『情報部』というクラブの部室に連れて行く気だろう・・・。


「って、僕は部活はやらないよ!」


ただ、僕の虚しい叫びが校舎にこだまし、中庭に響き渡った。
かすかにだが、「可哀想」「キモイ」などといった切なくなる言葉が聞えた。

▼ 

連れて行かれたのは、第2校舎の3階の一室だった。部屋の外には、確かに『情報部』と描かれた札がかかっていた。だが、暗幕が内側にしてあり、外からでは中の様子を窺うことはできない。しかも、ダイアル式の鍵までついている。果して、1クラブにここまで厳重な警備が必要なのだろうか。部室の前に、着いたというのにアフ男は、一向に手を放さない。逃げると思っているのだろうか。そろそろ、放して貰えないと気持ち悪いほど手から汗を出しているアフ男の『アフ男汁』に手首が漬け込まれてしまう。


「失礼します!」


アフ男は、扉の前で挨拶するとものすごいスピードで、読み取られないようにダイヤル錠を回すと部室の戸を開けた。窓にも暗幕がしてあり、中の様子は窺えない。
手を引かれるまま中に入ったその時だった。
風を切るシュン!という音と共にサバイバルナイフが、頬を掠めていった。
それと同時に、一斉に電気がつけられ一気に明るくなった。ナイフが飛んできたと思われる方向には、威厳たっぷりに腕を組んだ女性が立っていた。

「アフロ!遅いぞ!『軍規違反』だ!」

何を言っているの分らないが、アフ男はペコペコ頭を何度も下げた。

「で、その後ろの奴が例の転校生だな?」

可愛い顔立ちとは他所に、軍人口調である。

「はい、山田1等兵になりますです。はい。」

「ちょ!なんですか、人をこんなところに連れてきて『一等兵』って?!」


よく見れば、変人ばっかりだ。軍人口調の女性に、アフ男は勿論、ノートパソコンを尋常じゃない速さで打ち込む女性に、フラスコに試験管のモノを少しずつ混ぜて何かを調合している白衣の男。統一性のあった世界から、謎の世界に足を踏み入れてしまった。


「ふむ、なかなか威勢がいいな。命(みこと)収集したデータを」

軍服を着た女性が名を呼ぶと、ノートパソコンを打っていた女性の手が止まり、デスクトップに戻り、マウスを動かし1つのフォルダを開いた。

「山田裄成、16歳。7月3日生まれ。父親は、国際企業の社員。現在は日本の本社に在籍。英語が堪能です。母親は、通訳で7ヶ国語を話せ、世界を飛び回っています。現在は、ロシア国内にいます。当の本人は、30回以上の転校を経験。他はいたって普通。過ぎます。」


「詳しいな・・・って何でそんなこと知っているんですか?!!」

最後に、過ぎますと付け足したことに少し頭に来たが、僕について、よく調べられていた。しかも、僕や父でも知らない母親の居場所まで知っている。なんなんだ、ここの人たちは?!


「ふむ・・・・転校生という『貴重』な存在だっただけに期待しすぎたか・・・」


「ちょっとまて!何だよそれ????」


質問に、まったく答えてくれない軍人口調の女性に尚もしつこく聞く。
だが、次の瞬間、腰の脇に差していた軍刀らしきもを抜き喉元に突きつけられた。
変な汗が一気に噴出した。

「黙れ!上官が話しているときは黙るものだろ!」

一喝された。可愛い顔がやけにギャップをかもし出している。

「そうそう、君は一等兵なんだから~」

脇で、偉そうにしているアフ男がやけにムカつく。あのアフロをサンドバック代わりに殴って、毛を全部抜いてやりたいくらいだ。むしろ、火をつけてもっとチリチリにしてやりたい。

「あ、あの1つだけ・・・よろしいですか?」

「・・・いいだろう。」

とりあえず、話す機会はもらえた。情報部というものについて、聞いてみることにした。見るからに、怪しい人々に軍人口調の女性。聞かずにいろという方が無理である。

「じょ、情報部って何しているんですか・・・?」

「その名のとおりだ。情報を扱っている。」

その通りだ。それでは、何の解決にもなっていない。

「あ、えっと・・・」

つまり、軍の情報部とかそういう感じのシュミレーションというか、真似って言うか、週末はサバイバルゲームやってます!そういうことだろうと納得しかけた時だった。

「我々は、この永久に繰り返す時間から抜け出す為に組織されたのだ!」

「はぁぁ?!・・・あ!」


軍人口調の女性が、超がつくくらい真面目な顔で、拳をきつく握りしめ突き上げながらそういった。まるで、待ってましたかくらいの勢いで。僕は、色んな意味で驚いて思わず声を上げてしまった。

「そうだな、まだ『ケタ』には分らないか」

「?・・・けた?」

「裄成とは、随分生意気な名前じゃないか?そこで、分りやすくあだ名をつけてみた。どうだ?『ケタ』」

「桁じゃな~い!!!裄ですぅ!!」

け、ケタ。人生で、初めてつけられたあだ名が『ケタ』だった。つけられたこっちが恥ずかしい。それよりも、漢字を読み間違っているだろ!


「特筆すべき能力はないようだが、なかなか面白い奴だ。気に入った。」

「にゅ~ぶ決定~!」

そして、僕は情報部ついて何も知らないまま、勝手に入部にさせられた。可愛らしい声で、「にゅ~ぶ決定~!」と、言ったアフ男にさらなる殺意が湧いてきたことは隠しておこう。とても、この面子を見る限りでは、影にすら等しいと思うのだが・・・。

「では、任務を決めねばな。いるだけでは必要ない。」

「任務?!え?何のことですか?」

話は続いていた。

「第2学年の密偵(スパイ)に任命する!転校生は、誰と仲良くなってもおかしくは無いしな。使い勝手があるだろ?」

「あ、はい・・・・・はぁ?!!!!!!!!!!!!!」

宙返りしそうな奇声を発してしまった。こうして僕は、勝手に情報部に入らされ、影らしい仕事を任されたのであった。
永久に繰り返す時間から脱出するために活動していると言う、変人達(情報部)が織り成す奇奇怪怪な日々が幕を開けた。
・・・・ところで、スパイってどうやれば・・・・・?


「結局、僕は何も理解してないんですけど・・・」

<続く>






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最終更新日  2006.12.01 16:28:33


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