2007年11月06日
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第一話……たぶん

 昼食を終えたらすぐに司令所へ来るようにと連絡があった。折しも隣国との国境問題が風雲急を告げていたから、それに関する事だと思っていた。ただ呼ばれたのが俺と、同期の吉川だけというのが気にかかった。同じことを吉川も考えていたようですぐに俺の横に移動してきた。
「司令に呼ばれたよな」
「ああ、俺たちだけだろ」
「実はな……………」
「なんだ、理由を知ってるのか?」
意味ありげに言葉を切った吉川を見た。なんだ、妙に嬉しそうだなこいつ。
「いや、ここじゃまずい。外に出よう」
芋粥を掻き込んで俺は席を立った。



 皇国の東北部に位置する陽守(ひかみ)飛行場には主に対地攻撃を任務とする飛行隊がおかれている。隊には、国境を越えてやって来るであろう敵戦車部隊を真っ先に叩くべく開発された七六式襲撃機が主力として配備されている。今、索敵任務を終えて帰還してきたのがそれだ。尾翼に描かれている機番号から、お世辞にも操縦の上手くない新兵の機体であることが分かった。
「なんだあいつ、相変わらずだな」
吉川が嘲笑の声を上げる。滑走路に進入する時の旋回は見事だったが、着地するときにひどく機体をバウンドさせていた。繊細な機体だったら脚が折れているかひっくり返っているところだろう。まあ、あんな腕でも乗りこなせるのが、旧式な外観ながらも信頼性の高い七六式の特徴だった。遥か向こうでプロペラが停止したのを見届けると、吉川の話に戻った。
「俺たちが移動するのは今度来る航空兵と意思疎通を図るためなんだとさ」
「新兵配属は珍しいことじゃないだろ、なんで場所を変える?」
たった今帰還してきた新兵の機を指さして聞いた。吉川は待てよと言いながら話を続けた。
「それがさ、今度来るのは、女だそうだよ」
「え」
「おなごだよ」
そんなことは分かっている。今の時代、軍隊に女がいることは珍しくはない。レーダー監視や無線傍受、作戦図の更新などは女性の管制官が行っている。そういう女性と仲良くなるのに血道を上げてる奴だっている。しかし機上勤務者に女性というのはなかなか聞かない。
「まあ期待してみたりはするが、なんで俺たちなんだ」

そう、一ケ月前、国境付近で不時着した僚機の搭乗員を胴体後部に入れて救出したことがあった。帰還するや否や軍報道部がやって来て根掘り葉掘り聞き出されたあと、大きく公報に載せられたのだった。おかげで都では志願者続出だそうだ。正直、そいつらが死んだら俺のせいじゃないだろうか。
 司令所に着いた。吉川がノックをして、改まった口調で叫んだ。
「吉川、早見、入ります」
すぐに入れと返事が来た。少し重い戸を押して司令官室へと足を踏み入れた。
 この隊の司令官は割と物言いがはっきりしていた。それが好かれる要因でもあり、嫌われる要因でもあった。今回も例に漏れず、俺たち2人が整列すると黙って目の前に広がっている地図の一角を指さした。

うへえ、と聞こえない程度に吉川が息を漏らした。別に早朝の飛行と言うのが理由ではなかった。そんなことは何度でも経験したことがあるが、目的地がまずかった。晴岩飛行場とは陽守飛行場からやや南に下がったところに位置する飛行場なのだが、地上設備の貧弱さで有名だった。一度も遣られたことの無いことに今まで安心していたが………
「何か質問は」
「いえ、ありません」
「委細は向こうで知らされる。行ってよろしい」
指揮官にジロリと見られて反射的に答えた。司令は俺たちが女性航空兵と会うのを知っているのをなんとなく見抜いているようだった。敬礼をしてさっさと司令官室を出た。
 外はそろそろ夕方の空気が漂いはじめていた。遠くで整備員たちが機体をいじる音が響いている。国境での緊張から、最近は常に並べられている機体の列を縫うように歩きながら自分の気を探した。警備兵に軽く敬礼して、いつも座る操縦席でなく偵察員席を覗き込んだ。
 いつも一緒に乗っていた奴は、信号銃の暴発で足を怪我して後方へ行っていた。機体の底に低くうずくまっている革張りの偵察員席は、飼い主を待ち続ける忠実な番犬のように見えた。後方警戒用の機関銃も銃架から力なく垂れ下がっていた。俺は全体的に寂しげな席をしばらく見つめていた。
「どうも、よくないな」
今度来る航空兵がよく手入れしてくれることを願って、風防を閉めた。



これ、いつ書いたんだろうな……
結構数があったので載せマス。





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最終更新日  2007年11月06日 19時09分46秒
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