2007年11月07日
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第弐話……

 早朝、俺と吉川は飛行服に着替えて白米とニンニクの芽の炒め物を急いで平らげると機に向った。既に整備員の手で暖気運転が済まされていた。操縦席に滑り込んで落下傘のバンドを背もたれに引っ掛けるてベルトを締めた。俺たちには新兵の小隊を指揮するために准尉の階級が与えられた。基地の友人らに自慢できないのが残念だった。
 吉川も同じ手順で準備を済ませると、俺の機から滑走路に進入した。前方で”発進ヨロシ”の合図の旗が振られると俺は整備員たちに軽く手を振ってスロットルを上げた。加速している間、滑走路の微妙な凹凸が座席の下に直に感じられた。充分に速度がついてくると操縦桿を倒して機体を持ち上げた。機体から振動が消え、空中に放り上げられたのを確認した。
 充分に高度が取れた頃、吉川も速度を上げて俺の横に機体を並べた。見ると夜明け前の薄明かりの中で排気炎が青く光っていた。綺麗な光景で俺自身気に入ってるものではあるのだが、一応禁じられているのでスロットルを押さえるように吉川に合図して機首を南東に向けた。あとは数十分、まっすぐ飛ぶだけだ。横をまた見るとちゃんと排気炎は消えていた。操縦席の吉川が耳を指さしていたので俺は無線機にコードをつないだ。飛行ではつなぎっぱなしにしないといけないのだが、今みたいな時はほったらかしにしてしまうのが俺の悪いクセだと言われたことがある。つなぐと吉川の声が耳に入ってきた。
「聞こえるか?」
「感度良好」
「なに、数十分の飛行だ。気楽にやろうや」
「ああ…………ところで」
「どうした、まだ心配事か」

「ああ、まあ憶測だがな。どうやら国境問題の交渉がうまくいってないらしい。敵さんが来た際に飛行隊を出来るだけ分散させておきたいんだろう」
そういうことか……。どうやら戦は避け難い状況にまで来ているらしい。この地域一帯の地上攻撃や戦車隊の上空援護を担う我が部隊は真っ先に狙われるということだろう。また難儀なときに新兵は来るらしい。
それからは地上にキラキラと光って見える川やらを眺めたりしながら、俺たちは晴岩飛行場へ到着した。

・・・

 「吉川准尉、早見准尉、ただいま到着しました」
「基地司令の小浜である。道中ご苦労、兵舎に言ってよろしい。補充の兵は一一○○に到着する」
俺と吉川は飛行第九十戦隊の第五中隊、それの第四小隊の所属とされた。小隊が四つ集まって中隊、中隊が五つ集まって一つの戦隊となっているから、ようするに末尾の部隊になったわけだ。ただ俺と吉川では二機、小隊のあと二機がまだ来ていなかった。司令の話では補充の兵が担当するらしい。「こりゃ女ばっかの小隊になるぞ」と吉川は喜んでいたが、そんなことより俺は新しい環境にまだ戸惑っていた。
 あとでこの基地の戦闘機乗りたちの風景を遠くから眺めていたが、その辺に穴を掘って住んでいるらしいリスというかネズミのようなものをつつき出してそれをワイワイ言いながら追い回しているような日々だった。国境付近をウロウロする敵戦車の威嚇のための飛行に明け暮れていた陽守での生活とはえらい違いだった。時計を見ると十一時前、そろそろだと思って滑走路周辺に向った。
 駐機予定の場所に着いたのが、ちょうど爆音が聞こえはじめた頃で出迎えの整備員やらも集まってきていた。ただ均しただけに近い白い地面を輸送機の車輪が捉えた。滑走路ギリギリまで、俺たちの目の前まで来て停まった。整備員たちは機体にバラバラと駆け寄って行って車輪止めをかませたりしにかかった。
 すぐに機体の横についた大きな戸が開いてステップが現れ、十人程度の兵が降りてきた。そのうち数人は軍帽から垂れるほどの髪が見えた。例の女性兵士らだ。ぴったりとした詰め襟はまだあまり年期が経ってないように見える。数人はすぐに管制官らのいる建物に行ってしまった。俺たちの前に四人の兵が立って敬礼した。司令を始め、俺たちも敬礼で返す。
「今日より配属されます。ただ今到着しました!」



多分飛行場の名前はハワイにある軍用飛行場、ヒッカムとハレイワから取ってると思います。





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最終更新日  2007年11月07日 23時33分20秒
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