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テーマ: 臨戦刀術(92)
カテゴリ: 臨戦刀術


 行蔵が心服した が一人、心から感じた が一つある。
それは、時の宰相樂翁公松平定信の人物と、薩摩の示現流剣法とである。
 当時、世間のほとんど全部といってよいくらいに
かれを半狂人扱いした中に、樂翁公のみは、かれの真意を見抜いて激励し、
心からかれに同情したからであり、
 一つは己れのたてた武術に最も似通ったものが
示現流の精神であったからである。
 その事は、自著『鈴林扈言』に大略次のごとく述べているのでもわかる。

  ……古松軒(姓は古川、地理学者)が、ある時六十六部に身をやつして
 薩州に入り込んだ時、ある一家で、かけ聲をして木刀の音のするのを聞き、
 茶を乞うて喫しながらしばらくながめ廻して居ると、
 その先生と見えた人が、
 「六部は武藝がすきそうだが何をつかったのか。」
 と、たずねたので、小松軒は、
 「若い時鞍馬流をつかったが、気合いのおさめ方、などという事があって、
 甚〔はなは〕だむづかしかった。
 ところで、そなたの御流儀は何と申されるか。」
 と、反問した。すると先生は、
 「だた御流儀とばかりで別に名はない。また気合いの心持ちということもない。
 ただ大音聲をあげて刀を打ち込み、敵軍にかかってゆく勇気を引き興すだけの事だ。」

 と、簡単に答えたというが、そこの意味がはなはだ面白い。
武藝の根本はここにあって、ここが出来なければ、
いかほど手練ができても魂がないから、
芝居狂言のごときもので、事に及んで狼狽するばかり、
これを、武藝の習いだおれというのである。云々。


 行蔵の兵原草廬〔へいげん そうろ〕を描いた二つある。
一はその門弟森四郎という者の手記と、一は江戸の学者山崎美成の訪問記とである。
 前者の意訳略記すれば、

 ……式台には鎧数領、鉄砲十挺程かざり、式台を上って通った稽古場には、
 坊主畳三十畳敷で、それから居間へと通るのであるが、ここは十畳敷で、
 座の後方には刀架があり、六尺余の大刀に脇差を添え、
 左右には、数十の箱に入れた和漢の書籍が置かれ、
 具足櫃二、負荷一、数十本の槍がかけられ、床には巻物掛物数々ある。

 ……板戸には、武蔵野に髑髏〔どくろ〕を描いた書があり、
 それには自筆で、
 志士不忘在溝壑、勇士不忘失其頭、
 と書いてある。

 ……押入れには四斗樽一本を据え、それを時々栓口から出し、冷酒で飲用する。
 次の稽古場には、居台付き大筒三つ、四百目位の抱え砲二つ、
 二、三十目筒五挺、射込桶があり、鉄棒二挺、長刀、大鑓、木刀しなえ
 その他数々の武器が押入棚にあって、実に目を驚かすばかりである。
 稽古場はあまり破損していないが、居間は甚だいたみがあってきたない。
 庭前には草が茫々と茂っている。

 山崎美成の随筆を略記すれば、

 ……入り口の木戸を入ると玄関のわきには芭蕉が茂って、
 羽目には蔦が這いまつわっている。
 玄関には、行蔵自筆の「鞱略書院」と認めた額が掲げられ、
 掛け札には「他流試合勝手次第、飛道具其外矢玉にても不苦」と記してある。
 玄関の次はすぐに稽古場、その次が居間で、
 子龍は木綿の袷〔あわせ〕の上に陣羽織を着て机に対していた。
 梅漬や漬大根を肴に、冷酒を出し、激談がはずむ。
 四辺を見ると、庭の草は縁より高く生い茂っている。
 稽古場には、車に乗せた一貫目筒が一挺、
 三百目、四百目、百目、五十目、三十目筒が七挺ある。云々。

 ……六十一の賀に拵えたという五尺ばかりの角鍔の刀を出して示し、
 また關の兼永の作刀一を示す。
 中心〔なかご〕には、「馬場美濃」とあり。
 裏には、「長蛇三尺之義心、勢如巻風砂」の十二文字を金象眼にてあらわしている。
 鉄杖を出し、
 「年が寄って今では少々重い。」
 と云ったその銘字は、「嗚呼棒根、勢如長蛇、天魔盡殺」とある。云々。






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Last updated  2015年04月11日 02時07分45秒


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