壮年の森 放浪日記

2007年03月04日
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カテゴリ: 随想

 「今日、寿司食べにいくんでしょ」 火曜日の朝、朝食を終え、そろそろ出勤しようとした只野に聞こえてきた愚息3の言葉である。

 「そうだ、この間言ってたでしょ」 家内の言葉が覆い被さってきた。実は只野はそのことを忘れていた。酔っているときに決めたものと推測することになる。

 折しもその火曜日に只野は、2年越しの仕事に区切りをつける予定になっていた。そういう意味ではいいタイミングである。財布の中は相変わらず寂しいのであるが。

 回転寿司である。すでに予約済みであり、いい席に座る。平日というのはやっぱりよい。あきらかに休日より空いていることになる。

 只野はもっぱら飲むことになる。お造りと天ぷらを頼むことにした。愚息2,3はひたすら食べている。愚息1はゲームの時間がもったいないという理由でついてこなかった。親としては残念ということになるが、資金管理者としてはありがたいことになる。

 子どもというのは、食べるだけ食べたら動き出すことになる。さらに2人ということになるとなかなか手に負えない。只野を残して、他の人たちは外で待つことになった。

 只野の注文はあと1品来ていなかった。シロエビのかき揚げである。向こう側には待ち客が見える。この特等席に一人でいるのは忍びないと思うことになる。只野はかき揚げをさっさと平らげて店を出ようと思っていた。

 ところがである。登場したシロエビのかき揚げというのは、サツマイモを細く切って15cm四方の網目にし、そこにシロエビを敷き詰めて揚げたものを2枚、あたかも合掌造りの藁葺き屋根のように立てかけたものであった。「そんなつもりではない」只野は心の中でつぶやいた。

 「これは困ったことになった。」只野はそれも思った。ただでさえ待ち客の目を気にしつつ、特等席を一人陣取って飲み食いしているのである。その待ち客の目を隠すかのように大きく出てきたシロエビのかき揚げに、只野はひたすら戸惑いの色を濃くすることになった。

 寿司屋でこんなに焦ることになるとは思わなかった。待ち人にかまわず飲み食いしているように見えるが、そんなつもりはないと、只野は心の中で叫んでいた。

 「次回があるとしたら、シロエビのかき揚げはご遠慮したい」只野はそれも思っていた。






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最終更新日  2007年03月04日 13時59分46秒
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